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【第8部〜龍戦争〜】
第58話 由子の秘密【第8部完】
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「う…んっ…。あれ?パパ、ママになっちゃったの?」
膝枕をしていると望が目を覚ました。
「望…パパが分かるの?」
「分かるよ。パパは私が生まれる前、女の人で世界の歌姫だったでしょう?私はパパを目指して頑張ったのよ」
望が視線を少しずらして、潤を見ながら言った。
「ママまで男の人になっちゃってるよ!どうしたの?」
望の姿は20歳で、私と同じ年齢にしか見えない為に、傍目から見れば親子ではなく姉妹に見える事だろう。私達3人を織田の兵や、神魔の兵達が暖かく見守っていた。
「危ない!」
由子だけがそれに反応して私達を突き飛ばすと、自分は攻撃を受けて腹に風穴が空き、上半身と下半身が分かれて地面に落ちた。
「ぐうっ…」
「由子ー!」
攻撃した者を振り返り見ると、アインシュタインの自動機械人形だった。
「まだじゃよ、まだやれる…リーゼル、待っておれよ」
「アインシュタイン…どうして!?」
「1度は素直に捕縛されたわぃ。じゃが、お前さんが獄卒を皆殺しにしたお陰で、儂もサタンも解放された。それで思ったのじゃ、冥界の門を破壊すれば地上に出れるんじゃないのかと」
「それでサタンが、門を破壊したのね?でも出て行ってどうするの?生まれ変わったリーゼルは、例え前世の記憶が戻ったとしても赤子のまま亡くなったから、父親の記憶なんて無いわ」
「構わぬ。儂が娘の側で見守れさえすれば、それでええんじゃ!」
悲しいまでの娘への思いが強すぎて、狂気に走ったアインシュタインだ。同じ娘を持つ親として、その気持ちは痛いほど理解出来る。
「ごめんなさい…アインシュタイン…。貴方も娘を思う1人の親…。さよなら、生まれ変わったら、娘に会いに行きなさい…」
光魔法最高クラスの浄化呪文を唱えた。アインシュタインは、浄化の光に包まれると光の結晶となって散った。
「終わったのか…?」
由子が息も絶え絶えに尋ねて来たので、駆け寄った。
「由子、ごめんなさい。魔力がもう無いの。後で必ず生き返らせるから…」
「その必要は無い…。思い出したんだ…、私はお前…お前は…私。私は…お前が生まれ変わったうちの1人…だ。だから…その必要は無い。私もお前の…中で…眠るとす…」
由子の手を握り締めていると身体が透けて消え、私の中に入って来る様な感覚があった。
“模倣弍式を習得致しました!”
頭の中で声が響いたのでステイタスを確認すると、模倣弍式を覚えていた。
『模倣弍式』
呪文を唱えると、私の姿は由子になっていた。
「…分かるよ…由子…。これが貴女が見ていた世界…」
由子になってステイタスを確認すると、今までの誰よりも高いステイタスだった。
「由子は、私の中で生きている」
由子は、私の生まれ代わりの1人だった。通りで初めて会った時から、知っている気がしていた。
冥界での戦いから7年経っていた。私は冥界の秩序を立て直すと言う名目で天界に帰らず、潤と望と3人で暮らしていた。
この冥界にも統治者が必要である為、閻魔王を「黄泉替反魂」で生き返らせて、手駒とした。これで閻魔が私達に歯向かう事は無くなった。
実は大魔王サタンも、生き返らせて魔界を統治させた。魔界は私が天界と一緒に統治していたが、限界を感じていたので助かった。
天龍界は黄帝に守らせていれば安心だ。これも全ては、来るべき戦いに備えたものだ。
「嫌だ、絶対に帰らない!」
何度も催促に来る天界の使者が、鬱陶しかった。私はここ冥界で、潤や望と家族として暮らしていた。
「貴女がここにいる事で、彼らは輪廻転生が出来ないんですよ?」
そう説得された。そんな事は分かっている。しかし、転生した潤や望と再び家族になれる保証は無いし、離れ難い。何度も天界に戻ろうと考えが、その度に後ろ髪を引かれて戻る事が出来なかった。
「パパ、もう良いよ。十分に愛情は伝わったよ。私もそろそろ良い加減、転生したいよ」
望に言われると、ポロポロと涙がこぼれた。ここはいつまでも生者のいる場所では無い。私の我儘で、転生出来るはずの彼らが転生出来ずにいる。未練がましい家族ごっこの続きを、行っているだけだと言う事も理解している。
「分かった…もう、行くね。きっとまた会いましょう。輪廻転生したあなた達は、きっと私の事を覚えていない。でも私は、覚えているから…絶対に会いに行くわ」
潤と望にハグをして別れ、冥界の門を目指した。
「うええぇぇん、帰りたくない。帰りたくないよ…」
泣きながら門をくぐって地上に出ると驚いた。そのあまりの荒地ぶりに。すっかり忘れていたけど、赤龍帝である劉邦軍の核ミサイル攻撃によって、人類は滅亡寸前にまで追い込まれていた事を思い出した。
荒れ果てた大地。そうだ、魔法箱の中に魔王アーシャを入れたままだった。
「これはもう、死者蘇生でどうにか出来るレベルを超えているよ…」
アーシャの時間魔法で、時を戻してもらう事にした。どこまで遡るのか分からない。不老不死である私は、時間が戻っても周りの環境が変化するだけで、記憶は全て残ったままとなる。人間界で時間を戻すと、影響を受けるのは人間界だけだ。従って、時間を戻したからと言って、冥界や天龍界が影響を受ける訳では無く、閻魔や黄帝を倒す以前に戻ると言う事は無いのだ。
「アーシャ、お願い…」
アーシャが呪文を唱え始めると、私は目を閉じた。再び目を開けると、高層ビルが立ち並び、大勢の人達が忙しく小走りに歩いていた。見慣れた街並み、景色がそこにはあった。
「これは…横浜?」
日吉駅からグリーンラインを使って、港北区のセンター南駅へと向かう。私が横浜にいると言う事は、いつの時代だろうか?
センター南駅から左方面に向かうと、ホームセンターが見えて来る。そこからは、私の自宅は近い。少しだけ期待し、家が近づくにつれて胸が高鳴り、私は自然と駆け出していた。
「瑞稀ー!」
声に反応して振り返ると、そこには小百合達がいた。
「瑞稀、行くよ!」
「何処へ?」
「私達の事務所を紹介するって言ってたじゃない?」
私は天を仰ぎ見て涙を流した。私がアイドルになる前の、綾瀬潤と出会う前の時間まで巻き戻ったのだ。
(もう1度、潤と望に会える…)
アーシャは粋な計らいをしてくれた。これほど嬉しい事は久しく無かった。
「瑞稀、泣くほど嫌だった?」
「ううん、違うの。嬉しいのよ…もの凄く」
私は笑顔で小百合達に微笑んだ。
~【龍戦争編】Fin~
膝枕をしていると望が目を覚ました。
「望…パパが分かるの?」
「分かるよ。パパは私が生まれる前、女の人で世界の歌姫だったでしょう?私はパパを目指して頑張ったのよ」
望が視線を少しずらして、潤を見ながら言った。
「ママまで男の人になっちゃってるよ!どうしたの?」
望の姿は20歳で、私と同じ年齢にしか見えない為に、傍目から見れば親子ではなく姉妹に見える事だろう。私達3人を織田の兵や、神魔の兵達が暖かく見守っていた。
「危ない!」
由子だけがそれに反応して私達を突き飛ばすと、自分は攻撃を受けて腹に風穴が空き、上半身と下半身が分かれて地面に落ちた。
「ぐうっ…」
「由子ー!」
攻撃した者を振り返り見ると、アインシュタインの自動機械人形だった。
「まだじゃよ、まだやれる…リーゼル、待っておれよ」
「アインシュタイン…どうして!?」
「1度は素直に捕縛されたわぃ。じゃが、お前さんが獄卒を皆殺しにしたお陰で、儂もサタンも解放された。それで思ったのじゃ、冥界の門を破壊すれば地上に出れるんじゃないのかと」
「それでサタンが、門を破壊したのね?でも出て行ってどうするの?生まれ変わったリーゼルは、例え前世の記憶が戻ったとしても赤子のまま亡くなったから、父親の記憶なんて無いわ」
「構わぬ。儂が娘の側で見守れさえすれば、それでええんじゃ!」
悲しいまでの娘への思いが強すぎて、狂気に走ったアインシュタインだ。同じ娘を持つ親として、その気持ちは痛いほど理解出来る。
「ごめんなさい…アインシュタイン…。貴方も娘を思う1人の親…。さよなら、生まれ変わったら、娘に会いに行きなさい…」
光魔法最高クラスの浄化呪文を唱えた。アインシュタインは、浄化の光に包まれると光の結晶となって散った。
「終わったのか…?」
由子が息も絶え絶えに尋ねて来たので、駆け寄った。
「由子、ごめんなさい。魔力がもう無いの。後で必ず生き返らせるから…」
「その必要は無い…。思い出したんだ…、私はお前…お前は…私。私は…お前が生まれ変わったうちの1人…だ。だから…その必要は無い。私もお前の…中で…眠るとす…」
由子の手を握り締めていると身体が透けて消え、私の中に入って来る様な感覚があった。
“模倣弍式を習得致しました!”
頭の中で声が響いたのでステイタスを確認すると、模倣弍式を覚えていた。
『模倣弍式』
呪文を唱えると、私の姿は由子になっていた。
「…分かるよ…由子…。これが貴女が見ていた世界…」
由子になってステイタスを確認すると、今までの誰よりも高いステイタスだった。
「由子は、私の中で生きている」
由子は、私の生まれ代わりの1人だった。通りで初めて会った時から、知っている気がしていた。
冥界での戦いから7年経っていた。私は冥界の秩序を立て直すと言う名目で天界に帰らず、潤と望と3人で暮らしていた。
この冥界にも統治者が必要である為、閻魔王を「黄泉替反魂」で生き返らせて、手駒とした。これで閻魔が私達に歯向かう事は無くなった。
実は大魔王サタンも、生き返らせて魔界を統治させた。魔界は私が天界と一緒に統治していたが、限界を感じていたので助かった。
天龍界は黄帝に守らせていれば安心だ。これも全ては、来るべき戦いに備えたものだ。
「嫌だ、絶対に帰らない!」
何度も催促に来る天界の使者が、鬱陶しかった。私はここ冥界で、潤や望と家族として暮らしていた。
「貴女がここにいる事で、彼らは輪廻転生が出来ないんですよ?」
そう説得された。そんな事は分かっている。しかし、転生した潤や望と再び家族になれる保証は無いし、離れ難い。何度も天界に戻ろうと考えが、その度に後ろ髪を引かれて戻る事が出来なかった。
「パパ、もう良いよ。十分に愛情は伝わったよ。私もそろそろ良い加減、転生したいよ」
望に言われると、ポロポロと涙がこぼれた。ここはいつまでも生者のいる場所では無い。私の我儘で、転生出来るはずの彼らが転生出来ずにいる。未練がましい家族ごっこの続きを、行っているだけだと言う事も理解している。
「分かった…もう、行くね。きっとまた会いましょう。輪廻転生したあなた達は、きっと私の事を覚えていない。でも私は、覚えているから…絶対に会いに行くわ」
潤と望にハグをして別れ、冥界の門を目指した。
「うええぇぇん、帰りたくない。帰りたくないよ…」
泣きながら門をくぐって地上に出ると驚いた。そのあまりの荒地ぶりに。すっかり忘れていたけど、赤龍帝である劉邦軍の核ミサイル攻撃によって、人類は滅亡寸前にまで追い込まれていた事を思い出した。
荒れ果てた大地。そうだ、魔法箱の中に魔王アーシャを入れたままだった。
「これはもう、死者蘇生でどうにか出来るレベルを超えているよ…」
アーシャの時間魔法で、時を戻してもらう事にした。どこまで遡るのか分からない。不老不死である私は、時間が戻っても周りの環境が変化するだけで、記憶は全て残ったままとなる。人間界で時間を戻すと、影響を受けるのは人間界だけだ。従って、時間を戻したからと言って、冥界や天龍界が影響を受ける訳では無く、閻魔や黄帝を倒す以前に戻ると言う事は無いのだ。
「アーシャ、お願い…」
アーシャが呪文を唱え始めると、私は目を閉じた。再び目を開けると、高層ビルが立ち並び、大勢の人達が忙しく小走りに歩いていた。見慣れた街並み、景色がそこにはあった。
「これは…横浜?」
日吉駅からグリーンラインを使って、港北区のセンター南駅へと向かう。私が横浜にいると言う事は、いつの時代だろうか?
センター南駅から左方面に向かうと、ホームセンターが見えて来る。そこからは、私の自宅は近い。少しだけ期待し、家が近づくにつれて胸が高鳴り、私は自然と駆け出していた。
「瑞稀ー!」
声に反応して振り返ると、そこには小百合達がいた。
「瑞稀、行くよ!」
「何処へ?」
「私達の事務所を紹介するって言ってたじゃない?」
私は天を仰ぎ見て涙を流した。私がアイドルになる前の、綾瀬潤と出会う前の時間まで巻き戻ったのだ。
(もう1度、潤と望に会える…)
アーシャは粋な計らいをしてくれた。これほど嬉しい事は久しく無かった。
「瑞稀、泣くほど嫌だった?」
「ううん、違うの。嬉しいのよ…もの凄く」
私は笑顔で小百合達に微笑んだ。
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