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【第8部〜龍戦争〜】

第55話 狂気と悲しみ

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 ガシャンガシャンと音を立てて入って来たのは、アインシュタインと思われる白衣を着た自動機械人形オートマタだった。
 由子が反応して斬り掛かったが、アインシュタインは制止した。
「止めた方が良い。何の策も無く、お前さん方の目の前に現れたと思うかね?例えば儂が機能停止したら、その娘も爆死するとか考え無いのかね?それにバックアップデータを移した自動機械人形オートマタが、これだけだとでも思うのかね?」
 無駄な労力だから、止めた方が良いと言っているのだろう。科学者は合理的に考えて動く。しかしそれならば、片っ端から全ての自動機械人形オートマタを倒せば良いのでは?とか思ってしまう辺り、私は凡人なのだろう。
「望は絶対に渡さないわ!それに冷静に考えたら、ここは冥府じゃないの。この世界では永遠の時を生きられるはずなのに、何故サイボーグになったのよ?」
「…」
「えっ?ま、まさか…今気付いたの?」
「天才と馬鹿はまさに紙一重だな」
「黙れ!それでも儂は、若い身体が欲しいのじゃ」
 私は、水溶液が入ったガラスを割って望を助け出した。
「その娘を連れてそこから1歩でも動けば、粉々にする。ただ爆死するだけではないぞ?瞬時に毒と強酸で溶けて塵も残らんわぃ」
「望を渡すくらいなら、一緒に死ぬわ」
「ははははは…愚かよの。娘だけが死んで、お前さんは生き返るじゃろう。塵も残さず亡くなった娘を生き返らせる事も出来ずに、後悔する事になるぞぃ?」
 どうすれば良い?どうすれば、この窮地を逃れられる?望を渡さなければ望は死に、望を渡しても身体は望で中身はアインシュタインとなってしまう。これはもう詰みでは無いのか。絶望で目の前が真っ暗になり、目眩めまいがして頭がクラクラした。
「難しく考え過ぎだ、お前は」
 由子は抜剣して、自動機械人形オートマタのアインシュタインを細切れにした。望が爆発するのでは無いかと肝を冷やしたけど、大丈夫だった。
「停止させずに、動けなくなるまで解体してやれば良いだけだろう?」
 由子は事もなげに言ってのけたが、そんな芸当が可能なのは由子の技量だけだ。
「バックアップなど幾らでも可能だ。無駄な事は止めるが良い」
 奥からまた、他のアインシュタインの自動機械人形オートマタが現れた。
「何体現れ様とも、その全てを破壊するまでだ」
 由子は吐き捨てる様に言って、剣を構えてにじり寄った。
「そこまでして、私の娘の身体を手に入れたいの!?」
「ああ、手に入れたいとも!リーゼル…待っていろ、あと少し、あと少しの辛抱だ。お前の為に、強い身体を手に入れてみせる」
「リーゼル?まさか自分の娘の脳をバックアップするつもりなの!?」
 アインシュタインは最初の妻ミレヴァ・マリッチとの間に長女が生まれているが、猩紅熱しょうこうねつわずらって、1歳7ヶ月で亡くなった娘がいる。その娘であるリーゼルの脳を他人の身体にバックアップをしたが、器の身体が保たなかった為にバックアップを繰り返し、強い身体に移し替えようとしているのだ。
「自分では無くて、娘の為だったのね…」
「不憫じゃろう?天は、神は平等などでは無い。何故まだ幼い我が子を天に召したのじゃ?神がいるのなら、娘を生き返らせてくれぃ。だが神など存在しない…儂が信じるものは科学の力のみ」
「待ちなさいよ!今、貴方の目の前には神がいるわ。私が生き返らせてあげるから、もうこんな事は止めて!貴方の娘が大事な様に、私も娘が大事なの」
「生き返らせる?ははは…無理じゃよ…お前さんの『死者蘇生リアニメーション』は、塵の一欠片からでも生き返らす事が出来る代わりに、塵の一欠片でも残っていなければ効果の無い魔法じゃ。リーゼルは…塵も残ってはおらんのじゃよ…」
 アインシュタインは、悲しみが狂気に変わったマッドサイエンティストだった。同情はするけど、赦す訳にはいかない。
「脳のバックアップまで取っているのよ、塵の一欠片も残って無いなんて事があるのかしら?絶対に何処かにあるはずよ!」
「…あると言えばある。無いと言えば無い。バックアップするのに脳の質量が足りず、培養したものが…」
「培養したと言っても、オリジナルを培養したのよね?試してみる価値はあるかも」
「失敗したらどうなる?まさか全てを失くしたりせんじゃろうな?もし、そうなったら、絶対にお前さんを許さんぞぃ」
「私だって半信半疑でやるんだから、脅さないでよ。培養した一部だけを取り出すとかは出来ないのかしら?」
 アインシュタインは実験用や、複数のバックアップを取る為に、リーゼルの脳を培養していた。培養液にひたされた脳の1つを受け取って、呪文を唱えた。
死者蘇生リアニメーション
 しかし全く変化は無かった。他の培養された脳を使ってみたが、同様だった。
「何じゃ、どうなっとるんじゃ!」
「培養されたものはオリジナルでは無くなったからダメ…と言う事では無さそうね」
 私は腕を組んで、「う~ん」とうなった。
「もしかすると…これは、閻魔に聞く必要があるわね」
「どう言う事か説明しろ!このまま逃げるつもりじゃないだろうな?」
「腐っても神なのよ、私は!そんな事するはずが無いでしょう?良いわ、死者蘇生リアニメーションが効かない可能性として、貴方の亡くなった娘さんは生きているの。と言っても昔の姿で生きているのでは無いわ。人間はね、五戒を守れば輪廻転生するのよ。新しく生命を宿して、新しい人生を送っているかも知れないのよ」
 五戒とは、不殺生・不偸盗ふちゅうとう・不邪婬・不飲酒・不妄語の5つの事で、殺人、窃盗、強姦、飲酒、嘘の5つを行わない事によって輪廻転生が出来ると言う仏教の教えだ。赤子のまま亡くなったリーゼルは、当然この五戒を守っているから輪廻転生している可能性が高いのだ。その権限を持つ者はこの冥界では唯1人、閻魔王だけだ。だからリーゼルが輪廻転生したか聞きに行くのだ。
 私達は信長と閻魔王の戦場へと向かった。

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