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【第8部〜龍戦争〜】

第43話 大魔王サタンの脅威⑨

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 甘粕景持は見事な死に様だった。お館様(上杉謙信)を少しでも遠くに逃す為に、息絶える寸前まで立ち塞がり、仁王立ちしたまま息を引き取っていたそうだ。武田信玄も甘粕景持が、いつ亡くなっていたのか分からなかったらしい。
 見事な武者ぶりに丁重に葬ってくれたそうだ。信玄の敵ながら粋な計らいに感謝した。
「城を失った我らは、どうするべきか?」
「私がこの水塞と同盟を結びに来たのを忘れましたか?私達の城まで逃げ落ちましょう」
 神魔と合流すれば、兵も武器も食糧もある。それに神格を得たとは言え、彼らは肉弾戦にこそ強いが、誰一人魔力を持つ者がいない。魔法攻撃に対処出来るとは思えなかった。
 翌朝、私達の城に向けて急行した。
ポゥー!(報告!)敵の伏兵です!」
 敵の伏兵は3隊だった。総勢50万はいる。織田軍は250万ではなく300万だったのだ。我らの退路を断つべく、遊軍50万を伏せていたのだ。
 こちらは20万強だが、疲労困憊ひろうこんぱいの私達には、迎え撃つ力は残っていなかった。
大哥ダーグァ(成吉思汗)、先を急いで下さい。信玄の目的の1つは、それがしにあります。時間を稼ぎます」
 そう言うと、300騎あまりを率いて敵に向かって行った。敵の旗印から察すると、島左近と他に2将だが、遠くて旗印が見えなかった。

「謙信殿の覚悟を無駄にするな!急げ!」
 昼夜兼行して逃げた。追い付かれれば全滅すると言う思いを1つに、誰も不満を口に出す者はいない。
 4日目にして遂に辿り着く事が出来た。城門が開いて中に入った瞬間、力尽きて意識を失う者が多数出た。救護班がせわしく介護に当たる。
陛下ビーシャア、よくぞ無事お戻りに、皆が心配しておりました」
「何処まで詳細を知っている?」
「はい、間者スパイを放っておりましたので、およそは…」
「流石ね。すぐに全員を会議室へ」
 第六天魔王・織田信長の軍勢への対抗策を練った。

「ようやく会えたな」
 信玄は嬉しそうに謙信を幕舎に迎えた。あれから謙信は、島左近の軍に突撃して一騎討ちをした。島左近も強かったが、それ以上に上杉謙信は強かった。寄せ付けずに槍を払い上げた。そこへ吉川元春の軍勢が攻めて来たので、大人しく投降したのだ。
「私の立場は何だ?捕虜か?客か?」
「勿論、客に決まっておろう?」
「客か?それならば、自由に去れるな?では立ち去ろう」
「待て待て待て!儂の気持ちは知っておろう?まさかあの上杉謙信殿が、約束を違えたりはしまい?どうじゃ、儂の勝ちじゃろう?儂のモノになれ、生涯大切にすると誓う。お主が望むなら、側室も取らぬ。お主だけを愛すると誓う。どうじゃ?」
 上杉謙信は黙って頷いた。
「そうか、そうか!ようやく認めてくれたか!?は、ははははは…めでたい!めでたいのぉ」
 それから3日ほど宴会を行い、4日目に祝言(結婚式)を挙げた。
「くふふふ、初夜じゃ。これでようやく、儂のモノに…」
 新婦の待つ幕舎の帷を開けて入った。
「謙信、謙信、何じゃ酔い潰れて寝ておるのか?」
 掛けられていた布団を剥ぐと、悲鳴を上げた。謙信は自ら短剣を心臓に突き刺して自害してた。敢えて捕らわれ、祝言を挙げる事にしたのは成吉思汗チンギス・ハーン達が無事に逃げ切れる時を稼ぐのが目的であった。目的は遂げられ、その死に顔には笑みがたたえられていた。
「何故じゃ?どうしてじゃ?これから、これからと言う時に…おぉ、おぉぉ…」
 信玄は嘆き悲しみ、その行き場の無い最愛の女性ひとを失った哀しみと怒りは、憎悪となって成吉思汗チンギス・ハーンに向けられた。
「あの男だ。あの男のせいで儂の大切な謙信おんなを失ったのじゃ。あの男のせいで…」
 怒り狂った信玄は怒鳴った。
「騎馬隊は全軍全速前進!儂に続け!歩兵は後から来い!」
 この出来事の2日前には成吉思チンギス軍は城に入り、英気を養った。上杉謙信が生命をかけて作ってくれた時間だ。1秒たりとも無駄には出来ない。入城した日は、半日ほど死んだ様に眠っていたが、それからは皆な不眠不休で働いた。
 それから更に2日後、武田軍は現れた。
「早い、早過ぎる。兵は神速をたっとぶと言う。見事な采配だ」
「流石は武田信玄…風林火山は伊達じゃないわね」
 私は城壁から見下ろした。まだ隊列も整えられてはいない。昼夜兼行して来たのだろう。疲労の色が見える。
「狙うは信玄の首1つ!続け!」
 関羽が、韓世忠が、柴田勝家が仇討ちと、まだ足並み揃わない武田軍に飛び込んだ。更に歩兵軍は剣聖・上泉信綱が、近藤勇ら新撰組が襲いかかった。
 怒号と悲鳴が入り混じり、剣と剣がぶつかり合う激しい金属音が途切れる事は無かった。双方共に兵は退かず、夜通し戦っていた。昼前に武田軍の歩兵部隊がようやく合流した。彼らは夜通し走り抜けていた為に、既に力尽きており、そこへ無傷の前田慶次が騎馬隊500騎で突撃し、蹴散らした。
「降伏する者は赦す!歯向かう者は殺す!」
 前田慶次が恫喝すると、歩兵軍は降伏した。それほどまでに疲労困憊しており、戦うどころでは無かったのだ。しかし戦国最強と呼ばれた武田軍は強かった。だが真田幸村や山県昌景など武田が誇る猛将達は、怪我の治療でここにはいない。前田慶次は、殺せばそれで終わりだが、怪我をすれば治療をするので軍に影響を及ぼす。それを読んで、敢えて殺さなかったのだ。30万の武田軍も、ここには20万足らずしかいない。
「ここが正念場だ!気合いで踏みとどまれ!」
 数の上では互角だ。敵の遊軍が50万との情報は入っている。ここで武田軍を倒して吸収すれば、織田の本隊とも戦える。死力を振り絞った。そこへ上空から魔道部隊が、雨嵐の様に攻撃魔法を振らせた。
「勝った!」
 上空からの魔法矢マジックアローには、耐えられなかったみたいだ。息も絶え絶えの信玄の前に降り立った。
「私は死んだ人を生き返らせられるのよ。だから柴田勝家とかも生きてるでしょう?降伏するなら、貴方の配下は生き返るし、貴方の愛しい上杉謙信殿も勿論、生き返らせる。今度は同じ陣営で仲睦まじく暮らせるのよ?」
 信玄は降伏した。何にも変え難い存在だと言って、謙信を生き返らせて欲しいと頼まれた。こちらとしては、最初からそのつもりである為、是非も無い。
 苦しい戦いだった。だがこれはまだ、織田軍と戦い始めたばかりなのだ。
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