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【第8部〜龍戦争〜】

第35話 大魔王サタンの脅威①

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 意識を取り戻すと、衣服は整えられてベッドに寝かせられていた。手足の鎖も外されていた。
「ここは…」
 まさか超強力催眠ヒュブノに掛けられて、夢の中なのかも知れない。母に甚振いたぶられたのも、実は夢だったのかも知れない。
 何が何だか分からず、頭が混乱して来た。そこへ母が入って来た。
「お母さん…一体何がしたいの?私を甚振いたぶったかと思えば、介抱するなんて理解出来ないよ」
「どうせ貴女には、何をしても死なないでしょう?それに何をしに冥界まで来たのか知らないけど、直ぐに帰りなさい。ここは生者の来る所では無いわ」
「お母さんの秘密主義には辟易してるのよ!お願いだから教えて。何をしようとしているの?」
 私はベッドから半身を起こして質問した。母は後ろを向いて数歩、歩き出したが立ち止まって振り返った。
「貴女は母を嫌っているかも知れないけど、それでも貴女は私から生まれた可愛い娘なの。厳しくしつけ過ぎて誤解されているけど、私は貴女を愛しているの。自分のお腹を痛めて生んだ子が、可愛いく無いはずが無いじゃないの」
「お母さん…」
 母がこんな事を言い出すなんて、私は涙を溢れさせて聞いていた。
「アレはね、絶対に冥界ここから出してはいけないのよ」
「アレって何?何なの?」
 いつも自信に満ち溢れた母の表情は、見た事も無いほど絶望の影で曇っていた。
「大魔王サタンよ…」
「サタン!?」
「かつて私と貴女のお父さん(唯一神ヤハウェ)が神々の軍団を率いて、やっとの思いでこの冥界に封印したのよ。封印するのが精一杯だった…倒す事など出来なかったのよ」
「封印したって事は、サタンは死んでいなくて、生者なの?」
「そうよ。冥界ここは、死者の国。生者であるサタンは、いずれ必ず封印を解いて冥界ここを出る事になる。それが天界なのか地上なのか分からないけど、そんな事になれば、世界は滅びるわ。だから封印を掛け直す必要があったのだけど、何者かがサタンを起こしたのよ」
「そんな…信じられない。お母さんでも封印が精一杯だったなんて本当なの?」
「サタンの正体は、七つの首を持つ最強最悪のドラゴンよ。その首1つ1つが、応龍の10倍以上も強いの」
 とても信じられなかった。私達は応龍相手に結局、1度も勝つ事は出来なかった。その応龍より10倍も強いだって?しかもそんな首が7つもあると言う。
 確か予言の書には、サタンが天界に戻って最終戦争ハルマゲドンを起こすと書いてあったはずだ。そして、その戦争は大魔王サタン側が勝利するともある。
 母はその予言を知っていて、阻止したいのだろう。
「分かったかしら?理解したなら直ぐに地上に戻りなさい。ここは生者の来る所では無いわ」
 私はベッドから起き上がると、母の手を取った。
「お願い。お母さんの手伝いをしたいの」
「…貴女に出来る事なんて有るかしらね?」
 母が部屋から出て行くと、部屋の扉は再び閉ざされた。

 来夢はお湯をかけられて、凍った身体は溶けて動ける様になっていた。
「首領、ここまで舐められても黙っているんですかぃ?」
 激昂した将達が、いきり立っていた。殺気で充満するとばりの中で、成吉思チンギスは開戦に踏み切った。亡くなった楊太眼ヤン・タイイェンや斎藤一らを手厚く葬り、喪が明けるまで待つ事とした。
 そこへ連れ去られたアナトからの書状が届いた。女帝はアシェラで、アナトの母である事。亡くなった者達は、アナトが生き返らせる為、水に流して欲しいと。その為の条件は、アシェラとの同盟を結ぶ事と書かれていた。
「来夢殿、ここに書かれている事は事実か?」
「はい、間違いありません。女帝の姿も凍らされる前に見ましたが、アナトの母アシェラでした。それにアナトなら、亡くなった者を生き返らせられると言うのも本当です」
「なるほど。どう思う兄弟達?」
「儂は反対だ。信用のおけない者達との同盟など出来ぬ」
 副頭領である上杉謙信が発言すると、それに続く者が現れた。
「いや待て待て、それではヤン大哥ダーグァ(兄貴)を失ったままになる。生き返らせられると分かっているのに、それをしない訳にはいかない」
 それからは、反対派と賛成派に分かれて議論を繰り返したが、先ずは亡くなった者達を生き返らせてからの話だ、と言う事に落ち着いた。
 後日、陣営を隔てて対峙すると、成吉思チンギスの命令で祭壇が作られ、そこに楊太眼ヤン・タイイェンらの首が入った木箱が置かれた。
 アシェラの陣営から、私は歩いて祭壇へと向かい、呪文を唱えた。
死者蘇生リアニメーション!』
 3人の将は生き返った。歓喜の声で迎えられた。そのまま私が2つの陣営の間に入り、盟約の儀を執り行う司会となった。互いに酒に血を垂らして、それを飲んだ。
「これで今日から我らは姉弟きょうだいだ。いついかなる時でも、この盟約を破らぬ事を誓う」
 2人が同時に宣言を行うと、歓声と拍手が起こった。

 
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