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【第8部〜龍戦争〜】

第33話 仲間として、義兄弟として、義姉妹として

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 とばりを開けて中に入った。
「首領、お初にお目に掛かります、アナトと申します。以後、宜しくお願い致します」
 中に居たのは、意外にも日本の甲冑を付けた優男だった。
「ははは、私は首領ではありませんよ。首領補佐の源義経と申します」
「えぇーっ!げ、源氏!?」
 凄い、オールスターじゃないか。そう思っていると、とばりが開いて男が入って来た。私までの距離は離れているが、この男に斬り掛かろうと、剣を握る為に指1本でも動かせば、瞬時に胴斬りにされる未来が見えた。
 その男は、私の思惑を知ってか、一瞥いちべつすると、ほくそ笑んだ。この男には、1ミリの敵意も見せてはならない、そう感じさせた。
大王ダーワンに拝謁致します。神魔と龍の支配者・天道神君アナトと申します。よしみを築きたいと考えて参りました」
「何故、拝礼をせぬのだ!」
 そう言って、男を守る様に側に控える者が剣のつかに手を掛けた。男は手を挙げて、それを制止した。
「控えよ!天道神君殿は、天界・魔界・天龍界を統べるお方である。我らに降った訳では無い。これから盟友となられるのだ」
 反対側に控える者が代弁すると、男は頷いた。
は、成吉思チンギスと申す。アナト殿は、生者とお見受けするが、如何に?」
「はい、大王ダーワン様のおっしゃる通り、ちんは不死でございます」
 アナトを連れて来た剣帝はギョッとして青ざめ、他の者はざわつき、成吉思チンギスからは笑顔が消えた。
 王の一人称は余であり、皇帝の一人称は朕である。成吉思チンギスハーン(王)である。その成吉思チンギスに対して、自分は皇帝だと遠回しに言ったのだ。
 これは剣のつかを握った者に、自分は皇帝だからむしろ拝礼するのは、成吉思チンギスの方だ、と言って返したのである。
「アナト殿は、我らとよしみを結びに来られたと申されたが、我らに宣戦布告し来られたのか?」
「ははは、まさか?今の私は、神魔や龍の皇帝にあらず。一介のか弱い女に過ぎませぬ。雨に濡れ、借りる宿も見当たらず、雨宿り出来る場所は無いかと、ここに立ち寄った次第で御座います」
「俺は反対だ!こんな得体の知れない女を置いてはおけない!」
「そうだ!災いを呼び込む女だ。俺も反対だ!」
「まあ、待て。剣帝殿の推薦だ、そう無下にも出来まいて」
 圧倒的に反対派が多く、ここにとどまる事が出来なければ、ハーデスの下に行こうと考えた。
「私は今はこんな金髪の白人ですが、虞美人に生まれ変わり、そして日本人として生きました。縁を大切にしたい。ここには、日本人も中国人も大勢いらっしゃる。それなのに、女1人を置く事も出来ないとおっしゃいますか?」
「待て!今何と言った?虞美人だと。それが本当なら姿を見せてみろ!」
 その声の主を見て、私は思わず笑顔になった。
「これで信じて頂けましたか?韓殿」
「虞姫…本物だ…」
 そこには韓信がいた。兵を率いては無敵の指揮だ。ここには伝説となった豪傑、知将しかいない。人間は修練を積むと神格を得て神仙となる。全員が神格を得ており、その強さはテンダラース(S10)ランクをも超えていた。
「ははは、虞姫殿であったのか。皆もう異存は無いだろう。仲間が増えてめでたい。虞姫殿をもてなす酒宴の準備をしろ」
ハーン(王)は英明なり!」
 皆、口々に賛同した。私は仲間として水塞にいる事を許された。来夢は女性の姿に変化していたので、私の侍女として共にいる事を許された。
「虞姫殿、こちらの住まいをお使い下さい」
「有難う御座います。お世話掛けます」
 案内され、屋敷を与えられた。
「ふぅ~、一時はどうなる事かと思ったよ」
「そうね、でも2人で暮らすには少し大きい屋敷ね?あなたの美しさは、他の男達が放って置かないでしょうね。抱きに来る事を想定しているんでしょう?」
「あははは、まさか…考え過ぎでは?」
 しかし疲れた。特に精神的に。うつらうつらとして、睡魔には勝てず寝落ちした。来夢は私をベッドに運んで、寝かせてくれた。
 夜半になり、使いの者が呼びに来た。私は支度をして男の後について行った。そこには酒宴の準備が出来ており、既に酒を飲み、肉を食らっている者もいた。
「いやぁ、スマン、スマン。主賓が来る前に我慢出来ず飲み食いしてしまった」
 私はお気にせず、と言ってお酌をすると上機嫌になった。だが、名乗っていないので、誰が誰なのか分からない。
 首領が席に着くと、皆大人しくなった。
「今日また新たな友が出来た。知らぬ者などいないだろう?四大美女の1人、虞美人殿だ。出会いを祝して乾杯カンペィ!」
乾杯カンペィ!」
 次々と私と乾杯をする為に行列になった。ふと、女性も何人かいる事に気付いたが、その中でも特に気になった人がいて、誰なのか尋ねた。
「あの方は、花木蘭ファ・ムーラン殿です」
木蘭ムーランだって?」
 確か北魏時代の木蘭辞と言う詩から誕生した歌劇の主人公として有名だ。
「実在したのか…」
 思わずボソリと呟いた。それが聞こえたのか、花木蘭ファ・ムーランの方からお酌をしに来た。
「虞姫殿、噂に違わぬ美しさ。生前の父が貴女に憧れていました。まさか実在されるとは」
 木蘭ムーランに、実在していたと言う驚きはお互い様だとさとされて笑った。
 彼女はハキハキとモノを言い、竹を割った様な真っ直ぐな性格で裏表が無く、信用出来る好感が持てた。
「貴女の様な姉妹がいれば良かったわ」
「あら?ここに来たら皆んな兄弟姉妹ですのよ、姐姐ジェジェ(姉さん)」
「私が姉なの?」
「だって姐姐ジェジェ(姉さん)は、秦時代の方で、私は北魏時代ですので、私が生まれるのは随分と後になります」
 どうやらここでは、生まれた時代で兄弟の順序を決めているらしい。すると私は、関羽や上杉謙信の義姉と言う事になるらしい。
 一向に上杉謙信がお酌しに来ないので、私の方から行こうとしたけど姿が見えなかった。何処に行ったのかと聞くと、帰ったと言う。なのでトイレに行くフリをして酒宴を抜け出して、上杉謙信の屋敷に行った。
 丘の上にいた上杉謙信を見たが、白頭巾を被っていて目元しか見えず、どんな人なか興味があった。室内を覗くと、着替えの最中だった。その顔を見て驚いた。
「女!?上杉謙信が…女?」
「誰だ!」
 私は姿を見せなければ、即座に斬られるくらいの殺気を浴びて、大人しく出て行った。
「ごめんなさい。覗くつもりは無かったの。室内が開いているのが見えてしまって…」
「例え姐姐ジェジェでも、この事を誰かに話せば生命は無いと思え!」
「貴女が女性かも知れないと言う説はあったわ。本当に女性で驚いたけど。安心して、誰にも言わない。でも何故隠しているの?花木蘭ファ・ムーランさんも女じゃないの?」
「…男社会の世界では、女である事が都合が悪い事もある。それに木蘭ムーランも髪を切り、男装して男に成り済ましていただろう?私と同じだ」
「そうだけど…でも今は違う。貴女は、いつまで隠すつもり?」
 私は上杉謙信の屋敷をあとにして、酒宴会場に戻った。
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