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【第8部〜龍戦争〜】
第27話 闇より更に溟(くら)き闇より来たる者
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ゲートを抜けて久しぶりの人間界だ。しかし赤龍と核兵器によって、世界の人口は10分の1以下にまで減少した。
「ここまで酷いとは…」
「陛下、本当にこれを戻されるのですか?」
見渡す限りの荒野とクレーターで地面が抉れている。ここが本当に地球なのか?と思いたくなる。しかもここは、アメリカ大陸だ。あの華やかで、日本人が憧れたニューヨークやロサンゼルスは見る影も無い。
確かに世界中のこれを元に戻すのは骨が折れる。でもやらなければならない。その前に、今の現状をよく把握しておきたい。
世界を飛んで回った。イスラエル周辺を飛んだ時、対空砲を撃ち込まれた。まだ人間が、兵器が残っていたんだと驚いた。不意を突かれたが、物理攻撃吸収の来夢が私を庇ってくれた。
相手にせずにそのまま通り過ぎた。どうやら人口が少ないなりに、何とか生活しているみたいだ。上空から見ると、野菜等が植えられているのも見えた。
世界を飛んで回って一周し、日本に来た。
「ここはまた酷い有様だね」
本当にここが日本だったのか?と思いたくなる。人口が集中し、過疎化が進む地方には緑豊かな山や森林があった。それが今では見渡す限りの砂漠と、廃墟になったビルがコンクリートを剥き出しで佇む様は、ゴーストタウンさながらで、不気味さを醸し出していた。
「ふふふ、幽霊でも出そうね?」
そう言っていると、白く薄いモヤがかかった様な物が漂うと、それは人の姿になった。
「うわっ、本当に幽霊!?」
反射的にビクッとして身構えた。
「いえ、上級幽霊です」
「レイスと言うと、生者の精気を吸って取り殺すと言うあのレイスの事かな?」
「大丈夫です、陛下。魔気を帯びる私達が、精気を吸われる事はありません」
なるほど、そうは言っても幽霊を見るのは怖い。
“何をしに来た、魔族の者よ”
“立ち去れぃ~”
「少しお話しを。ただでとは言わないわ」
私は神気を放って見せた。
“お、おぉ…神、神だぁ…”
“これで苦痛が終わるぅぅ…”
“何だ、何が聞きたい?”
“早くぅ、早く、成仏ぅぅ…光をぉ…”
私はこの地で何があったのか、どうして死んでレイスとなったのかを聞いてみた。しかし、レイスとなると生前の記憶はほとんど残らない。突然目の前が白く光ったと思ったらここにいた、と言うのだ。恐らく核の光だろう。灰も残らずに蒸発して亡くなった者を、生き返らせる事は出来ない。
『慈愛光』
レイス達を成仏させると、彼らの痛みと苦しみ、悲しみが心に伝わって来て、涙を流した。
「意味も分からず、突然に生命を奪われて、無念だったでしょうね…」
来夢が優しく肩を抱いてくれた。
「帰ろう。懐かしい我が家に」
私は頷くと、再び飛翔して横浜市港北区にある家に向かった。とは言っても、焦土と化しているのだ。多分この辺り、としか言えなかった。
およその見当を付けて降り立つと、瓦礫の山の中を歩いた。
「あっ、これは小児科の看板だから、この先を右に曲がって少し行くと我が家だよ」
瓦礫に埋もれた道なき道を歩いて、我が家が立っていた場所に来た。ここに違いないと、瓦礫を取り除いていくと、見覚えのあるお菓子の入っていた缶があった。
中を開けると、溶けて形が変形してはいたが、それはネックレスだったと分かる物だった。握りしめて胸に抱いた。
「まだ大切に持っていたのね?もう3000年くらい昔になるんじゃないのかしら?綾瀬君から貰った物よね?」
「そうだよ…潤から貰ったお菓子の缶と一緒に、わざと大切に保管していたの。私の夫になった人は大勢いたけれど、潤は特別…。私が妊娠したのは、後にも先にも潤だけ。潤がいなければ麻里奈も生まれなかったわ…」
(第6部アイドル編参照)
潤から貰った物は、大抵は魔法箱に入っている。これだけ部屋に残していたのだ。このネックレスは決して高級な物などでは無い。2人で行った祭りの夜店で、「今度は本物を買ってあげるけど、今はこれで我慢して」と最初に貰った物だ。たかがオモチャのネックレスだけど、これは物の価値では測れない大切な想い出が詰まっている。
「懐かしいな…潤…。可能ならもう一度会いたいよ…」
ボソリと呟いた。突然、魔力を感じて振り返った。
「感じた?」
「はい、感じました陛下」
遥か遠くに山肌が剥き出した、山と言うよりも小高い丘に近い頂上に人影が見えた。
「あそこよ!」
誰かゲートを抜けて来たのだろうか?近付くと、祭壇の様なものがあり、一心不乱にブツブツと呪いを唱えている老婆がいた。
辺りには老婆の他に、何者かの姿は見えない。この老婆から魔力が?と上空から見下ろしていると、再び魔力が感じられた。
「地の底より更に深き闇より出れし者よ。闇より更に溟き闇より来たれ、夜摩の王よ…」
時折り吹く風でよく聴き取れないが、これは恐らく召喚呪文の類いだ。
詠唱が完成したのか老婆は、天に向かって絶叫し、取り出した短剣の様な物で喉を掻き切った。血しぶきを上げて倒れ込んだ。
その瞬間、ゾクッと悪寒が走った。この儀式の祭壇をよく見ると、魔法陣になっていた。魔法陣は溟い闇に包まれ、ゲートが開いた。
「何?何が来るって言うの?」
未だかつて感じた事の無い膨大な魔力だ。私はこんな奴を知らない。あの応龍にでさえ1度も勝てなかった。その応龍をも遥かに凌ぐ魔力を感じる。
何処に居た?って言うくらいに、鳥達が一斉に飛び立って逃げて行く。それは闇のゲートから姿を現した。
「闇のゲートから何かが来る…」
「あ、あれは…闇のゲートではありません。冥界の門です…開けてはならぬ閉ざされし地獄の門が開く…」
アーシャの怯え方からして、とんでもない奴が現れるに違いない。目を凝らしていると、そいつは頭を出した。
「まさか…ド…」
爆音に遮られて、私の言葉は掻き消された。
「ここまで酷いとは…」
「陛下、本当にこれを戻されるのですか?」
見渡す限りの荒野とクレーターで地面が抉れている。ここが本当に地球なのか?と思いたくなる。しかもここは、アメリカ大陸だ。あの華やかで、日本人が憧れたニューヨークやロサンゼルスは見る影も無い。
確かに世界中のこれを元に戻すのは骨が折れる。でもやらなければならない。その前に、今の現状をよく把握しておきたい。
世界を飛んで回った。イスラエル周辺を飛んだ時、対空砲を撃ち込まれた。まだ人間が、兵器が残っていたんだと驚いた。不意を突かれたが、物理攻撃吸収の来夢が私を庇ってくれた。
相手にせずにそのまま通り過ぎた。どうやら人口が少ないなりに、何とか生活しているみたいだ。上空から見ると、野菜等が植えられているのも見えた。
世界を飛んで回って一周し、日本に来た。
「ここはまた酷い有様だね」
本当にここが日本だったのか?と思いたくなる。人口が集中し、過疎化が進む地方には緑豊かな山や森林があった。それが今では見渡す限りの砂漠と、廃墟になったビルがコンクリートを剥き出しで佇む様は、ゴーストタウンさながらで、不気味さを醸し出していた。
「ふふふ、幽霊でも出そうね?」
そう言っていると、白く薄いモヤがかかった様な物が漂うと、それは人の姿になった。
「うわっ、本当に幽霊!?」
反射的にビクッとして身構えた。
「いえ、上級幽霊です」
「レイスと言うと、生者の精気を吸って取り殺すと言うあのレイスの事かな?」
「大丈夫です、陛下。魔気を帯びる私達が、精気を吸われる事はありません」
なるほど、そうは言っても幽霊を見るのは怖い。
“何をしに来た、魔族の者よ”
“立ち去れぃ~”
「少しお話しを。ただでとは言わないわ」
私は神気を放って見せた。
“お、おぉ…神、神だぁ…”
“これで苦痛が終わるぅぅ…”
“何だ、何が聞きたい?”
“早くぅ、早く、成仏ぅぅ…光をぉ…”
私はこの地で何があったのか、どうして死んでレイスとなったのかを聞いてみた。しかし、レイスとなると生前の記憶はほとんど残らない。突然目の前が白く光ったと思ったらここにいた、と言うのだ。恐らく核の光だろう。灰も残らずに蒸発して亡くなった者を、生き返らせる事は出来ない。
『慈愛光』
レイス達を成仏させると、彼らの痛みと苦しみ、悲しみが心に伝わって来て、涙を流した。
「意味も分からず、突然に生命を奪われて、無念だったでしょうね…」
来夢が優しく肩を抱いてくれた。
「帰ろう。懐かしい我が家に」
私は頷くと、再び飛翔して横浜市港北区にある家に向かった。とは言っても、焦土と化しているのだ。多分この辺り、としか言えなかった。
およその見当を付けて降り立つと、瓦礫の山の中を歩いた。
「あっ、これは小児科の看板だから、この先を右に曲がって少し行くと我が家だよ」
瓦礫に埋もれた道なき道を歩いて、我が家が立っていた場所に来た。ここに違いないと、瓦礫を取り除いていくと、見覚えのあるお菓子の入っていた缶があった。
中を開けると、溶けて形が変形してはいたが、それはネックレスだったと分かる物だった。握りしめて胸に抱いた。
「まだ大切に持っていたのね?もう3000年くらい昔になるんじゃないのかしら?綾瀬君から貰った物よね?」
「そうだよ…潤から貰ったお菓子の缶と一緒に、わざと大切に保管していたの。私の夫になった人は大勢いたけれど、潤は特別…。私が妊娠したのは、後にも先にも潤だけ。潤がいなければ麻里奈も生まれなかったわ…」
(第6部アイドル編参照)
潤から貰った物は、大抵は魔法箱に入っている。これだけ部屋に残していたのだ。このネックレスは決して高級な物などでは無い。2人で行った祭りの夜店で、「今度は本物を買ってあげるけど、今はこれで我慢して」と最初に貰った物だ。たかがオモチャのネックレスだけど、これは物の価値では測れない大切な想い出が詰まっている。
「懐かしいな…潤…。可能ならもう一度会いたいよ…」
ボソリと呟いた。突然、魔力を感じて振り返った。
「感じた?」
「はい、感じました陛下」
遥か遠くに山肌が剥き出した、山と言うよりも小高い丘に近い頂上に人影が見えた。
「あそこよ!」
誰かゲートを抜けて来たのだろうか?近付くと、祭壇の様なものがあり、一心不乱にブツブツと呪いを唱えている老婆がいた。
辺りには老婆の他に、何者かの姿は見えない。この老婆から魔力が?と上空から見下ろしていると、再び魔力が感じられた。
「地の底より更に深き闇より出れし者よ。闇より更に溟き闇より来たれ、夜摩の王よ…」
時折り吹く風でよく聴き取れないが、これは恐らく召喚呪文の類いだ。
詠唱が完成したのか老婆は、天に向かって絶叫し、取り出した短剣の様な物で喉を掻き切った。血しぶきを上げて倒れ込んだ。
その瞬間、ゾクッと悪寒が走った。この儀式の祭壇をよく見ると、魔法陣になっていた。魔法陣は溟い闇に包まれ、ゲートが開いた。
「何?何が来るって言うの?」
未だかつて感じた事の無い膨大な魔力だ。私はこんな奴を知らない。あの応龍にでさえ1度も勝てなかった。その応龍をも遥かに凌ぐ魔力を感じる。
何処に居た?って言うくらいに、鳥達が一斉に飛び立って逃げて行く。それは闇のゲートから姿を現した。
「闇のゲートから何かが来る…」
「あ、あれは…闇のゲートではありません。冥界の門です…開けてはならぬ閉ざされし地獄の門が開く…」
アーシャの怯え方からして、とんでもない奴が現れるに違いない。目を凝らしていると、そいつは頭を出した。
「まさか…ド…」
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