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【第8部〜龍戦争〜】

第21話 vs.宮本武蔵

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「まどろっこしい、たかが兵糧集めに一体どれほど時間を割いているのだ!」
 激昂したアシェラに対して、兵糧集めを命じられ、報告に上がった大臣を罵り鞭打った。
「お止め下さい太后タイホゥ!」
 アシェラは止めに入った魔王ファルゴを、鬼の形相で睨み付けた。
「朕に意見するのか、貴様如きが?」
 殺気を込めてファルゴを鞭打った。怒りが収まるまで鞭打ちを続け、その狂気を恐れて失禁した大臣もいた。ファルゴの皮膚は裂け肉を削ぎ、骨が剥き出しになるとようやく怒りが収まった。
「朕に諫言した者は、鞭打ってやろう」
 もうアシェラに歯向かう者はなかった。ファルゴにはもう回復魔法も効かないほど、ダメージを受けて瀕死の状態であった。そのファルゴを連れて冷宮に来たのは、魔王ビゼルであった。
陛下ビーシャア、どうかファルゴを救って下さい」
「もう私は皆んなの陛下ビーシャアでは無いよ。でもファルゴは治してあげる」
 僅かな隙間から、息も絶え絶えのファルゴの様子が見てとれる。
完全回復パーフェクトヒール
 しかし効果が無かった。
「は?何で?何で効かない?」
 隙間から目を凝らすと、呪いの類いが掛けてあるのが分かった。
「何でここまでする必要があるの?」
 呪いを解呪する間に、ファルゴは息を引き取った。
「許せない…」
 涙を流して怒りに震えた。
「分かったわ…ここまでするのは、私が謀叛を起こすのを待っているのよ。合法的に私を葬れるから。…いいわ、乗って上げるわよ。殺してやるから待ってろ、アシェラ!」
 もう我慢の限界だった。B型の私は怒りの感情を抑える事が出来ない。腹の底から湧き上がる憎悪に、心が支配されて行く感覚だ。後先を考える事などB型には出来ない。これがA型であれば、冷宮から許可無く出た場合、自分がどうなるのか?太后タイホゥに刃を向けると自分がどうなるのか?を冷静に考え、その様な愚かな行動は取らないだろう。だが私は、感情の赴くままに閉ざされた冷宮の扉を打ち破った。
「アシェラぁぁぁ!」
 怒り狂った私は、一直線に向かった。
「邪魔する者は斬る!」
 全身に殺気をみなぎらせる私を恐れて、道を開ける者がほとんどだったが、殿宮に入ると侍衛と衛兵が立ち塞がった。
練気剣ヴァジュラ!」
 立ち塞がった衛兵を斬り捨てて走った。続々と衛兵が集まって来る。その全てを斬り伏せて、全身が返り血で染まった。
 人は血に酔うと何度も書いたが、アナトは狂戦士バーサク状態になっていた。思考回路がほぼ停止し、目の前に立ち塞がった相手を反射的に斬って回った。
 アシェラが姿を見せると、かたわらに控えていた宮本武蔵が、ゆっくりとアシェラを庇う格好を取った。
「アナト…実の母を殺そうとは…不死のお前には、永遠に肉を削る苦しみを与えてやろう」
 私は母の姿を見て、我に返って呪文を唱えた。
完全自動回復パーフェクトオートリジェネ
 立ち塞がる宮本武蔵に斬りかかったが、練気剣ヴァジュラを握る右腕を斬り落とされ、小太刀で右肩から左腰までを真っ二つにされた。しかし、回復魔法の効果で瞬時に全回復し、突きを繰り出したが、武蔵に身をよじってわされ、首を落とされた。だがそれすらも瞬時に回復して、左手に出現させた練気剣ヴァジュラで突くと右の刀で弾かれた。
 私は何度も死ぬほどのダメージを負ったが、瞬時に回復して連撃を続けた。しかしそれでも武蔵には、かする事すら出来なかった。
「この化け物めっ!」
 武蔵からすれば、私こそ化け物だったに違いない。何せ、何度殺しても死なないのだから。
「はぁ、はぁ、はぁ。技量が…桁違い過ぎる。剣帝の剣技だぞ、こっちは。何でかする事も出来ない?」
 私は模倣ラーニングしただけで、使える気になっていただけ何だろう。
「くそっ、ここで限界を超えて見せる!」
 私には数千年にも及ぶ、強者を目の当たりにして来た。過去に見た記憶からでも、模倣ラーニング出来無いのか?
(思い出せ、今まで見た強者を。私には直ぐそばにいたでは無いか。誰よりも強い者が…)
 距離を取り、目を閉じて強く念じた。阿籍ア・ジーの強さを思い描いた。
模倣ラーニング・参式』
 進化した模倣ラーニングを唱えた。武蔵が距離を縮めて間合いに入り、斬り掛かった。だがこれまでとは違い、武蔵の剣筋が初めて見えた。いや見えたと言うよりも、感じる事が出来たと言うのがより近いだろう。
 初めて武蔵の剣を弾いた私に対して、全力の構えを見せ、微動だにしなくなった。周囲の音が消え、武蔵と2人だけの世界にいる様な感覚。この感覚を私は知っている。ゾーンに入った時の感覚だ。
 先に動いた方が斬られる。張り詰めた空気が重くのしかかって来る。私も武蔵も必殺の構えを見せ、頭の中で斬り結んでいた。そうか、達人同士の戦いの中では、既に戦いが始まっていると言うのがこれかと理解した。
 私も模倣ラーニング・参式でこれまで見た強者の技量が、私の中で昇華され、高みに昇り達人の域に達したのだ。
 私も武蔵も両刀で構え、瞬きする事なく相手の挙動に全神経を集中している。そこへ衛兵の1人が、私に向けて矢を放った。
 ゾーンに入っている私には目を向けずとも、その矢の軌道が見えた。ゆっくりとした動作で紙一重で避けると、武蔵は隙あり!と剣を振り翳した。私も瞬時に反応し、剣を繰り出して武蔵と交差した。
 私は血しぶきをあげて地面に転がった。衛兵らが勝利を確信して歓声をあげた。
「見事…」
 しかしそう言って、地面に倒れて絶命したのは、武蔵の方だった。私は身を起こすと、受けた傷は治っていた。文字通り、肉を切らせて骨を断って見せたのだ。
「武蔵、討ち取ったりぃ~!」
 私は勝ち名乗りを上げると、私を支持する大臣らは歓声を上げて喜んだ。その様子を母アシェラは、冷ややかな目で見ていた。
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