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【第8部〜龍戦争〜】

第13話 封印を解いたアナト

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「遅かったわ」
 忉利天へ急行する。その道中、至る所に神兵の遺体が惨たらしく転がっていた。目を背け、「後で必ず生き返らせるから、もう少し我慢して」と心の中で誓った。
 善見城に着くと、魔王ハルバート、魔王ファルゴ、魔王フィーロ等かつての私の側近達が、切り捨てられていた。
「武蔵の奴…」
 激しい憎悪が湧き起こり、憎しみが心を支配していく。
「先に行って!私は自らかけた封印を解く」
 私はテンダラース(S10)ランクだ。完全に人間の身体を得た頃とは違い、4000年も修練を積んだ神だ。筋力ステイタスがたったの12から、今では10万を超える。私は人間が好きで、人となって生活した。その為に力を封印しているのだ。何せデコピン1発で、人間の頭なんて吹き飛んでしまうほどの力だ。
 呪文を唱えると、私を拘束している光の鎖が現れた。両手足、腰、首、頭が繋がれている。頭の上に巨大な光の鍵が現れ、私の頭に差し込まれると、「ガチン」と大きな音がしてロックが外れる音がした瞬間に、拘束していた光の鎖は弾け飛んだ。
 私の身体は大きく前後に揺れ、後ろに反ると胸が膨らみ、身長が伸びて髪の毛も腰まで伸びた。髪の色が黒髪から金髪に変わり、目の色が茶系の黒から、碧い瞳に変わった。分かりやすく言うと、見た目が東洋人から西洋人に変わった。これがアナトである私の本来の姿だ。
 立ち上がって、グーパーする手を見ながら、指先を目線に合わせて眺め見た。自分の身体から溢れ出る、圧倒的な力を感じる。
「余りこの姿は好きじゃないのよねぇ」
「美しい…」
 周囲にいた神魔兵達は、一目で魅了された。この姿の時、「絶世の美女」の称号のスキル効果が追加される。男性に対しては99%魅了する。魅了に耐える事が出来た者でも、このスキル保持者に対しては敵愾心てきがいしんいだけなくなり、傷付ける行動を取れなくなる。と言う、相手が異性の場合は無敵のスキルだ。
 まるで男心をもてあそぶ悪女みたいなので、この姿になりたくないのだ。しかも99%魅了するが、この状態で口付けをすると、100%魅了出来る。魅了された相手は、私の言葉にあらがえなくなるのだ。
 実質、私と戦える者は、女性か来夢の様に性別が無い者だけだ。
 善見城に辿り着くと、天帝・帝釈天インドラ梵天ブラフマーは首を討たれ、弁財天サラスヴァティは左手と右足を失って血の海でもだえていた。
完全回復パーフェクトヒール
 弁財天サラスヴァティの傷を治して、宮殿の奥に進んだ。
「黄龍が封印されている部屋には、どうやって行くの?」
我知道ウォヂーダォ(私が知っています)」
 弁財天サラスヴァティの案内で、後ろについて行った。石の壁に手を触れて、暫く場所を探っているみたいだったが、「ガゴン」と音がすると、隠し扉が開き、地下へ降りる階段が現れた。
「こんな所に?全然分からなかった」
 天道神君である私に何故秘密にしていた?と思うと少しムッとした。長い下り階段が続くと扉が見えて来た。弁財天サラスヴァティは慣れた手つきで、仕掛けを解いて扉を開いた。私はそのまま進もうとして、弁財天サラスヴァティに止められたが、一歩踏み出してしまい、無数の矢が左右の壁から発射された。咄嗟にルシフェルが私の襟首を掴んで、後ろに引いてくれた為に当たらずに済んだ。
「有難う哥哥グァグァ義兄あにぃ)」
「大丈夫か?妹妹メイメイ義妹いもうとよ)」
 それからも色んな罠を抜けて広間に入ると、中央にある光の球体の中に全裸の美女がいた。その球体に斬りかかり、球体を割ってその美女を出そうとしていた。
「あれが黄龍です」
「あの美女が?」
シィー(はいそうです)、陛下ビーシャア
 封印を解いてテンダラース(S10)ランクとなった私が、黄龍を見て鳥肌が立った。冷や汗が全身の毛穴から噴き出て来る。コイツは、もしかしなくてもヤバい奴に違い無い。神農帝は、人質として黄龍を封印した訳では無いのかも知れない。世に災害をもたらす程の邪龍なのでは無いのか?
 武蔵がいくら斬りつけても、球体はビクともしない。
哥哥グァグァ義兄あにぃ)、アレはヤバいのでは?多分、ここに居る誰もが、黄龍には勝てない気がする」
「黄龍を解き放っては駄目だな」
 愛しい兄に寄り添うミカエルは、腕を絡めて頷いた。
 哥哥グァグァとは、実の兄は勿論、年上の従兄いとこに対して使う。それだけではなく、友人の様に一緒にいる年上の男性に、甘える様に哥哥グァグァ(お兄ちゃん)と呼ぶ。これは、貴方の事が他人とは思えないほど大切な人に昇格した事を意味し、つまり自分の事を哥哥グァグァと呼んだ女性は、かなり高い確率で好意を寄せている。なので、更に相手が喜ぶ事を繰り返して行えば、必ず恋に落ちる。
 私はルシフェルを実の兄の様に慕っているので、そう呼んでいるだけだから、別に下心は無い。ミカエルのガードが堅すぎて、そう言う関係になるのは無理だ。
 途端に光の球体から光を放つ輝きが止むと、球体が砕け散った。黄龍がゆっくりと動作し、閉じていた眼を開いた。目が合った私は戦慄した。恐怖で身体が震え、呼吸も出来ないほど苦しくなった。
 一瞬で私の目の前に現れると、不適な笑みを浮かべてほっぺにキスをされた。私なんかいつでも殺せると言うメッセージだ。
 黄龍はそのまま武蔵に向かって行った。
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