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【第8部〜龍戦争〜】

第3話 怒る瑞稀

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 魔界と繋がっている天界のゲートを抜けた。
「お帰りなさい、娘娘ニャンニャン
 娘娘ニャンニャンは、高貴な身分の女性に対して呼ぶ時の敬称だ。
「ただいま、老君。大至急、皆んなを集めてちょうだい」
 老君と呼ばれた者は、天界には1人しかいない。かつて人間だった時、老子と呼ばれた道教の始祖である李耳の事で、神名は太上老君と言う。
 天道神君アナトが天上に帰り、直ぐに召集をかけた為に何事かと、神魔が集まった。
「…なるほど、龍が地上に現れたと…」
「地上に現れたのは再び赤龍との事。だが、龍王は1匹では無い。地上に集中していると、天界が滅ぶぞ」
「どう言う事なの?」
「龍は赤龍の他に、青龍、緑龍、白龍、黒龍、金龍などがおり、この龍王達を統べるのが黄龍でございます」
「左様、赤龍だけに気を取られていると、背後から他の龍に攻められる可能性がござる」
「そう言う事ね。天界の守りも手薄には出来無いと。では、どのくらいの兵力なら駆逐出来る?」
「…」
「地上は陽動だとして、本命はこの天界と言う可能性もございます」
「私もそれを危惧しておりました」
「今は天界の守りを固めるべき時だと存知ます」
「では地上を好き放題にしている赤龍はどうするのだ?」
 誰もそれには答えようとはしない。
「またかコイツら!?」
 イライラして、思わず口汚く罵った。神々は保守的で、積極的に動こうとはしない。
「もう良い。頼まないわ。その代わり神兵を1万騎ほど連れて行く。以上、解散!」
 頭に血が昇った私は、神々が何か言っていたが、耳に入らなかった。兵符を取り出して1万騎を連れて、阿籍ア・ジーと来夢と一緒にゲートを潜った。
「やれやれ、話を聞かないのは相変わらずじゃわい」
 太上老君は、白い顎髭を撫でながら思案していた。
「ふー、神々には天界の守りを固めさせて、魔族なら引き連れても良い、と言うつもりじゃったのにのぉ」
 魔界へと繋がるゲートを覗いて、アナト達を見送っていた。

「本当に頭にくるわね」
「相変わらず気が短いな?」
阿籍ア・ジーにだけは言われたくないわよ!」
 私はB型なので、短気で気分屋の上に、思い付きで行動する。熱し易く冷め易い為に、怒ってもすぐに水に流せるのは長所だと思う。
「はははは、やっぱり似た者同士だな?お前達は。また夫婦になったらどうだ?」
「嫌よ!」
「それは良い」
 私は阿籍ア・ジーの返事に、キッと睨み付けた。彼が未だに私を思い続けている事は知っている。だが、私は不老不死である為に、多くの夫や恋人がいた。夫は、阿籍ア・ジーだけでは無いのだ。1人だけに応えてはあげられない。
「しかし兵1万程度で、どうにかなるのか?」
「限界まで強化するわ。身体強化だけでなく、武器に貫通効果を与えて、鎧に結界を幾つも張れば少しは違うでしょう?」
「それは、少しどころでは無いだろう。そんな魔力は、何処から捻出するんだ?」
「大丈夫、魔法箱マジックボックスに魔石が大量に保管してあるのよ」
「ちなみに、武器に貫通効果を与える魔法は、模倣ラーニング済みよ」
 魔界に着き、魔界から人間界に繋がるゲートを目指した。
「お前達だけで行くつもりか?」
哥哥グァグァ(兄さん)!」
 アナトに兄さんと呼ばれた相手は、本当の兄では無い。兄の様に思うほど敬愛している相手、と言う意味で呼んでいる。
「ルシフェルか」
「魔族は全軍で、トカゲ退治を手伝う」
「本当に?有難う 哥哥グァグァ(兄さん)」
 中国語は本当に難しい。哥哥は、グァグァでは無く、ガガと言っている様に聞こえる。
「ロード!?久しぶりー!」
 思わず顔がほころんだ。この魔界を私が統一出来たのは、彼女のお陰と言っても過言では無い。
 それだけでは無い。彼女とは何度も肌を合わせた。女の私に出来た最初の彼女…と言うかセフレだ。彼女は男が嫌いで、女性を愛する百合なのだ。
 見知った顔が続々と集まって来るのが、まるで同窓会に出席したみたいで嬉しい。
陛下ビーシャア、8軍集結でございます」
「ふふふ、この感じ。久しぶりね?」
 気分が高揚して来た。負ける気が全くしない。赤龍どころか、この軍勢なら龍族を全て討ち滅ぼせるのでは?と思う。
 遠目でベルゼブブの姿も見える。魔王ベルゼブブと魔王バエルは半身同士で、1つになれば、私の実の長兄であるバァル神となる。
皇上ホワンシィァン(陛下)!先陣は私にお任せ下さい!」
 皇上ホワンシィァンは、皇帝の妻や兄妹ら身内が呼ぶ呼び方だ。皆んなの前でロードは、アナトに対してこう呼んだのは、自分は陛下に寵愛されている。そう言う仲なのだ、と周りにアピールしていると言う事だ。
 だから私は恥ずかしくて少々、顔を赤らめた。
 ちなみに皇上も、ワンシャンと言っている様に聞こえるから、本当に中国語の発音は難しい。
 私は魔族を引き連れて魔界のゲートを抜け、地上に戻った。
「今に見ていろよ、トカゲ野郎ども!」
 練気剣ヴァジュラにも、貫通効果を与える事が可能なのは実証済みだ。私は魔族達の武器に貫通効果を与え、鎧と身体の強化魔法を唱えた。
シャア(突撃)!」
 城を守る龍達が空撃して来た。次々と地上の龍人達が龍化して上空に飛び、火焔を吐いて攻撃して来た。
「くぅおらぁぁぁ!」
 貫通効果が施されている武器は、あれほど硬かった龍の鱗をいとも容易く斬り裂いた。
「撃てー!」
 弓兵が放った矢も龍を貫通させ、撃ち落として行く。
「今だ!城を陥せ!」
 何だか途轍もなく嫌な予感がした。上手く事が運び過ぎている。こんなに簡単な奴らだったか?弱過ぎる。そう思った瞬間、地表の赤龍の城から光が見えた気がした。
 激しい閃光と爆音がしたはずだが、無音になり何も聴こえなくなった。鼓膜が裂けたのだ。自動回復オートリジェネのお陰で死にきれずに、身体が崩壊しながら再生して行く。
 光に包まれたまま仲間に目を向けると、魔王級は回避していたが、魔兵達は巻き込まれて崩壊して行くのが見えた。
「何の光?」
 私の鼓膜は修復されて、耳が聴こえる様に戻っていた。
「核だ。仲間ごと私達を葬り去るつもりよ」
「来るぞ!」
 更にもう1発、核ミサイルが撃ち込まれた。
「何度もやらせるか!」
 ベルゼブブから無数の蝿が核ミサイルに取り付くと、軌道を変えて空の彼方に消えた。今度は、バタバタと空から魔兵達が落ちて行く。
「うあっ…な、何だ?」
 突然頭がクラクラとして、地表に真っ逆さまに墜落していく。地面に激突して肉片が飛び散ると思った時、来夢がクッションになって守ってくれた。
「有難う…げほっ…おえっ…」
 立っていられなくて、地面に這いつくばり、更にゲーゲーと吐いた。
「これは…音波兵器か?」
 龍のくせに人間の兵器を使いまくっている。人間界を制圧したのは、もしやコレが目的か?
 私は意識を失って倒れた。

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