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【第7部〜虞美人編〜】

第8話 項羽の進撃

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 秦軍を撃破して趙を救った項羽を、諸侯は恐れて平伏し、項羽は諸侯の頂点に立った。
 私はこの頃には既に、男に戻れなくなっていた。項羽の横に男装して、小姓の様に立って諸侯を見下ろした。
「あれが虞美人か?何と美しい」
 ささやく様な声が聞こえる。自分の容姿を、褒められて嬉しくない女性などいない。阿籍ア・ジーを見ると、私の美しさが誇らしそうだった。
 趙を救援し、諸侯の上に立った楚の懐王は、秦の章邯を破った事で、秦にはもう主だった将はおらず、反秦の勢いを防ぐ力は無いと判断し、項羽と劉邦にそれぞれ兵を率いさせ、「先に関中に入った者を関中王とする」と宣言して、ヤル気を奮い立たせた。

「先に関中に入って、王になる!そしてお前は王妃だ」
「無理はしないで。別に王妃なんて望んでいないから…」
「この度の戦は、激しく厳しいものとなるだろう。だから今回は連れて行かぬ。大人しく待っていてくれ」
「嫌よ!ずっと側に置くって言ったじゃないの」
「我儘を言って困らせないでくれ。今回は、お前を守ってやれないかも知れんのだ」
「いつもいつも阿籍ア・ジーの背に守られて、私はそんなに柔じゃない。私はこれでも、江湖では名の知られた豪傑なのよ?」
「この美しい身体には、傷一つ作らせたくは無いのだ。分かってくれ」
 阿籍ア・ジーに口付けをされながら、服を剥ぎ取られていくと全裸にされた。
「美しい…これほど美しい女など、この世の何処を探してもいないだろう」
 胸の膨らみを堪能する様に優しく触りながら、時折、私の反応を見る様に強く揉んだ。秘部に指を這わされ、膣内なかに入れたり出したり、緩急を付けて行われるとグショグショに濡れて来た。
「あぁ…はぁ…あん、あっ…ふぅ、うんっあ…気持ちいい…」
 阿籍ア・ジーは毎日、同じ様な愛撫をしてから私の膣内なかに入る。飽きないのかな?と思った事は何度かある。しかし私の身体を、毎日夢中でむさぼるので、飽きてはいないのだろう?と安堵する。愛されている。この愛に包み込まれる様な感覚は、私を更なる深い快楽へと導いて行く。
 いつも何度もイっていたが、最近はその更に先の快感がある事を知った。イカされ続けると、最終的に全身が性感帯になった様になり、阿籍ア・ジーの手が腰に触れただけでもイきそうになる。そうなってからイクと、失神するほどの快楽が全身を支配し意識を失う。
 男だった時には、決して到達する事のなかった快楽の域だ。ほぼ毎日、抱かれて快楽に支配された。
阿籍ア・ジー、1人残されたら浮気しちゃうよ?」
「そうしたら相手の男を車裂きにしてやる。優しいお前は、浮気相手が殺されると分かっていたら、浮気なんて出来ない女だ」
「ふふふ、私の事、良く分かっているのね?」
 阿籍ア・ジーが愛しい。真っ直ぐに愛され、心が幸福感で満たされる。ずっと愛されていたい。阿籍ア・ジーの方こそ浮気しないでね?と何度も耳元で囁いた。

 関中攻略に、私は勝手に従軍した。一兵卒の格好をしていたが、直ぐに見つかって項羽の軍に配置された。
「馬鹿なのか、お前は?自分の美しさをまだ把握していないのか?お前の顔を知らない者など誰もいない。直ぐにバレるに決まっているだろう?」
 項羽は怒ったが、内心は嬉しかった。そんなに俺と離れたく無いのか?と思ったからだ。
 進軍していると秦軍と出会したので、交戦すると激しく抵抗された。その抵抗がしぶとくて阿籍ア・ジーは激怒した。なにせ早く関中に行かなくてはならない。大した将に率いられた訳でもなく、さっさと降伏すれば良いものを、ゲリラ戦の様に粘られた為に、戦に勝利して敵を捕虜にすると、怒り狂って全員の首を刎ねて皆殺しにしてしまった。
 これがよりにもよって初戦であった為、これ以降、阿籍ア・ジーは見せしめと称して、捕虜を皆殺しにした。
 私は必死に止めたが、相手にしてくれなかった。頭に血が昇って私の言葉すら耳を傾けてくれなかった。なので、「私に指一本触れるな!」と言うと、激怒して監禁されて檻に入れられた。
 反省するまで食事は与えないと言われ、反省するのは阿籍ア・ジーの方だろう?と怒ってより反抗すると、本当に食事抜きにされた。3日も経つと脱水症状になり、死にかけて意識を失った。
 目を覚ますと、阿籍ア・ジーは泣きながら私を抱きしめた。
「何で泣いているのよ?私を殺そうとしたくせに…」
对不起ドゥブチ(すまない)…」
 私を抱きしめて、肩を震わせて泣いている阿籍ア・ジーを見ていると、怒る気が失せて来た。
我才对不起ウォツァイドゥブチ(私の方こそごめんなさい)…」
 私の体調が回復するまで、本隊の進軍は止め、先陣として黥布と龍且を派遣した。私の体調が回復するのに9日もかかった。先陣に追いつくと、激戦を繰り広げていた。
「ここを抜ければ、函谷関だ!」
 函谷関を抜ければ、関中に入る。後一息で秦は滅ぶのだ。俄然、力が湧いてくる。
「はあぁぁ!」
 私は身体の身軽さを利用して、雲梯を駆け上がると、城壁の上に最初に達して斬り込んだ。飛んで来た矢を払い落とし、群がって来た秦兵の槍を受け流し、身体を回転させて遠心力で首を落とした。
 槍を払い剣を受け流し、最小限の力で急所を確実に斬った。城壁に取り付いた私を討ち取ろうと、敵兵は次々と集まって来る。雲梯を守っていると、鍾離眜が秦軍に斬り込んで来た。
 更に季布、于英、周蘭など楚軍の猛将達が雪崩れ込んで来た。
「虞子期殿、加勢致す!」
 1人で斬り込んでいたので、そろそろ限界だった。
「助かったわ」
 城壁に縄を掛けると、下まで一気に降りた。城門を守る秦兵を袈裟斬りにして、門を確保したが、非力な女の力では門はビクともせずに開ける事が出来なかった。
 ここでも孤軍奮闘していると、季布が手勢を連れて切り開き、門を開けた。ほとんど同時に門外で待機していた楚軍が突入して来た。
 秦軍は降伏したが、ここでも阿籍ア・ジーは秦兵を許さず、7万人を生き埋めにして殺した。
 私は心を痛めたが、餓死しそうになった件があった為に、阿籍ア・ジーにはもう何も言えなかった。
ポゥ!(報告!)劉邦殿が関中に入り、秦は降伏し滅亡した模様です!」
「何だと!劉邦が、劉邦の奴が先に関中に入っただと!?」
 懐王の約束が頭によぎった。しかし、そんなものは認められない。
「劉邦なんぞ叔父上の客将に過ぎぬではないか?この俺様が、あんな奴の風下などに立つつもりはない…」
 項羽は関中の方角を睨みつけて、決心していた。
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