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【第6部〜アイドル編〜】

第26話

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能力スキルは目覚めたんでしょう?どうして大人しく、あの記者に抱かれたの?」
来夢ライム、抵抗するなら殺す選択をしなくちゃいけない。…人殺しなんて出来ないよ…」
「その為に自分は犯されても良かったの?大好きな綾瀬くんが知ったら、悲しむわよ」
「もう…イジメないで…」
「記憶が戻ったなら、久しぶりに私が慰めてあげる」
 来夢は男性の姿を形取ると、瑞稀を抱いた。
「うっ…はぁ、はぁ…記者アイツにされた事、忘れさせて…」
 来夢はスライムだから射精などしない。その為、行為の終わりは瑞稀が満足するまでとなる。
「もういい…もう…」
「アナト、これからどうするんだ?」
「どうするとは?」
「記憶が目覚めたんだ。このままアイドルを続けるのか?」
「まさか自分が、芸能人になっているなんてね。500年前は想像も出来なかったよ」
 ふと頭によぎって呪文を唱えた。
自動書込地図オートマッピング
「検索:白石小百合」
「…反応が無い…やっぱりもう死んでるんだ。…社長が殺したのね」
「お前を陥れた奴だ。気に止む事は無いだろう?」
「そうだけど…同級生で、この業界に誘ってくれた人で、同じ事務所。何も殺さなくても良かったのに…」
 一体、どんな殺され方をしたのだろう?せめてもの情けで、楽に死ねたのだろうか?
「生き返らせてあげたいけど、遺体が残ってないと無理だわ…」
 私は意を決した。

「…それで?小百合を許せと?」
「はい。小百合はもう死んでいる事は分かっています。せめて骨だけでも埋めてあげたいんです」
「優しいわね?それで…どうして私なのかしら?何も知らないわよ。警察にもそう言ったじゃない。それに小百合が死んでるって、どうして分かるの?」
「小百合は、自分に何かあった時の為に、心臓にある物を取り付けていました。その情報はパソコンに送られていましたが、それが途絶えました」
「ふーん、ペースメーカーの様な物を付けていたのかしら?それなら病気か事故で亡くなったか、機械の故障の可能性もあるわね?」
「…それで私は興信所に依頼して調べました。あの記者があの動画を送って来た時から、社長が頻繁に電話している番号です」
 社長はタバコを取り出して吸うと、大きく息を吐き出した。
「それで?」
「調べると、この電話番号の相手は反社の方の電話番号でした」
「だから何?どうしたいの?」
「お願いです。せめて弔ってあげたいんです。社長が私を大切にして下さっているのは、私が金のなる木だからなのは理解しています。でも小百合は、その金のなる木をこの事務所に届けてくれた人です。どうかお願いします、例え髪の毛1本でも構いません。それで弔いをさせて下さい」
「ふーっ。頑固で度胸があるのは相変わらずね?てっきり私は、貴女が小百合を恨んでいるものだと思っていたわ」
「恨んではいません。ただ…可哀想な人だと思っています」
「分かったわ。ただ期待はしないでね?それから…知った事を全て忘れなさい。そうでないと、例え貴女でも何が起こるか分からないわよ?次は警告はしない。賢い貴女なら分かるわよね?」
 私はお辞儀をして社長室を出た。
「あ、もしもし、私よ…お願いがあるの…」
「それは無理って言うもんでさぁ、姐さん。カケラも残っちゃいませんぜ。なにせ生きたまま電動ヤスリで削って、肉片は全部うなぎが食っちまった。骨も残ってやせんぜ。あっ、待って下さいよぉ。遺品があるな…これでどうです?」
「分かったわ、それでお願い。面倒をかけるわね」
 後日私は社長室に呼び出された。
「貴女が求めた品よ?」
 それは小百合が身につけていた、ティファニーのネックレスだった。
「有難う御座います」
「瑞稀、貴女は知り過ぎたわ。良い?この事は忘れるのよ?口に出したり、何処からかこの話が漏れた時、容赦しないわよ」
「分かっています、社長」
 社長は手で私を追い払う仕草をして、退出を命じた。
「お願いよ、瑞稀。私に貴女を失わさせないで…」

 私は自宅マンションに帰って来た。
「どうだったアナト?」
「見て、ネックレスに髪の毛が巻き付いている」
「良かったな」
「うん、でも…まだ生き返らせてあげられない」
「そうだな。あの社長が生きてると知ったら、必ず殺しに来るぞ」
「それに今生き返らせたら、監禁するしかない。でもそんなの生きてるって言えないわ。せっかく生き返らせてあげても意味がない。もう少し、時期を見る事にする」
「お前がしたい様にすれば良いさ」
 来夢は部屋の中では、ずっと男性の姿でいる。記憶が戻ってしまったので、綾瀬との関係に悩んだが来夢は、「人間の寿命なんて、高々100年にも満たないだろう?このまま、綾瀬と一緒で良いさ」と言ってくれた。
 翌日早朝、私は米国に発った。チャックのコンサート会場は野外ステージで、10万人集客出来ると伺っていたが、入り切れないファンが道路にまで出て密集していた。
「凄い人気ね」
 チャックの人気に感心していると、「いつもは、ここまでいないさ。Mizukiのファンもいるからね?」と優しい言葉を掛けてくれた。アメリカで無名の私なんか見に来る訳がない。
 チャックが魂を込めて歌うこと5曲。遂にその時が来た。チャックが私の名前を呼んだ。私は緊張で震える足でステージに上がると、一際大きな歓声が起こった。
 登壇すると、皆んなが私の名前を叫んでいた。何故私の名前を知っているのだろう?と不思議そうな表情をしていると、華流ドラマを撮影していた時に、転げ落ちて意識不明になった。その動画は世界中に拡散されていた。アメリカでも、私の意識が回復するのを応援するサイトが開設されていたらしい。
 感極まって私は、歌う前から号泣していた。曲が鳴り歌い始めると、緊張は解けていた。
 このコンサートが成功だったかどうかは、分からない。でも私は、やり切った感を出して、満足していた。
 3日の滞在のうち、取材が殺到し、急遽入った米国のTV番組にも出演した後、日本に帰国した。
「凄いわ瑞稀!」
 私がチャックのコンサートでライブした曲が、SNSの再生回数で世界1位となり、全米TOPチャートBellboardで初登場3位となった。
 日本人は得てして自国での評価よりも、世界での評価を重く受け止める傾向がある。私がBellboardで3位となった事によって、これまでの曲も見直され、軒並み国内に於いてヒットを記録した。
「はぁ~寝る暇も無いよ、マジで。あの社長、私を殺す気なの?」
 スケジュールは分単位で刻まれて入っている。食事や睡眠は全て移動する車の中でしか出来ない。シャワーすらもろくに浴びさせてもらえなくなり、不満を漏らすと、「これで誤魔化しておきなさい!」と渡されたのは香水だった。
「マジで馬鹿じゃないの!」と憤慨したのは初めだけで、直ぐにそんな気力も無くなり、暇さえあれば爆睡して、「寝れるだけマシだ」と思う様になった。
自動洗浄オートクリーン
 身体や衣服の汚れを落とし、リフレッシュする生活魔法だ。密かに唱えた。疲れて落ちた体力は、『自動回復オートリジェネ』で回復している。
「私が魔法使いじゃなかったら、過労死しているよ」
 忙しいうちが華、とはよく言ったものだ。しかし私は、触れた物を黄金に変える魔法も使える。働かなくても、正直お金には困らない。
「海外は兎も角、国内なら人気を半減する方法があるだろう?」
「…綾瀬と結婚ね?」
「そう、結婚すれば人気は必ず落ちる。ファンの中には、本気で結婚しようと思っている者も少なからず存在する。芸能人と普通の一般人が結婚なんて出来るはずがないだろう?」
 結婚相手が一般人と言ってはいるが、それは芸能人ではない、と言うだけだ。年商数10億の社長とか、引退した元スポーツ選手だとか、はたまた幼馴染だったり、学生時代からの恋人一筋で、密かに付き合い続けていたとか、結局は普通の一般人では無いのだ。
「そうだね…綾瀬とは婚約しているし、結婚しても誰も驚かないしね…」
 でもまだその時期では無い事は理解している。
「一層の事、辞めたらどうだ?」
「ふふふ、う~ん、確かに始めたばかりの頃は、乗り気じゃなかったんだけどね。でも今は楽しくて…辛いし、キツイし、何でこんな事してるんだろう?と思った事もあるけれど、皆んな笑顔で喜んでくれるのよ。私なんかに会えるのが幸せだって言ってくれるの。そんな仕事なんて他に無いでしょう?」
「続けるも辞めるも瑞稀の自由だよ」
 来夢と唇を重ねると、押し倒された。この行為はただの自慰行為だ。来夢は生殖行為が必要無いからだ。来夢は女性になれるから、男性目線で例えるなら、動くダッチワイフと同じだ。だから来夢との行為では、綾瀬に対して罪悪感を感じない。ただ、日頃のストレス発散で、性欲を満たしているだけなのだから。
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