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【第6部〜アイドル編〜】

第25話

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「Mizukiお疲れ様」
「お疲れ様でした」
 今日は、私のソロコンサートデビューの日だった。アイドルグループを卒業して女優となったが、社長がアイドルは辞めなくても良いんじゃない?と言うので、ソロデビューする事になったのだ。
「Mizukiは愛されてますね」
「当然よ、私の秘蔵っ子だもの」
 瑞稀はソロデビューでありながら、10万人を収容する会場を満員にし、名実共にスーパーアイドルとして世間に認められた。それに女優としても成功を納めている。
 これほど売れていても、彼女は決しておごり高ぶったりはせず、腰が低く謙虚だ。共演者は勿論、スタッフや守衛に至るまで笑顔で挨拶を忘れない。スタッフに愛される者は、干される事が無い事を社長は良く知っていた。
「まさか小百合が連れて来た女の子が、ここまで成長してくれるなんて、思っても見なかったわ」
 だからこそ、この業界は面白い。かつて自分も女優だった事もある。しかしはした役しかもらえなかった。自分もチャンスさえあれば、そう考えて局のお偉いさん達に抱かれた事もあった。
「枕をしてもしなくても、上に行ける者は行けるし、行けない者は行けないのよ」
 自分自身をかんがみて、そう結論に達した。それでも自分が立ち上げた事務所に於いて、枕をさせているのは、守るべきタレントと、そうでないタレントを選別しているからだ。
 上に行ける力を持っているのに枕を続ければ、精神的に病んで潰れてしまう子もいる。瑞稀にも最初は枕を強要したが、この業界には甘い夢を見てやって来る者が多い。そんな甘い世界では無い、と釘を刺してやるつもりで、ほとんどの新人に枕をさせている。瑞稀も例外ではなかった。
 瑞稀もやらされて暫くは、泣いてばかりいた。この子もどうせ潰れるんだろうな?と思い資料に目を通すと、性転換症によって女性になった元男性だと知った。男としての意思や感情を持ったまま男に抱かれたのだ。それはショックだった事だろう。
 性転換症を調べると、発症した者へのアンケートでは、最初の3ヶ月は元の性別に戻りたいと答え、それ以降は絶対に戻りたく無いと回答されている結果が出ている。この理由は、3ヶ月もすると性転換した性別に、ほぼ完全に感化されるからだ。
 瑞稀も例外無く、元の性別にはもう戻りたく無いと言った。本人の意思に関係なく、性転換症を発症した者で、元の性別に戻れた者は今の所は皆無だ。恐らく今後も瑞稀が男性に戻る事は無いだろう。
 そしてもう一つ、興味深い事実を知った。綾瀬もまた性転換症によって、女性から男性へと性別が変わった、元女性だったのだ。綾瀬が発症したのは10歳の頃と早く、まだほとんどこの病気の存在が知られていない頃だ。恐らく1人で悩んで来たに違いない。いや、もしかすると、自分が元女性であった事など、憶えていないかも知れない。
 この2人がもし仮に、元の性別に戻れたら、果たして付き合うのだろうか?興味がある所だ。

 あの後は、来夢がヂャンを殺して、戦争は終わった。瑞稀は深い悲しみで嘆き、強烈なストレスによって、本来なら20歳で呼び戻されるはずの、アナトとしての記憶が呼び覚まされたのだ。
死者蘇生リアニメーション
 この戦争によって亡くなった日本と中国の犠牲者は、謎の光に包まれると、生き返ったのだ。アメリカのチャックも生き返った。あれほど激しい戦闘だったのだ、髪の毛の1本や2本抜けていてもおかしくは無い。死者蘇生リアニメーションは、髪の毛1本からでも蘇生が可能だ。ヂャンは生き返ったが、米軍に大人しく拘束された。皆が生き返ったのは、瑞稀のお陰だとは思われず、神の奇跡だと言われた。こうして、現在に至る。

「お疲れ、瑞稀」
 社長に声を掛けられると、笑顔で応えた。
「いよいよ次は全米デビューね」
 瑞稀は、アメリカのSSS(トリプルエス)ランクであるチャックの強い希望で全米デビューが決まった。チャックは軍人だが、ロックバンドのボーカルとしても有名で、自分達のコンサートのゲストとして瑞稀を呼んだのだ。だからデビューとは言え、ソロコンサートがある訳ではない。
「瑞稀なら、きっと必ず爪跡を残せるわ」
「もう枕営業なんてしませんよ!」
「あははは、分かっているわよ」
 瑞稀がミスを犯したり、何やらやらかしてしまった時の火消しに、局の上層部や出版社の役員と寝ているのは、小百合達だ。彼女達が瑞稀を連れて来たのだから、当然だと社長は思っていた。
 小百合達は枕営業をさせられる意味を深く考えていなかったが、ある時、瑞稀のミスの穴埋めに枕をやらされている事を知ると、激怒した。
「あいつ何様なのよ!なんであたしらが、あいつの尻拭いをしなきゃならないのよ?許さない、思い知らせてやる」
 数日後、私は社長室に呼び出された。もうすぐアメリカに行くので、その為の話しかと思った。ドアをノックすると、「どうぞ」と返事をされた。
「失礼します」
 社長は険しい表情をして、眉をしかめていたので、良い話しでは無い事を察した。
「瑞稀、雑誌記者が送って来たわ。先ずはこれを見なさい」
 社長に言われて見た再生動画は、私が処女を失った時のハメ撮り動画だった。
「嘘っ!何これ?矢沢さん、消してくれるって約束したのに…」
 顔面蒼白になり、ふらついて倒れ掛けたのを、マネージャーに支えられた。
「あの男、あなたを抱いた記念に持っていたみたいね?消すって言ったって、口約束でしょう?何でそんなの信じたのよ!?」
「だって!消してくれる約束でもう一度寝たのよ…嘘つき…酷過ぎる…」
「泣かないで、鬱陶しい。泣いたって何も解決しないでしょう?」
 社長は時々、冷淡過ぎるほど冷淡だ。
「大丈夫…大体は、誰がやったのか分かってるから。問題はどうやって出版を差し止めるかよ」
「どうすれば…?」
「この記事を書いた記者が、貴女を抱かせるなら差し止めても良いと言っているわ」
「嫌です…うっ、う、うぅ…。私には…綾瀬が…」
「そんな事は分かっているわ。でも今は大事な時期なの…全米デビューも控えているわ…。瑞稀…無理強いはしたくない…でも…どうするべきか分かっているでしょう?」
 私はうずくまって、号泣した。

 数日後、私はボロアパートの一室に1億円が入ったアタッシュケースを持って訪れた。
「おほっ、やぁ、よく来てくれたね。さぁさぁさぁ、入って、入って!」
 足の踏み場も無いほど、床に新聞やら雑誌が無造作に積み重ねられている。いきなりベッドがある寝室に通された。記者は上を脱ぎ始め、ズボンを脱いでパンツだけになった。私は思わず目を逸らした。
「さぁ、見せて」
 私はアタッシュケースを開けて現金を見せた。
「ふーん、確かに1億円ありそうだな?まぁ、あの記事で稼がせてもらうはずの金だ。遠慮なく頂くよ。で、もう一つのモノも頂くとしようか?」
「あ、あの…。あの記事は…」
「分かってる、分かってる。俺の気が変わらない内に、隣に座れよ!」
 私は記者の隣に座ると、直ぐに肩を抱き寄せて胸に触れた。無理矢理に口付けをされると、すぐに上半身を裸にされ、胸に口を付けられながら、片手はスカートをめくって下着の上から触られた。
「何だ?もう濡れてるじゃないか?そっちもその気かよ?あははは」
「嫌っ…そんなのじゃない…」
 私は涙目で記者を見た。
「近くで見ると、より一層可愛いねぇ。こんな美女とやれるなんて、最高だぜ!ほらっ、舌を出しな」
 舌を出すと咥えられ、吸われた。その間も胸を揉む手は下着の中に入り、直接触れられた。私は声を出して泣いてしまった。
「何だ?アイドルだなんて言っても皆んなビッチばかりだろう?お前もそうだ!枕なんてやってなければ、こんな事にはならなかったんだ!ほらっ、早く股を開きな!俺のモノをぶち込んでやるよ」
 私の顎を掴んで、唇を舌で舐め回した。
「うあぁぁん…ひっく…ひっく…嫌だぁ…。許して…あぁん…。私…結婚…するの…綾瀬と…嫌だぁ…許して、綾瀬…ごめん…ごめんなさい…綾瀬…ごめん…うっ…う」
「ふふふ、結婚するのに枕なんてやってたのか?それなら俺にもやらせてくれよ」
 パンツを脱がされると挿入され、腰を動かされると、溢れる涙で何も見えなくなった。
「くふうっ、俺今No.1アイドルとやってるぜ。あははは、最高だ、気持ち良い。あぁ最高だ。こんな美女とヤってる俺は勝ち組だぜ!あははは」
 記者は腰の動きを早めた。
「ちっ、少し遅かったか…」
「そのお粗末なモノを彼女から抜け」
 こめかみに銃口を押し付けられると、記者は両手を上げて私から離れた。
「残念だったな。もう少しでイきそうだったか?」
 突然入って来た黒ずくめの男達に犯されるのでは?と胸を手で隠して震えた。
「あんたMizukiちゃんだろう?俺らは、あんたを助けに来たんだ。安心してくれ」
 男の1人が私に上着を羽織らせてくれた。
「あ、有難う…ございます…」
 入室して来た男達の雰囲気から、恐らく全員がヤクザだと感じた。
「ふふふ、綺麗だな。俺はあんたのファンなんだぜ?安心しな、あんたを犯したコイツには、きっちり落とし前をつけさせるからよ」
「ほらっ、行くぞ!あんたは、衣服を整えてから、ゆっくり出て来な。俺らと一緒だと、思われちゃならねぇ」
 黒ずくめの男達は、1億円の入ったアタッシュケースを手に取って部屋を出た。
 私は涙を拭くと、衣服を整えてから外に出た。念の為、ドアノブなどを拭き取った。

「そう?終わったのね?瑞稀には知られていないわね?あの子が知ったら、きっと耐えられないわ。うん、うん、分かっているわ。報酬は例の口座に振り込んでおくわ。有難う、また宜しくね?それじゃ…」
 社長は椅子に深く腰掛け、タバコを口にすると、天井を向いて大きく吐き出した。
「馬鹿ねぇ。今や瑞稀は、ウチの大切な看板娘なの。地べたを這いずる事しか出来ない虫ケラの分際で、身の程をわきまえていれば死なずに済んだものを…本当に馬鹿な子…女の嫉妬ほど醜い物はないわね…小百合…」
 この日以降、雑誌記者と小百合の姿を見た者はいない。まるで最初から存在していなかったかの様に、完全に痕跡が消されたのだ。
 小百合が消えた事によって、警察が事務所に訪れて聴き込みをしていたが、社長が応対していた。私にも事情聴取があったが、最近は全く会っておらず、分からないと答えた。
「本当、何処に行ったのかな?小百合…」
 
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