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【第6部〜アイドル編〜】

第24話

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 こうなったのも、私の優柔不断な所為でもある。ヂャンを受け入れて、確かに私達は愛し合っていた。それなのに帰国すると、綾瀬が自分の為に重傷を負って植物状態になっていた。綾瀬への愛を再確認し、ヂャンとの関係を話すと綾瀬は、私は俺のモノだと公言する為に婚約を発表した。この時、私がヂャンに説明し、きちんと別れを告げていれば、こんな事になっていなかったかも知れない。
 私はヂャンの元に居たが、心は綾瀬の元にあると言った。それを律儀に守っていたが、綾瀬が母とHした事を知ってしまった。
 母の分身体が綾瀬だけでなく、私の中にも入っているので、起こった出来事が直接脳に知らされたからだ。綾瀬に裏切られた気持ちをいだいたが、私も毎晩、ヂャンに抱かれているのだから、文句を言う資格は無いと思った。
 私は「心を入れ替えて妻になる」と宣言してからは、ヂャンに尽くす様に心掛けた。すると、一時期は暴力まで振う様になっていたのに、私を大切に扱い出した。
「殴ったりして、すまなかった。心から愛しているんだ。お前を失いたく無い、誰かに奪われるのが怖いんだ」
 そう言って泣きながら謝って来た。私もヂャンと、深く愛し合っていた時期があるのだ。私はヂャンが嫌いな訳では無かった。ただ綾瀬に操をみさおを立てていただけだ。
 綾瀬が母と寝た事を知り、私は割り切る事にした。綾瀬が私を救いに来ている事は分かっている。それまでの間、私は張玉ヂャン・ユーの妻として、全力で尽くして妻としての役目を果たす。
 母は怒り心頭で、恐らく、いや間違いなくヂャンを殺すつもりだ。怒れる母を説得するのは、私でも難しい。彼と過ごす束の間を、せめて私との楽しい思い出で埋めてあげようと思った。
「逃げたりなんて出来ないから、観光がしたいな」
 私がそう言うと、何か考え事をしていたが承諾してくれた。
 観光しようと外に出ると、何か嫌な予感がした。虫の知らせの様な物だ。ここに居てはマズイ。そう思った瞬間、目を疑う光景が広がった。
隕石群落下メテオフォール
 上空から隕石が、雨あられの様に降り注いだのだ。
「古き友を救いに来た」
 それはずっとベールに包まれて来た、米国が秘する最後のSSS(トリプルエス)ランク、『ザ・セカンド』の称号を持つチャールズ・ウィル・ロビンソン(通称チャック)だった。
 彼は、地水火風の四大元素を操り、天変地異をも起こせる、最強の人類と呼ばれるスキルホルダーだ。
時間停止シージィェンティンヂー
 ヂャンは、頭上に落下して来る隕石の時間を停止させた。
張玉ヂャン・ユー、お前はやり過ぎた」
「馬鹿な!米国が介入して来るなど、世界大戦でも起こすつもりかぁ!」
「馬鹿はお前だ。今やお前はただのテロリストだ。米軍われわれは、テロリストから中国を解放する為に来た」
「ぬかせ!今は俺が中国だ。同じ事だ!」
 その言葉を聞くとほぼ同時に、チャックは攻撃呪文を唱えた。
雷神槌雷撃トールハンマー
 超高出力で放たれた電撃を、ヂャンは空間魔法でギリギリ逃れた。
「お前の能力スキルは把握している。時空間魔法、超強力なスキルだが、その効果範囲は狭い。距離を取ればお前など敵では無い!」
 そう言うと、ヂャンの背に隠れる少女の姿を見た。
「それはお前が連れ去った日本人のMizukiでは無いのか?戦闘に巻き込んで傷付けるつもりか?女性に危害を加えるつもりはない」
「俺も瑞稀を巻き込むつもりは無い!」
 目で離れていろと指示され、私はそそくさとその場を離れた。
 あれが米国のSSS(トリプルエス)ランクか、初めて見た。同じランク同士の戦いだが、どちらが勝つとは言えない。
 張玉ヂャン・ユーは魔王アーシャと同じランクの時空間魔法の使い手だが、魔王とは魔力が違う。その為、アーシャよりも効果範囲が狭い。だが、能力スキルに違いは無いので、空間魔法で身体を異空間に削られれば、勝負は決まる。
(あれが、ザ・ファーストのMizukiか…。ヂャンに連れ去られた同盟国のSSS(トリプルエス)ランク…。不老不死の上に、死者をも蘇らせる呪文が使えると聞く。あの回復呪文で、ヂャンの援護をされれば勝ち目は無いと思っていたが、離れてくれて助かった)
 それぞれの思惑があり、瑞稀を戦いの場から遠ざけた。
「死ね!」
 2人は、ほぼ同時に呪文の詠唱に入った。通常は、魔法をイメージする呪文名を唱えるだけで効果を発揮する。しかし、より殺傷力の高い威力にするには詠唱が必要だ。
「今なら逃げ出す好機だけど、日本は攻められて、私が嫁ぐ条件で停戦した。だから逃げても帰る場所なんて無い。それにヂャンは夫、本来なら夫の味方をするべきだけど、米国は日本の同盟国だ。どうすれば良い?」
 私は地上から、2人の戦いを見守っていた。チャックは、ヂャンの攻撃範囲に入らない様に距離を取っている為、チャックの方が優勢に見えた。
「へぇ~人間にもマシなのが居るのね?でもあの男、ヂャンに殺されるわよ」
「お母さん!どうして?」
「あの男は、自分の強力な能力スキルに相当自信があるみたいで、おごり高ぶっているわね?それに対してヂャンの方は、計算尽くで動いている。空間魔法を見えない様に配置して罠を仕掛けているわね。そのうち避けられなくなるわよ」
 ようやく綾瀬が追い付いて来た。
「綾瀬!」
 私は綾瀬の姿を見ると、堪らずに抱き付いた。2人の姿がヂャンの視界に入り、動揺した。その隙を逃さずにチャックが仕掛けた。
暴風雨渦巻メイルストローム
 巨大な竜巻の直撃を受けたヂャンは吹き飛んだ。
「うあぁぁぁぁ!」
 メイルストロームは、ただの台風などでは無い。風が生む強烈な力で身体を引き裂き、カマイタチを生み対象を切り刻み、更には雷を招き入れる。直撃を受けたヂャンは死んだかに見えた。
異空間超重力転移ブラックホール
「うぐぉっ…お、ぉぉぉぉぉ…っ…」
 ぶちゅん。最後にそんな音が聞こえた気がした。チャックは超重力に身体を押し潰され、撒き散らした内臓までもが押し潰されながら異空間に吸い込まれて消えた。
「はぁー、はぁー、はぁー…」
 ヂャンは私達を睨み付けると、上空から地上に降り立った。
 私は両手を広げて綾瀬を庇った。
「綾瀬は傷付けない、殺さない約束よ!」
「はぁー、はぁー、ダメだ…やはりそいつは…今殺す…」
 すると母は間に入って来た。
「綾瀬に手を出したら、私が殺すわよ」
「瑞稀の母親か…笑わせるな。お前に何が出来る?」
 一瞬、母の顔が恐ろしい形相に見えた。
「うあ…あっ?」
 ヂャンは前に歩んだつもりだったが、前に出す為の左足が無かった。左半分の身体が無くなっていたからだ。
 ヂャンがバランスを崩して、前のめりに倒れる姿は、まるでスローモーションでも見ているみたいに、緩やかな気がした。
 既に息絶えている張玉ヂャン・ユーの遺体から、あふれるほど血が流れた。
 私は、ヂャンの遺体を見ると、泣き崩れた。心の何処か嫌いになれず、憎みきれなかった。彼が私を愛したのは本当だからだ。
 泣き崩れて、その場を動こうとしない私の頭を、綾瀬は優しく撫でていた。
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