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【第6部〜アイドル編〜】
第22話
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綾瀬と婚約した私は、堂々と綾瀬と手繋ぎデートを重ねた。フォーカスされても、2人で手を振って見せた。ファンは遠慮気味に遠目から私達を見て、パーソナルエリアを守ってくれていた。
「堂々としていれば、週刊誌なんて怖くないのよ?」
私はコソコソせずに、腕を組んで街中を歩き、出演番組内でも綾瀬とのラブラブぶりを意図的に話した。綾瀬は元のグループ内でも、キレる怖そうなキャラで恐れられていたが、彼女が私なので好印象を持たれ、可愛い一面もあるとギャップ萌えで人気となり、以前の出演が少なかったバラエティー番組にも呼ばれる様になった。
この世界は、第5部の終わりから500年後の世界だ。500年前はスキルを持った者も多くいたが、スキルは遺伝しない為、現在でもスキルを持っている者は、不老長寿の称号持ちだけだ。この時代では、彼らをスキルホルダーと呼ぶ。
人類最高ランクはSSS(トリプルエス)ランクで、アメリカと中国の張玉、そして日本の瑞稀の3人しかいなかった。そのうち瑞稀は、虞美人の生まれ変わりである事が分かり、更には唯一神ヤハウェと女神アシェラとの間に生まれた娘(女神アナト)である事が分かった。
アナトは自ら天界から地上に堕りて、人間として生きる道を選んだ。人類で、いや神々も含めて唯一、不老不死であり、最高ランクであるテンダラース(S10ランク)だ。余りにも強過ぎる為、自らのランクを封印し、SSS(トリプルエス)ランクに抑えている。
アナトのオリジナルスキル『Game Start』は、負けそうになれば何度でも『Continue』が使え、勝ち筋を見つけるまで繰り返す事が可能だ。
その為、不老不死であるアナトは、途方も無い時間をかければ、どんな相手にも必ず勝てると言う事だ。このスキルで、父である唯一神ヤハウェにも勝った。最強の神となったと思いきや、「能ある鷹は爪を隠す」もので、真の実力者は母アシェラだったのだ。『超強力催眠』は、夢と現実の境目を無くし、夢か現実か分からなくなるスキルだ。催眠に掛けられた相手は無防備となり、術者の意のままに操られる。これにより、どんな相手にも勝てるのだ。ただし、眠らない相手には効果が無い。
その頃、密かに地球に危機が迫っていた。全宇宙の生命体を喰らい尽くしながら地球に飛来した古の不定型生物によって、魔界の全生物は喰らい尽くされ、遂に人間界に現れると、国から国へ生物を喰らいながら移動する。世界の人口は半減した。
アナトが「食べても食べても飢えて満たされないのは、心が満たされてないからよ」と訴えて愛を与えると、エルダー・スライムは必要以上に喰らう事を止めた。
アナトのお陰で全宇宙は救われたのだ。エルダー・スライムを恵留田来夢と名付け、2人は恋人の様に寄り添った。未来永劫、2人は共にするはずだったが、500年ほど経つとアナトは、古くなった身体を再生する為に身体を燃やし、灰の中から赤子となって復活した。来夢は、赤子のアナトを育てる為に母となったのだ。
母となった来夢は、かつての恋人が大人になるまで見守っている。500年前のアナトが男性の時に青山瑞稀と名乗り、女性の時は神崎瑞稀と名乗っていた事は知っていたので、赤子のアナトは男の子だったから、来夢は青山瑞稀と名付け、自分は青山来夢と名乗った。まさか性転換症で、女性になるとは思わなかった。
ある日、綾瀬と手を繋いで歩いていると、「まさか瑞稀?」と知らない男性から声を掛けられた。怪訝な様子の私を見て、「呼び止めてすまない。俺にはお前に声を掛ける資格はない」そう言って立ち去った。
「今の奴を知っているのか?」
「さぁ?知らない人。私のファンなんじゃ無いのかな?」
「あいつ、有名人だぜ?日本で数少ないスキルホルダーで、名前は山下巧だ。ランクは確か…AAA(トリプルエー)ランクじゃなかったかな?本当に知らないのか?」
「うん、知らない。顔も初めて見たし、名前も初めて聞いたよ」
そうは言ったものの、確かに見た事がある気がした。お母さんなら何か知っているかも知れない。
その日、驚くべきニュースが飛び込んで来た。中国でクーデターが起こり、軍部は制圧され、軍事力を背景にして政府に降伏を迫り、政権が交代したと言うのだ。その首謀者は、張玉元帥だった。
そして張玉は、日本に宣戦布告した。「3日以内に瑞稀の身柄を渡さなければ、日本を蹂躙し、力ずくで瑞稀を奪う」と発表した。
国際社会でやり玉に挙げられたが、全く意に返さなかった。日本政府は、「その様な要求は飲めない」と拒否した。
その日本政府の意思表示後、直ぐに中国は軍事行動に移した。瑞稀は、横浜市港北区のセンター北近くに住んでいる。それを避ける様にして、ミサイルを各地に1000発ほど撃ち込んだ。
日本各地に備えられた基地から迎撃ミサイルが発射されたが、着弾する前にほとんどのミサイルを撃墜した。すると更に1000発が撃ち込まれた。これを5回も繰り返されると、日本に備えられた弾薬は尽き、遂に日本各地に着弾し、甚大な被害を及ぼした。更に手を緩める事無く、1000発のミサイルを発射されたとのJアラートを聞いた日本人は絶望した。
ここに来て中国は、日本に対して改めて提案した。
①日本の降伏
②日本の滅亡
③瑞稀を差し出す
いずれかを受け入れなければ、日本が焦土になるまで攻撃の手は緩めないと宣言した。猶予は1日とされた。
瑞稀のいる神奈川県には1発のミサイルも撃ち込まれていない為、全国各地から神奈川県を目指す者で溢れた。しかし、ほとんどの道路はミサイルによって寸断され、あるいは道が無くなっており、車を走らせるのは困難だった。
ここに来て国民は瑞稀を渡せば解決すると、瑞稀の事務所を数万人が押し寄せて襲撃したが、すでにもぬけの殻であった。
身の危険を察した社長は、瑞稀らタレントや事務所のスタッフを連れて、核シェルターに避難していた。
「こんな場所が事務所の地下にあったんですね?」
「そうね。まさか使う事になるとは思わなかったけど、備えあれば憂いなしね」
「張、どうしてこんな事を…」
「貴女が1番良く分かっているはずじゃない」
「愛するお前が婚約した為に、なりふり構わず手に入れようとしているんだ。俺も逆の立場ならそうしたい。だが、俺にはそんな力は無い。あいつは世界最強のSSS(トリプルエス)ランクで、それが出来る力があっただけさ」
「馬鹿よ…私なんかの為に…何人殺せば気が済むのよ…そんなので私を手に入れても、心が動く訳ないじゃないの…」
ポロポロと涙が出て来た。間接的に私のせいだ。この惨劇を招いたのは、私のせいだ。ミサイル攻撃で亡くなった遺族は、張だけでなく、私も恨んでいるに違いない。
ラジオを聴いていると、タイムリミットで発射されるミサイルは、核ミサイルであると発表された。照準は博多、神戸、札幌の3ヶ所との事だった。
仮に撃墜出来たとしても、日本に死の灰が降り注ぐ事になる。日本政府は瑞稀の身柄を確保して、渡す為の猶予期間を設けて欲しいと交渉した。張は「3日、これ以上は待てない」とした。
ラジオでは盛んに、私が出頭する事を呼び掛けていた。
「よせ!止めろ、行くな!」
「だって私が行かないと…」
「行くな…もう2度と会えなくなる…」
綾瀬は私を抱き締めて、肩を震わせて泣いた。
「私だって行きたくないよ…」
でもこれ以上、犠牲者を出す訳にはいかない。私が張の元に行かなければ、どちらにしろ非国民扱いされるだろう。
「最期だから少しの間、2人きりにさせて欲しい。綾瀬に抱かれたいの」
広くはないシェルター内だ。寝室となる部屋は2ヶ所だけだ。綾瀬とHしたいと言ったのだから、行為が終わるまでは寝室には来ないだろう。
2人は愛を確かめ合う様に、何度も身体を求めた。
「張の元に居ても、私の心は貴方と共にある。私が愛しているのは、貴方だけ…それを忘れないで…」
「俺もだ、瑞稀…絶対に…お前を忘れない…」
翌日、私は1人で出頭した。社長や綾瀬は私をかくまっていた為に、国民から恨まれている。張が、私に指1本でも傷付けたら日本に全面戦争を仕掛けると言っていた為に、私が危害を加えられる恐れは少ない。
だが、警察から政府に引き渡される時、集まった群衆から罵声を浴びせられた。
「お前のせいで、俺の娘は死んだんだ!」
「何してる!さっさと、中国にでも嫁げよ!こうなったのも皆んなお前のせいだ!」
やり場の無い怒りを私にぶつけて来る。私だって被害者のはずだ。私は目を瞑って罵声に耐えた。
約束の時刻、張は現れた。停戦同意書を携え、首相とサインを交わして握手をした。乾いた拍手が響き、白けた場はお開きとなった。
私は張に連れられてヘリに乗り込み、中国へと飛び去った。中国に連れ去られた私は、終始人形である事に努めた。ずっと遠くを見つめ、一言も発さず、トイレ以外では身動きをするのを止めた。
それでも張は根気よく私に話しかけ、毎晩抱いた。入浴も毎日、張が入れ、私の身体を洗ったが、私は人形である事に徹した。
張が私に飽きるのを待っていたのだ。「私の心は綾瀬と共にある」張に何をされている時も、綾瀬との楽しかった日々を想い、心を閉ざした。
とうとう堪え切れ無くなった張は、テーブルを蹴ってひっくり返し、手に取れる物を周囲に投げ付けて割った。
決して私に振るわなかった暴力を、髪の毛を掴んで引き摺り回された。何度も顔をビンタされたが、それでも目は虚で、一点を見つめた。
「良く分かった。お前がそんな態度を続けるつもりなら、お前の元婚約者を連れて来よう。お前の目の前で人豚が出来るかもな?」
人豚とは、かつて劉邦の妻呂后が、劉邦亡き後権力を握り、劉邦に寵愛を受けた戚夫人に怨みを晴らす為に行った仕打ちだ。それは、両目を抉り、両耳、鼻を削ぎ落とし、喉を薬品で潰し、両手両足を切断すると肥溜に捨てて見せ物にしたと言うもので、中国に於いては知らない者はいない。
当然、中国史をよく知る瑞稀が知らないはずはなく、青ざめた。
「止めて!お願い、止めて下さい…お願いします」
裸のまま土下座をして許しを乞うた。
「俺に心を閉ざしたお前が、男の為にそこまでするのか!許せん!絶対に生きたまま切り刻んでやる!」
「お願いします!あの人には、彼には手を出さないで!その代わり、どんな事でも受け入れますから…うっ、うぅ…」
「それなら、俺を愛せ!また昔からみたいに愛し合うんだ。それが出来なければ男の命は無い」
「分かりました…私は貴方の妻として、貴方を愛します…」
張は満足そうに私に口付けをすると、押し倒した。
「堂々としていれば、週刊誌なんて怖くないのよ?」
私はコソコソせずに、腕を組んで街中を歩き、出演番組内でも綾瀬とのラブラブぶりを意図的に話した。綾瀬は元のグループ内でも、キレる怖そうなキャラで恐れられていたが、彼女が私なので好印象を持たれ、可愛い一面もあるとギャップ萌えで人気となり、以前の出演が少なかったバラエティー番組にも呼ばれる様になった。
この世界は、第5部の終わりから500年後の世界だ。500年前はスキルを持った者も多くいたが、スキルは遺伝しない為、現在でもスキルを持っている者は、不老長寿の称号持ちだけだ。この時代では、彼らをスキルホルダーと呼ぶ。
人類最高ランクはSSS(トリプルエス)ランクで、アメリカと中国の張玉、そして日本の瑞稀の3人しかいなかった。そのうち瑞稀は、虞美人の生まれ変わりである事が分かり、更には唯一神ヤハウェと女神アシェラとの間に生まれた娘(女神アナト)である事が分かった。
アナトは自ら天界から地上に堕りて、人間として生きる道を選んだ。人類で、いや神々も含めて唯一、不老不死であり、最高ランクであるテンダラース(S10ランク)だ。余りにも強過ぎる為、自らのランクを封印し、SSS(トリプルエス)ランクに抑えている。
アナトのオリジナルスキル『Game Start』は、負けそうになれば何度でも『Continue』が使え、勝ち筋を見つけるまで繰り返す事が可能だ。
その為、不老不死であるアナトは、途方も無い時間をかければ、どんな相手にも必ず勝てると言う事だ。このスキルで、父である唯一神ヤハウェにも勝った。最強の神となったと思いきや、「能ある鷹は爪を隠す」もので、真の実力者は母アシェラだったのだ。『超強力催眠』は、夢と現実の境目を無くし、夢か現実か分からなくなるスキルだ。催眠に掛けられた相手は無防備となり、術者の意のままに操られる。これにより、どんな相手にも勝てるのだ。ただし、眠らない相手には効果が無い。
その頃、密かに地球に危機が迫っていた。全宇宙の生命体を喰らい尽くしながら地球に飛来した古の不定型生物によって、魔界の全生物は喰らい尽くされ、遂に人間界に現れると、国から国へ生物を喰らいながら移動する。世界の人口は半減した。
アナトが「食べても食べても飢えて満たされないのは、心が満たされてないからよ」と訴えて愛を与えると、エルダー・スライムは必要以上に喰らう事を止めた。
アナトのお陰で全宇宙は救われたのだ。エルダー・スライムを恵留田来夢と名付け、2人は恋人の様に寄り添った。未来永劫、2人は共にするはずだったが、500年ほど経つとアナトは、古くなった身体を再生する為に身体を燃やし、灰の中から赤子となって復活した。来夢は、赤子のアナトを育てる為に母となったのだ。
母となった来夢は、かつての恋人が大人になるまで見守っている。500年前のアナトが男性の時に青山瑞稀と名乗り、女性の時は神崎瑞稀と名乗っていた事は知っていたので、赤子のアナトは男の子だったから、来夢は青山瑞稀と名付け、自分は青山来夢と名乗った。まさか性転換症で、女性になるとは思わなかった。
ある日、綾瀬と手を繋いで歩いていると、「まさか瑞稀?」と知らない男性から声を掛けられた。怪訝な様子の私を見て、「呼び止めてすまない。俺にはお前に声を掛ける資格はない」そう言って立ち去った。
「今の奴を知っているのか?」
「さぁ?知らない人。私のファンなんじゃ無いのかな?」
「あいつ、有名人だぜ?日本で数少ないスキルホルダーで、名前は山下巧だ。ランクは確か…AAA(トリプルエー)ランクじゃなかったかな?本当に知らないのか?」
「うん、知らない。顔も初めて見たし、名前も初めて聞いたよ」
そうは言ったものの、確かに見た事がある気がした。お母さんなら何か知っているかも知れない。
その日、驚くべきニュースが飛び込んで来た。中国でクーデターが起こり、軍部は制圧され、軍事力を背景にして政府に降伏を迫り、政権が交代したと言うのだ。その首謀者は、張玉元帥だった。
そして張玉は、日本に宣戦布告した。「3日以内に瑞稀の身柄を渡さなければ、日本を蹂躙し、力ずくで瑞稀を奪う」と発表した。
国際社会でやり玉に挙げられたが、全く意に返さなかった。日本政府は、「その様な要求は飲めない」と拒否した。
その日本政府の意思表示後、直ぐに中国は軍事行動に移した。瑞稀は、横浜市港北区のセンター北近くに住んでいる。それを避ける様にして、ミサイルを各地に1000発ほど撃ち込んだ。
日本各地に備えられた基地から迎撃ミサイルが発射されたが、着弾する前にほとんどのミサイルを撃墜した。すると更に1000発が撃ち込まれた。これを5回も繰り返されると、日本に備えられた弾薬は尽き、遂に日本各地に着弾し、甚大な被害を及ぼした。更に手を緩める事無く、1000発のミサイルを発射されたとのJアラートを聞いた日本人は絶望した。
ここに来て中国は、日本に対して改めて提案した。
①日本の降伏
②日本の滅亡
③瑞稀を差し出す
いずれかを受け入れなければ、日本が焦土になるまで攻撃の手は緩めないと宣言した。猶予は1日とされた。
瑞稀のいる神奈川県には1発のミサイルも撃ち込まれていない為、全国各地から神奈川県を目指す者で溢れた。しかし、ほとんどの道路はミサイルによって寸断され、あるいは道が無くなっており、車を走らせるのは困難だった。
ここに来て国民は瑞稀を渡せば解決すると、瑞稀の事務所を数万人が押し寄せて襲撃したが、すでにもぬけの殻であった。
身の危険を察した社長は、瑞稀らタレントや事務所のスタッフを連れて、核シェルターに避難していた。
「こんな場所が事務所の地下にあったんですね?」
「そうね。まさか使う事になるとは思わなかったけど、備えあれば憂いなしね」
「張、どうしてこんな事を…」
「貴女が1番良く分かっているはずじゃない」
「愛するお前が婚約した為に、なりふり構わず手に入れようとしているんだ。俺も逆の立場ならそうしたい。だが、俺にはそんな力は無い。あいつは世界最強のSSS(トリプルエス)ランクで、それが出来る力があっただけさ」
「馬鹿よ…私なんかの為に…何人殺せば気が済むのよ…そんなので私を手に入れても、心が動く訳ないじゃないの…」
ポロポロと涙が出て来た。間接的に私のせいだ。この惨劇を招いたのは、私のせいだ。ミサイル攻撃で亡くなった遺族は、張だけでなく、私も恨んでいるに違いない。
ラジオを聴いていると、タイムリミットで発射されるミサイルは、核ミサイルであると発表された。照準は博多、神戸、札幌の3ヶ所との事だった。
仮に撃墜出来たとしても、日本に死の灰が降り注ぐ事になる。日本政府は瑞稀の身柄を確保して、渡す為の猶予期間を設けて欲しいと交渉した。張は「3日、これ以上は待てない」とした。
ラジオでは盛んに、私が出頭する事を呼び掛けていた。
「よせ!止めろ、行くな!」
「だって私が行かないと…」
「行くな…もう2度と会えなくなる…」
綾瀬は私を抱き締めて、肩を震わせて泣いた。
「私だって行きたくないよ…」
でもこれ以上、犠牲者を出す訳にはいかない。私が張の元に行かなければ、どちらにしろ非国民扱いされるだろう。
「最期だから少しの間、2人きりにさせて欲しい。綾瀬に抱かれたいの」
広くはないシェルター内だ。寝室となる部屋は2ヶ所だけだ。綾瀬とHしたいと言ったのだから、行為が終わるまでは寝室には来ないだろう。
2人は愛を確かめ合う様に、何度も身体を求めた。
「張の元に居ても、私の心は貴方と共にある。私が愛しているのは、貴方だけ…それを忘れないで…」
「俺もだ、瑞稀…絶対に…お前を忘れない…」
翌日、私は1人で出頭した。社長や綾瀬は私をかくまっていた為に、国民から恨まれている。張が、私に指1本でも傷付けたら日本に全面戦争を仕掛けると言っていた為に、私が危害を加えられる恐れは少ない。
だが、警察から政府に引き渡される時、集まった群衆から罵声を浴びせられた。
「お前のせいで、俺の娘は死んだんだ!」
「何してる!さっさと、中国にでも嫁げよ!こうなったのも皆んなお前のせいだ!」
やり場の無い怒りを私にぶつけて来る。私だって被害者のはずだ。私は目を瞑って罵声に耐えた。
約束の時刻、張は現れた。停戦同意書を携え、首相とサインを交わして握手をした。乾いた拍手が響き、白けた場はお開きとなった。
私は張に連れられてヘリに乗り込み、中国へと飛び去った。中国に連れ去られた私は、終始人形である事に努めた。ずっと遠くを見つめ、一言も発さず、トイレ以外では身動きをするのを止めた。
それでも張は根気よく私に話しかけ、毎晩抱いた。入浴も毎日、張が入れ、私の身体を洗ったが、私は人形である事に徹した。
張が私に飽きるのを待っていたのだ。「私の心は綾瀬と共にある」張に何をされている時も、綾瀬との楽しかった日々を想い、心を閉ざした。
とうとう堪え切れ無くなった張は、テーブルを蹴ってひっくり返し、手に取れる物を周囲に投げ付けて割った。
決して私に振るわなかった暴力を、髪の毛を掴んで引き摺り回された。何度も顔をビンタされたが、それでも目は虚で、一点を見つめた。
「良く分かった。お前がそんな態度を続けるつもりなら、お前の元婚約者を連れて来よう。お前の目の前で人豚が出来るかもな?」
人豚とは、かつて劉邦の妻呂后が、劉邦亡き後権力を握り、劉邦に寵愛を受けた戚夫人に怨みを晴らす為に行った仕打ちだ。それは、両目を抉り、両耳、鼻を削ぎ落とし、喉を薬品で潰し、両手両足を切断すると肥溜に捨てて見せ物にしたと言うもので、中国に於いては知らない者はいない。
当然、中国史をよく知る瑞稀が知らないはずはなく、青ざめた。
「止めて!お願い、止めて下さい…お願いします」
裸のまま土下座をして許しを乞うた。
「俺に心を閉ざしたお前が、男の為にそこまでするのか!許せん!絶対に生きたまま切り刻んでやる!」
「お願いします!あの人には、彼には手を出さないで!その代わり、どんな事でも受け入れますから…うっ、うぅ…」
「それなら、俺を愛せ!また昔からみたいに愛し合うんだ。それが出来なければ男の命は無い」
「分かりました…私は貴方の妻として、貴方を愛します…」
張は満足そうに私に口付けをすると、押し倒した。
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