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【第6部〜アイドル編〜】

第15話

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 私は昏睡レイプ事件の被害者として、世間に明るみになってからは、同情もあり少しずつCMや番組の出演本数が増えて来た。しかしそう言う目で見られがちとなり、枕営業を暗にほのめかしてくる番組のお偉いさんが増えた。彼氏がいても気にせずにそう言う行為を行う人もいるが、私には出来ないので、理由を付けて断っている。
「写真集ですか?」
 アイドル時代に1度だけ、雑誌の水着グラビアを撮影をした事がある。今度はソロでの撮影だ。あんまり激しいのが無いのならと言われ、気乗りはしなかったがOKした。
 実際に撮影が始まると、露出が多くなる水着や際どいポーズを求められたりして、更には水着を脱いで手で隠しているだけのポーズも撮らされた。夢を壊して申し訳ないけど、もちろんニプレスは貼っている。そうでないと、世間に晒さずともカメラマンには見らてしまう事になるからだ。
 彼氏以外には見られたくない、と思うのは自然だろう。私の人気がまだピーク時が続いていれば、水着になるお仕事は断れただろうな?とか思ったが、考えても仕方ないので止めた。
 でも嫌な事ばかりではない。嬉しい事に、華流ドラマのオファーが来たのだ。中国史を題材にした原作漫画の映画は、中国でも大ヒットを記録し、性被害を受けた私への同情も含めて、私への人気が高まっていると言う。
 私の役は念願の華流ドラマの時代劇で、倭寇(日本海賊)に捕らわれていた日本人のお姫様が、主人公に助け出されて恋に落ちると言う設定であり、台詞は日本語と片言の中国語でも構わないとの事だった。
 全56話の作品で、私は第5話から登場し、日本に送り届けられる第21話まで出演する予定だ。前半のサブヒロイン的な存在で、私の人気を考慮してのものだろう。
「良かったわね、瑞稀」
 事務所の社長も喜んでくれた。綾瀬にもメールで報告した。綾瀬とは同じ事務所になり、付き合っていると言うのは世間的に公認はされたが、大和のファンからは相変わらず、敵視されていた。
 大和は性加害者だぞ?何でファンは幻滅しないんだ?意味が分からない。大和のファンは熱狂的な信者みたいなもので、大和と寝れるなら喜んでレイプされると言う人達だ。例え大和が全世界を敵に回しても、自分だけは味方でいようとでも思っているのだろう。
 中国への渡航までは後5日しかなく、支度に追われ、その間も綾瀬と連絡を取っていたが、忙しそうにしていて会う事は出来なかった。
 羽田空港から虹橋ホンチャオ国際空港へ直行便で行く。私は空港でもキョロキョロと辺りを見回して、綾瀬の姿を探した。しかし姿は見えなかった。メールで今日のこの時間の便で立つと連絡はしていた。返信は無かったが、密かにサプライズで来るつもりかな?と期待していたので、落胆した。
 羽田から虹橋ホンチャオまでは、およそ3時間半で着く。私はマネージャーと2人で現地に着き、通訳さんと合流する為に、待ち合わせ場所へと向かった。
「うわぁ、初めて中国…上海シャンハイに来たけど、東京なんて目じゃないくらいの大都会だね?私、中国って田舎の農村みたいな所しかないイメージだったよ」
 本気でカルチャーショックを受けた。
「へぇ、アメリカと同じで、左ハンドル右車線なんだ?」
 待ち合わせ場所に向かうタクシーの中で、田舎もんと言うか、観光客感丸出しで景色を食い入る様に見た。
「はぁ~ヤバい、めっちゃテンション上がる。ずっと中国に来てみたかったのよね~。時間が出来たら赤壁とか言って見たいなぁ」
 ワクワクが止まらない。ずっと景色を見ていたいが、そうもいかない。メイク道具を出して、化粧直しを始めた。
謝謝你シェーシェーニー(有難う)」
 お礼とチップも渡すと、嬉しそうな笑顔でタクシーの運転手は走り去った。何やら言っていたが、全く聞き取れず、何を言われたのか分からなかった。
「早く通訳さんと合流しなきゃ、言葉が分からないと誰ともコミュニケーションが取れないや」
 待ち合わせ場所に1時間以上早く着いたので、カフェに入って紅茶を飲んだ。私はコーヒーよりも紅茶派だ。子供の頃は大量に砂糖を入れていたが、今は砂糖もミルクも入れない。純粋な紅茶の味と香を愉しみたいのだ。
「すいません、お待たせしました!」
 独特の中国らしい発音だったが、十分良く分かる日本語だった。通訳さんは、シェンヂオゥさんと言う名前だ。
シェンさん、宜しくお願いします」
「そちらの社長さんから、現地で交渉してくれと言われました。お金の話しをしても良いですか?」
「はい」
 シェンさんのギャラを、私が交渉するなんて聞かされて無い。少し待ってと言って社長に電話した。
「はい、はい、そうなんですよ。えっ?あー、そうなんですね?はい、分かりました」
 どうやらシェンさんは、通訳する相手を見てから決めたいと言っていたそうだ。何せ1日の殆どを私にべったりで通訳してくれるのだ。時給の交渉をすると500元で、つまり時給1万円と言う事だ。
 撮影は深夜に及ぶ場合もあると聞いたので、20時間くらい拘束する可能性もある。その場合、5ヶ月間滞在するから3000万にもなる。まぁ、毎日20時間労働なんて流石に無いとおもうけども。
 社長に連絡して許可をもらった。シェンさんは、何処かに連絡していて、撮影場所に向かいましょうと言われた。
 そう言えば、お腹が空いたなぁ。でも言えなくて、ボーっと窓の外を眺めていると、揺れが心地良くていつの間にかに眠っていた。目的地の横店影視城は浙江省東陽市にある。
「着きましたよ」
 声を掛けられたが、日頃の疲れで目が覚めず、マネージャーに肩を揺すられて起きた。
「ふわぁ~。ごめん、眠ってた」
 鏡で顔を見ると目ヤニがついていたので、ウェットティッシュで顔を拭いた。
「うわぁ、最悪」
 慌ててメイクをする。
「ごめんなさい。少しだけ待って下さい」
 撮影現場の横店影視城に着いた。ここは超巨大な撮影セットだが、街並みが再現されていたり、城がまるまる建てられていたり、とてもセットなんかには見えない。再現された紫禁城なんて本物にしか見えない。
「凄っ…」
 中国史ファンとしては、圧倒され、口をポカーンと開けて街並みに見惚れていた。ここは観光地も兼ねていて、少し離れるとお土産屋さんもあるし、俳優も泊まるホテルに観光客も泊まる。運が良ければ、俳優にも会えるチャンスがある。もっとも、ファンに殺到されるので、部屋からは基本的に出る事は無いのだが。
「横店は広く、今撮影している現場は、ここから更に7㎞先だ」
「ふわぁ~」
 もはや感嘆の溜息しか出ない。まだ何も始まっていないのに、ここに来て良かったと感動した。
「はぁ~幸せ過ぎる」
「瑞稀さん、目がキラキラ輝いてますよ?」
「ふふふ、そりゃ嬉しいでしょう。めっちゃテンション、アゲアゲだわ」
 車の中で地団駄踏んだ。早く、早く撮影がしたい。早く降りて、本物にしか見えないセットの中を歩いてみたい。着くまでの1分1秒が、途轍もなく長く感じた。
 車から降りると撮影中だったが、私が歩いて近づくと「Mizuki、早かったね」と声を掛けられた。もちろんシェンさんが、その様に通訳してくれたのだ。
「うわ~皆んな美男美女ばかりだ…」
 撮影は一旦中断され、私の自己紹介がされ、順番に共演者の紹介と、監督やスタッフの紹介もされた。
「普通こんな事ない。撮影の手を止めてまで挨拶なんてしない。あなたが日本からわざわざ来たトップ女優だから、敬意を表して礼を尽くしたんだ」とシェンさんが教えてくれた。
「Mizuki?まさか神崎瑞稀か?」
 神崎は母方の苗字だが、今は父の苗字の青山だ。何故知っているのだろうか?
「神崎は母方で、私は父の苗字である青山です。青山瑞稀です」
 声を掛けて来たのは主演俳優の張玉ヂャン・ユゥだ。この人は何故、私の事を知っているのだろうか?
「久しぶりだね、瑞稀。500年振りくらいか?」
 私が怪訝けげんな顔をしていると、突然に張玉ヂャン・ユゥの話している言葉が理解出来る様になった。
「瑞稀がMizuki。もっと早く気が付くべきだった」
「あなたは何故、私の事を知っているのですか?」
「昔、俺たちは恋人だったんだぞ?覚えていないか?」
「恋人…?」
 また私の知らない私だ。
「撮影が終わったら、セットを案内してあげようか?」
「本当ですか?宜しくお願いしますって、まだ質問の答え、頂いてませんが…」
「500年生きてる事?んー、じゃあ500年前に神々からスキルを貰った話しがあるのは知ってるかい?不老長寿の者も居たんだ。その内の1人がこの俺だ。スキルは遺伝せず、1世代限りのものだった。その為、現在でまだスキルを保持している者をホルダーと呼ぶんだよ」
「あなたはホルダーなの?」
「そうだ。俺は普段は軍人で、軍隊にいる」
 監督らしき人が大声でヂャンさんを呼んでいた。
「すまない、話はまた後で」
 このシーンでは、倭寇の手下(何故か忍者)が、主人公一味を襲うと言うものだった。
「うーん、何だかなぁ…」
 どうも釈然としない。と言うのも、小道具は確かに日本刀ではあるが、日本では中国の様に剣を身体で、くるくる回りながら斬り掛かるなんて事はしない。
 とうとう私は我慢が出来ず、日本刀の模型を借りると、私も覚えたての、殺陣たてを見せた。監督は大喜びで、殺陣の演技指導をお願いする、と言われた。
 そして脚本を書き換えて、私は剣の達人である設定に変わり、毒を盛られた為にアッサリ捕らえられたと言う事になった。
 私は早速、明日が撮影初日となり、今日はホテルで休んで良いと言われたが、他の俳優さんの演技にうっとりと見惚れて、勉強の為に近くで見させて欲しいと願った。
 日本人は相変わらず勉強熱心だと、感心された。
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