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【第6部〜アイドル編〜】

第13話

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「はぁ…好き、大好き、綾瀬…」
 綾瀬が私を守る為に地獄の様な苦しみに耐えて臓器を抜かれた件は、私の心に深く刺さった。これ以上の愛情なんて私は知らない。自己犠牲愛こそが究極の愛だ。
 ビルが火事になり、子供を抱いた母親が自分の身体をクッションにして飛び降り、地面に叩き付けられて絶命するまでの間、子供の頭を守り、その身を案じると言う、衝撃的な動画をMytubeで見た事がある。
 これこそ究極の愛だ。私は綾瀬から究極の愛を感じ、愛しい度は常にMAX値を超えた。
「私はあなたの愛に、どう報いれば良いのか分からない」
 綾瀬との逢瀬の回数も増え、激しく彼を求める様になった。ずっと繋がっていたい。結ばれていたい。彼と1つになっている時が1番、幸福感を感じられた。
「綾瀬、大好き…愛してるわ。絶対、浮気しないで。浮気されたら、相手を殺しちゃうかも私」
 私は自分がこんなに独占欲が強く、メンヘラだったとは知らなかった。綾瀬以外、誰もいらない。綾瀬以外、何も必要ではない。恋は盲目。1日中、綾瀬の事で頭がいっぱいで、会えない日は苦痛でしかなかった。
 それを察してか事務所の社長は、嫌がらせの様に仕事を大量に入れて来た。今は恋にうつつを抜かしている時期じゃないでしょう?と暗黙の圧力プレッシャーをかけているのだ。
 頭に来た私は、社長に抗議した。
「何を甘えた事を言ってるのよ!偉そうに一人前の顔がしたいのなら、3月にあるアカデミーで主演女優賞を取って見せなさい!そうなれば貴女は、どんな我儘でも許される超一流女優の仲間入りよ。もしも取れたなら、交際を認めてあげるわ。貴女の好きになさい!」
 私は約束だからね!と逆ギレして、事務所を飛び出した。それからは、精力的に仕事をこなして、綾瀬と会う回数が月一も無くなった。
 撮影所からの帰り、車に乗り込むと、出待ちのファンが私を一目見ようと詰めかけていた。私は車内の窓を開けて、詰めかけてくれたファン達に笑顔で手を振った。
「なんか良いですね」
「何が?」
「いえ、撮影で疲れているのに、自分から窓を開けてまでファンに手を振るなんて、皆んな嬉しいでしょうに」
「ふふふ、そうね…。私ね、華流ファリュウドラマが好きだって言ったでしょう。中国の女優さんで、物凄く綺麗で、声も歌声も可愛いくて、何よりも性格が可愛い人がいるの。ウェブでね、その人のファンがUPしてた動画では、ファンに話しかけられて、車に乗り込むまで気さくに話した上に、自分から車の窓を開けて皆んなに手を振っていたの。何か良いなぁって思ったよ。思った通りの性格の良さそうな人で。私はあの女優さんの様になりたいと思って、目指しているのよ」
「そうだったんですね?」
 私が思った様に、この行動は反響が高く、「何て良いなんだ」「母親の育て方が良かったに違いない」とSNSで話題となり、私の好感度は爆上がりした。
 今やテレビに映っていない日は無く、それまでのCM女王を超えて、歴代TOPの23社に起用された。

 3月1日、この日は高校の卒業式だった。大勢の報道陣やファンが詰めかけて、高校の前は交通規制がされた。
「卒業おめでとう」
「有難う御座います」
「卒業されて、本格的に芸能界の道を歩まれると思いますが、先ずは来週の日本アカデミー賞、ノミネートおめでとう御座います。意気込みをどうぞ!」
「意気込みですか?えっと、良い作品に巡り会えた事を心から感謝しています。私にとってこの作品はデビューとなり大変感慨深い作品です。この様なステキな作品に参加出来て幸せでした。監督を始め、共演者の方々、スタッフの皆さんと創り上げた作品です。是非、応援して下さい!」
 インタビューに笑顔で手を振って応えた。
 旧友達と写真を撮影し、仕事の時間で惜しまれながら皆んなと別れ、先生にお別れの挨拶をした。

 卒業から1週間が経ち、日本アカデミー賞の受賞式が始まった。本命と目されていただけに、「作品賞」「監督賞」「脚本賞」など22部門中15部門に選ばれた。そして私は、「新人俳優賞」を受賞した。
「さぁ、今年の最優秀主演女優賞は…青山瑞稀さんです!おめでとうございます!」
 大歓声と拍手の中、舞台の上に登壇した。
「青山さんは、新人俳優賞、別の作品での助演女優賞を獲得され、この作品の主演女優賞を獲得されると言う、史上初となる三冠達成の偉業を成し遂げられた訳ですが、今のお気持ちは如何ですか?」
「はい…これも監督を始め…スタッフの…皆さんと…ファンの皆さんのお陰で、ここに…立つ事が出来ました…本当にありがとうございます…これからも、精進して参りますので…温かい応援をお願い致します…」
 感涙にせて、喉を詰まらせながら話すと、会場から大きな拍手と瑞稀コールが湧いた。
 思えばこれが、芸能界での私のピークだった。
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