上 下
178 / 343
【第6部〜アイドル編〜】

第9話

しおりを挟む
 俺は進級して、高校3年生になった。それからは、目まぐるしく仕事をした。1クールの出演ドラマが3本重なったりして、台詞を覚える頭がパンクしそうだった。
「瑞稀ちゃん、今夜食事に行かない?」
「すみません、別のドラマの撮影で…」
「あー、ごめんね。気にしなくて良いからね?」
 忙しいのは良い事だ。別の仕事を理由に、お誘いを断れるからだ。俺は綾瀬と付き合っている事を秘密にしている為、フリーだと思われている。だから、口説こうと連日の様に色んな共演者から誘われる。純粋に仲良くなりたくて、誘って来る人もいるだろうが、大和さんの件で、自分の身を守れるのは自分だけだと学習し、複数で行く場合はマネージャー同伴ならOKし、2人きりで誘われた場合は、断っていた。
 ゴールデンウィークで待望の映画公開となった。原作の超人気漫画の映画化と言う話題性もあって、初日の歴代動員人数、歴代興行収入共に日本の歴代最高記録を塗り替えた。連日、映画館は超満員で、大盛況だった。
 こうして俺は、新人ながらトップ女優の仲間入りを果たした。

「瑞稀、俺に何か言う事は無いのか?」
 久しぶりに綾瀬と会えるので楽しみにしていたが、会うなり物凄い剣幕だった。
「一体、どうしたの?」
「俺は…お前の口から聞きたかったよ…」
 そう言ってスマホの画像を見せられた。それは、大和との行為中の無修正画像だった。
「写真だけでなく、動画もあるぞ…」
「そんな…ひどい…」
 パニックになり、床に崩れ落ちて号泣して、泣き叫んだ。
「泣いてたら分かんないだろ?」
 俺は何があったのか全て話した。
「…言おうと思ってた。でも、話せばあなたと別れる事になると思って言えなかったの。ごめんなさい。別れたく無い…別れたく無いの…あぁん…うわあぁん…」
 綾瀬は泣きながら、俺を抱きしめてくれた。
「瑞稀、お前は悪くない。お前は悪くないんだ…。お前は大和の奴に盛られたんだ。盛られたんだよ!」
「盛られた?」
「レイプドラッグだ。お前は薬を盛られて、昏睡レイプされたんだよ。アイツは気に入った女は、彼氏が居ようが結婚していようがお構い無しに、この手を使って女を抱く。相手が大和だと気付いた女は大抵黙るし、そうで無かった場合でも、付いて来た女にも非があるし、旦那や彼氏に言い訳出来る状況ではない。それに妊娠した場合に備えて金を握らせるから、これまで問題にならなかったんだよ」
「そんな…」
「まさか中絶とかして無いよな?」
「ううん、念の為に産婦人科に行ったけど、大丈夫だった」
「そうか…良くないけど、良かった。でも、あの野郎…よくも俺の女を傷付けてくれたな…ブチ殺してやる!」
 血相を変えて出て行こうとしたので、抱き付いて止めた。
「止めて!お願い、止めてよ。やっと、やっと悪夢を見なくなったのよ。お願いだから、止めて。もう忘れたいの。お願いだから…う、うっ、う…」
「…悔しい、悔しいよ、瑞稀。俺は何よりも大切な自分の女も守れなかったんだ。情け無い…」
 綾瀬は俺に謝りながら号泣した。2人とも抱き合ったまま泣いていた。そのまま無言でお互いを求め合った。
「なぁ、卒業したら結婚しよう?」
「でも、結婚したら人気が落ちちゃうよ?」
「俺は良いんだよ。俺はもうアイツには我慢ならない。グループを抜けるよ」
「私も来月、グループから卒業するの。卒業公演の舞台の上で付き合ってるって、発表しちゃおうか?」
 そうは言っても、そんな事は出来ない事を理解していた。
 綾瀬が再び俺の上に乗り、唇を重ねて来たので、腕を首に回した。
「瑞稀、瑞稀…俺の、俺だけの瑞稀…」
 耳元で愛をささやかれ、綾瀬の大きな愛に包まれて、心に染み渡っていく。幸福感で心が満たされる。
「もう服、着ちゃったから…」
「また着れば良いんだよ」
 俺の方から口付けをすると、「もう時間が無いから、続きはまた今度」と言って断った。
「俺は嬉しいんだ、瑞稀。俺が一目惚れして、お前に告ったんだ。お前に交際を認めてもらってOKもらった時は、有頂天になったよ。だからずっと怖かったんだ。いつか瑞稀にフラれるんじゃないかって。でも、別れたく無いって泣いてくれた。瑞稀の愛を感じて感動してるんだよ」
「何それ?私の事を信じて無かったの?」
「信じてるよ。でも俺に自信が無かったんだよ」
「自信が無いって…、何言ってるの?私なんてポッと出の、素人同然のただの女の子だよ?あなたは、天下のGENERATIONSのメンバーで、大和さんと人気を二分するスーパーアイドルだよ?私、揶揄からかわれてるのかと思ってたわ」
「あははは、そんな事を思ってたの?でも大和の奴にサン付けなんてしなくて良いよ」
「そうだね。私あの後、共演NGにしてるから。映画の番宣は主人公とヒロインだから仕方ないけど、カットかかったら口聞いてないの」
「だからか…」
「何が?」
「俺にこの動画と写メ送って来た時のメールだよ」
「何て書いてあったの?」
「お前の女は、俺のセフレだぞ?と書いてあったよ」
ひどい…」
 ポロポロと涙が出て来た。
「ごめん。もう泣かないで…」
「そんなの絶対、私達を別れさせる為に送ってるんじゃん。動画ばら撒くって脅されたらどうしよう?脅しに使われて、セフレにされちゃうかも…。嫌だよ、綾瀬を裏切りたくないよ。どうしたら良いの?」
「俺に任せろ!何とかする」
「何とかって?」
 綾瀬は、俺を家まで送ってくれた。この時の別れ際の背中を、忘れる事が出来ない。俺はこの時、何としても止めるべきだったのだ。これが最期になるとは思いもしなかったからだ。
 綾瀬が帰った3時間後、既に深夜1時を回っていて、俺は寝ていたが玄関のチャイムが何度も鳴らされ、母が出ると警察だった。
「瑞稀さんだね?」
「はい」
「貴女は、GENERATIONSの綾瀬さんと仲が良いと聞いたのだけど、その事で話を聞きたい。その前に、気をしっかり持って聞いて欲しい。綾瀬さんは先程、息を引き取りました」
「はぁ!?」
 何て?今、この警察官は何て言った?俺の聞き間違いか?綾瀬が亡くなった?死んだって?さっきまで一緒に居たのに?
 頭の中が真っ白になって、パジャマ姿でいる事も忘れて、そのままパトカーに乗って警察署に付いて行った。
「嘘!嘘よ!何寝てるのよ、目を開けてよ!」
 真っ白になり血の気の無くなった顔に、髪の毛は濡れていた。物を言わない綾瀬に抱き付くと、声も出ずに号泣した。
「何で、何でなの?どうして死んだんですか?」
「川に落ちて亡くなられました」
「川に?何で?どうして?」
「それを我々も知りたいんですよ」
 警察官は顔を見合わせると、頷いて質問して来た。
「貴女は、綾瀬さんと最後に会ってますね?どう言ったご関係でしたか?」
「彼氏です。一緒にご飯を食べて、それから家まで車で送ってもらいました」
「なるほど、車で?綾瀬さんがお酒を飲んでいたのを止め無かったんですか?」
「綾瀬は、お酒なんて飲んでいません。私を送るからと、ノンアルコールのカクテルを2杯飲んだだけです」
「何のカクテルか分かりますか?」
「カシスオレンジと、パッションフルーツのカクテルです」
 警察はメモを取っていた。
「他に何か気になる点とかありますか?」
「私を送ってくれた後、真っ直ぐ帰らなかったのなら、私と別れる前に同じグループの大和さんに怒っていましたので、会いに行ったのかも知れません。でも、車はどうしたんでしょう?徒歩でなければ川に落ちたりしませんよね?」
「ええ、防犯カメラも当たっている所です。夜分遅くに有難う御座いました」
 俺は家に送ろうとされたが拒んで、綾瀬の遺体から離れたく無いと、手を握って泣いていた。朝方、綾瀬のご家族の方々が到着した。
「貴女が瑞稀さんね?貴女の事は、潤から良く聞かされていたわ。あの子が言っていた様に、素敵なお嬢さんね」
 綾瀬のお母さんは、俺に挨拶をすると綾瀬の手を取って泣き出した。お父さんや妹さんも駆け付けて来た。
「明日はお通夜で、明後日は葬儀になるわ。瑞稀さん、貴女もこの子を見送ってくれると、天国で喜ぶわ」
「はい、勿論そうさせて頂きます」
 俺は一度家に帰って、着替えて来ると言って霊安室を出た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

連続寸止めで、イキたくて泣かされちゃう女の子のお話

まゆら
恋愛
投稿を閲覧いただき、ありがとうございます(*ˊᵕˋ*)   「一日中、イかされちゃうのと、イケないままと、どっちが良い?」 久しぶりの恋人とのお休みに、食事中も映画を見ている時も、ずっと気持ち良くされちゃう女の子のお話です。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

調教専門学校の奴隷…

ノノ
恋愛
調教師を育てるこの学校で、教材の奴隷として売られ、調教師訓練生徒に調教されていくお話

処理中です...