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【第5部〜旧世界の魔神編〜】

第3章 異変②

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【エルダー・スライム】(いにしえの不定型生物)
 この恐るべき個体が発見されたのは、神話の時代である。この不定型生物スライムは、隕石に張り付いて地球に飛来したと言われている。そう、この不定型生物スライムはXNUMX人であり、旧世界の魔神の1人であった。
 エルダー・スライムは矮小な生命体に過ぎない。だが、進化の過程で弱肉強食を生き残る為に、他者を喰らいその能力を得る事で力を増し、食物連鎖で生き残る道を選んだのだ。
 地球に飛来したエルダー・スライムは、脆弱な自分でも、容易に取り込める微生物から喰らい始め、身体が大きくなると今度は虫を喰らい、やがては動物や魔獣を喰らう力を身に付けた。
 しかしここは人間界では無く、強者がきらめく魔界だった。己の力ではまだ足りぬと、鳴りをひそめていたのだ。その為、このエルダー・スライムの存在に気付いていた者は皆無であった。
 気付いた時にはもう手遅れであった。既に手の付けられない程の強さを身に付けて、姿を現したのだ。食物連鎖の頂点に君臨する自分が最早もはや、他者に遠慮などする必要が無くなったのだ。自分以外の全ての生物は、餌に過ぎない。
 エルダー・スライムは空腹だった。食べても食べても満たされる事の無い食欲。そうやって星1つの生物を喰らい尽くすと、身体を分裂させて、隕石に身体を張り付かせ、また新たな星の生物を喰らい尽くす為に飛来するのだ。気が遠くなるほどの年月をエルダー・スライムは、これを繰り返して来たのだ。
 エルダー・スライムは食欲の本能により、他者の生命体を発見する器官が優れている。姿を消したり、匂いを消したりしても何の意味も無く、簡単に捕食されてしまう。クラスタの城で、侍女の女の子が1人生き残ったのは全くの偶然の重なりで、幸運であった。
 次の標的は、近くの森林にいる生物だ。四手熊クワトロハンドベアー神狼フェンリルがたくさん存在している事が分かる。何度か食べた事があり、とても美味い生物だ。エルダー・スライムが森林に入ると、数日のうちに森から生物の気配が消えた。
 この異変については、他の魔王達も把握していたが、それが何であるのかまでは、突き止められないでいた。私が他の魔王達に緊急の書簡を送った。すると、直ぐに打診があった。恐らく、魔王ルシエラが察したのだろう。魔界随一の知者の彼女なら、異変に気付いていたはずだ。直ぐに会談の話しとなり、会いに行く事になった。
 落ち合う場所に行って驚愕した。ボロボロだ。ルシエラの兵で、怪我をしていない者はいなかった。瀕死の者には『完全回復パーフェクトヒール』を、重軽傷者には『上級回復ハイヒール』を唱えた。
「申し訳ありません。助かりました」
 私は魔法箱マジックボックスから魔石を取り出して、魔力を回復しながら、ルシエラのお礼を聞いた。
「一体どうしたの?…まさか…スライムにやられたの?」
「はい…油断していたとは言え、あっという間に壊滅させられました。ビゼルやアーシャも他の魔王も全員やられたと聞きます」
「嘘!?」
「ロード達も倒されたと聞きました。これで生き残っている唯一の魔王が、私だけです…」
「そんな…」
 これではもう、戦う術が無い。ゲートを開いて天界に逃げ込むしかない。可能な限りの魔界の住人を天界に逃し、あのスライムを魔界に閉じ込めてゲートを閉じる。永遠に魔界に封印するしか、方法が思いつかない。
 ルシエラに話すと、試してみようと言うので、ゲートに向かった。すると、項羽は捕えられており、その傍らには弥勒菩薩が立っていた。
「弥勒?」
 項羽はファイブスター(S5)ランクだが、弥勒はセブンスター(S7)ランクだ。取り押さえられたのは、自分のランク以下の者を強制的に平伏させるスキル『天上天下唯我独尊』に違いない。
「何です?貴女達は?」
『天上天下唯我独尊』
「うぐっ…」
 山下や麻生さんは勿論、ルシエラも地に平伏した。
「ほう?貴女は平気なのですね?」
「弥勒…こんな事をしている場合じゃないのよ。大変な事が起きているのよ!」
「知っていますよ。だから私がここに来たのです。ゲートの封印を強化し、閉じ込める為に」
「私達ごと封印するつもりなの!?」
「当然でしょう?貴女達は罪人なのです。本来なら処刑されるべき所を、流刑になっただけの事。流刑地で貴女達がどうなろうと、神々わたしたちの預かり知る所ではありません」
「弥勒、貴方そんなに非情な人だったの?貴方とは親友だったじゃない?」
「…私は貴女など存じ上げておりませんよ」
「アナト、私はアナトよ!」
「アナト…?あぁ、唯一神様の1人娘ですか?でも貴女は、天界を捨てて下界に自ら降りたのです。何故貴女が魔界ここにいるのか知りませんが、こうなった以上は運命と思って諦めなさい」
「運命?運命って何よ!私達を魔界に閉じ込めて、自分達だけ助かろうとしてるんでしょう?それでも神なの!?」
「これはおかしな事を。良いでしょう。最期に教えて差し上げましょう。あのスライムは、ただのスライムなどではありません。エルダー・スライムと言って、唯一神ヤハウェ様や、貴女と同じXNUMX人なのですよ。星々に住む生命体を残らず平らげると、次の星に狙いを定めて喰い尽くす。そうやって他のXNUMX人も含めて喰らい尽くす化け物なのです。神話の時代に既にあのスライムは、地球にやって来ていましたが、その頃はまだ簡単に封印出来るほど脆弱ぜいじゃくだったのです。それがここまで育ってしまった。あれが、人間界や天界にまで来る様な事があれば、全てを喰い尽くされてしまいます。罪人である貴女達の生命で、罪の無い大勢の者が助かるのです。考える余地などありますか?あれを野放しにすれば、魔界だけでなく、全宇宙の生命が喰い尽くされる事になるのです」
「その為に…その為に、私達を見捨てると言うの?」
「クドイですね」
「ならせめて麻生さんと山下だけでも、人間界に戻してあげて下さい。彼らはただの人間なんです。私がここに連れて来てしまったのです。お願いします」
「…良いでしょう。そのくらいの慈悲は認めましょう」
「有難う御座います」
 麻生さんと山下は、私と別れる事に抵抗し、泣き叫んだが、私は笑って見送った。やはりあのスライムは、ただ者では無かった。星々を滅ぼして喰い尽くし、地球にまでやって来たのだ。魔界はエルダー・スライムを封印する為の結界となってしまった。
「ルシエラ…可能な限り最期の時まで、足掻こう。むざむざと喰われてたまるものか」
 悲壮な決意を胸に、閉ざされたゲートを眺めた。
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