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【第5部〜旧世界の魔神編〜】

第3章 白面の魔女、再び

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 信者は、重役会議中に堂々と入って来て「我々は、アストピアだ!」と名乗った。そして重役たちを人質にして立て籠もったのだ。会議室には、社内放送用のマイクがある。密かにそのマイクのスイッチをONにして、社内に報せたのだ。
 最初は何かのイタズラだと思っていたが、アストピアの名前が出ると、社内はザワついた。直ぐに警察が来て、交渉人ネゴシエーターが説得を試みた。会社は封鎖され、報道陣が取り囲んだ。ガスマスクをした特殊係が到着すると、一層物々しさが増した。
「君たちの要求は何かね?」
「我々の要求はただ一つ。日本の政権を教祖様に譲位しろ!要求が飲まれない場合、共に天に召されるのみ!」
 最早、信者は狂信者だ。何千年もの間、世界では宗教戦争は続いている。異教徒の言葉などには耳を貸さないからだ。異教徒は改宗するなら赦す、改宗しないなら殲滅するのみ。彼らは自分達の信じる神にのみ従い、その声を代弁する教祖の言葉のみに盲目的に従う。だから最初から説得など不可能な相手なのだ。こう言う時の日本政府が取る態度は1つ、「悪には屈せず」だ。つまり、見殺しにする。だが世間的建前は通す。それは、人質はやむを得ない犠牲となったが犯人は逮捕し、これ以上の被害者を出さない様に努めた、と体裁を保つのだ。
「麻生さん…」
 私は歯軋りをしながら、社内放送を聞いていた。会議の議題に、「医務室のベッドを増やす」と言うのがあり、今回の外出禁止令や災害が起こった時、自宅に帰れない者が出た場合の仮眠室の増設を提案した為、麻生さんも会議に参加していたのだ。
「先輩!麻生さんは?」
山下が慌てた様子で話しかけて来たが、私は力無く首を振った。
「ちょっと独りにさせてくれ…」
山下から離れると、トイレに駆け込んだ。
「まさか、こんな感じで夢と同じ道を辿たどる事になるとは…でも、麻生さんは絶対に助ける」
『女性変化』『衣装替チェンジ』『魔法箱マジックボックス』と唱えて、白面の仮面を取り出して装着した。
影の部屋シャドウルーム
自分の影の中に沈む様に、足から入った。
会議室の中を影の世界から覗いて様子を伺った。重役達は、会議室の席に着いたままだ。てっきり部屋の片隅にでも、固めて集められているのかと思っていた。その中に麻生さんもいた。
 麻生さんを影の中に引っ張り込んで、救おうかとも思ったが、驚いて悲鳴を上げるかも知れない。1人ずつこっそり影の中へ救出する作戦は失敗しそうだ。
(こうなったら、堂々と現れて犯人を捕らえて去るしか無い。姿を見られてしまうけど仕方がない)
 そう決心すると、影の中から姿を現した。
「貴様、何者だ!?動くな、動いたら瓶を割るぞ!」
「私が何者かだって?お前達が崇める神の姿も知らんのか?」
そう言って宙に浮いて見せた。
「馬鹿な、何かのトリックだ。それともスキルだ。信じるな!」
「愚かな…ではどうすればお前達の神であると、信じるのだ?」
「…」
「ふん、まあ良い」
光之拘束ライトバインド
信者ら4人を光のロープで拘束した。
「私が神だと言う証拠を見せてやろう」
信者からホスゲンの入った瓶を取り結界を張ると、その中で瓶を落として割った。毒ガスは結界の中から外には漏れない。ホスゲンが充満する結界の中で、笑って見せた。ホスゲンの効果が切れると、結界を解いた。
「お前達の教祖は私利私欲の為、私の教えに背いた。故に天罰を下す!」
光玉ライト
 私の身体は光に包まれ、眩しさで目が眩み、目が慣れると姿は消えていた。光玉ライトは、闇夜で明るく照らすだけの効果しか無いが、光を強くして目眩しに使った。その間に影の世界に逃げ込んだのだ。あたかも、光に包まれて消えた様に見えた事だろう。演出の効果は絶大で、信者達は教祖が、私利私欲の為に信者を食い物にしていたと信じた。その為、教祖が命じた数々の犯罪を洗いざらい話したのである。
 日本の警察は優秀で、隠れていた教祖を探し出し、追い詰めた。逃げ切れないと悟った教祖は、取り囲んだ警察官の前で、ホスゲンの入った瓶を割り、多くの警察官を巻き添えにして自害した。こうして後味の悪い事件は、教祖の死と言う形で終息した。
 意図せず、事件解決に貢献した「白面の魔女」のニュースは、全世界に流された。重役の1人が密かに動画撮影しており、その姿も映っていた。神眼スキル持ちによって、ランクが確認され、信じられない事にS10ランクだと報じられたのだ。人類最高はSSS(トリプルエス)ランクだ。本当に神に違いないと、騒動になった。
「ヤバいな。SSSランクでさえ日本は世界から警戒されたんだ。そりゃあね、S10ランクって何だよ?って事になるわ」
 天を仰ぎ見て、思わず溜息が出た。
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