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【第5部〜旧世界の魔神編〜】

第3章 生贄

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 彼らに案内されて、集落に来た。集落と言うには何だか変だが、解放されたシェルターの中にあった。市民の避難用に作られたシェルターでは無く、個人的に家の地下に作られたシェルターだ。食糧はあるみたいだが、普通ならとても足りる量では無い。確かに身体が小さくなければ、とても生きながらえる事など出来なかったであろう。
 ここに来る途中で、様々な情報を得た。驚くべき事に西暦はまだ2031年で、私のいた時代から7年しか経っていなかった。7年なら華友商事にいた頃の知人もいるはずだ。巧は、ここにいるに違いない。
 自分達の身体が、蟻くらいの大きさになった為に、個人シェルターと言えども、途轍もなく広く感じる。
「身体が小さいって事は、移動距離が長く感じるって言うか、凄い距離だよね?」
「そうなるな。シェルターの広間に行くまで、5日はかかる距離だ」
はぁ~と、思わず溜息をついた。
「それなら、私が皆んなを運んであげようか?自分の身体だけなら元のサイズに戻せるから、すぐに着くでしょう?」
 元の大きさに戻ると、皆んなを左手のひらに乗せて、溢れ落ちない様に右手を被せた。少し隙間を開けて外が見える様にして、道案内をさせた。下を歩いている人が見えないので、踏み潰さない為に空を飛んだ。彼らを手のひらから降ろす時も、先に降ろしてから、身体を小さくしながら地面に降り立った。
「ふぅ~、踏み潰したり、吹き飛ばしたりしない様に神経を使うのが、疲れるわ」
私が空から降りて来ると、やはり敵外心を剥き出しにされた。
「皆んな待ってくれ!信じられないだろうが、この方は本物の神様だ。ワシらを救って下さる為に来て頂いたのだ!」
 それでもまだザワザワしていたが、孫娘を生贄にされたおじいさんだけでなく、サブリーダーの雪人も説明してくれて、皆んなは落ち着いた。
「先ずは、お腹を満たしてから対策を考えましょう」
 大量のお酒や食事を出すと、皆んな夢中でかぶり付いた。孔子が言った「衣食足りて礼節を知る」と。心に余裕が無ければ、言葉に耳など貸してはくれないだろう。
「それで、どう言う状況なのか詳しく知りたいわ」
 しかし、先に聞いた内容と重複するだけで、特に目新しい情報は無かった。つまりこれは、何も分からないのと同じで、彼らは訳も分からず一方的にこの様な目に合っているのだ。
「皆んなの前で生贄を犯したり、食べたりするのなら、その神の姿を見たわよね?どんな奴なの?」
「無駄だよ。そんなの覚えている者なんていない。男達は犯されて泣き叫ぶ女の子を、せめて見ない様にと目を閉じているし、食われる時なんて、尚更に可哀想で見てはいられない。誰も見てはいないだろう」
皆んな顔を見合わせて首を振っていた。
「なるほど、正体不明の敵か…。対策抜きで、正面からやり合うしかないな。なら、こうして!」
私は皆んなを集めると、ヒソヒソ声で指示をした。
 祭りの日がやって来た。生贄の女の子と入れ替わると言う安直な作戦は止めて、女の子が犯されそうになったら、飛び掛かって倒す作戦にした。勿論、上手くいくとは限らない。その為、あらかじめに召喚魔法陣をいくつも描いて隠した。召喚魔法陣は儀式魔法に近く、単なる召喚では活動時間に制限を受けたり、全ての力を使えないなどのペナルティーを受ける。しかし魔法陣では、その魔法陣から出る事は出来ないが、魔法陣を消されたりしない限り消える事は無い。完全顕現を目指すなら、ゲートを開くしか無い。魔法陣から無理矢理にゲートを開く事も可能だが、術者の生命と引き換えだ。もっとも、不老不死である私なら、死ぬ事なく行う事が出来る。天道神君である私もゲートをくぐって地上に来た。
 祭りの日に必ず飲まされると言うお酒があるが、いかにも怪しいので、敢えて飲んでみた。身体状態異常無効スキル持ちである私は何とも無かったが、毒などに反応してスキルが無効化する時に、成分を解析してくれるのだ。するとトランス状態におちいる成分を感知した。
「極度の興奮状態にして思考を奪い、集団催眠術を掛けているのね?」
 祭りが始まると音楽に合わせて若い女性達が、少しずつ薄着になりながら淫靡いんびな舞を踊り始めると、祭りの会場のボルテージも一気に上がり、空気に呑まれると言うか、異様な空気が漂っていた。私は周囲に気を配り、緊張感で胸が高鳴っていた。
 ステージの様な舞台の最上段に、生贄にされる女性は拘束されていた。両手は木の柱に完全に固定されていたが、両足の鎖は長めに拘束されていた。当然これは、女性を犯しやすくする為なのは言うまでも無い。生贄を見つめる者達の目は虚になり、完全にトランス状態に入っているが、それに反して生贄の女性は、シラフである為に泣き叫んでいた。生贄の女性もトランス状態にされていれば、恐怖など感じ無いのに、これはわざとシラフにさせ、恐怖と苦痛を与えて快感を得ているのだ。この神とやらは、とんだサイコパス野郎だ。しかし、もし知っている魔族だったらどうしよう?とか考えると手が震えて来た。
 祭りが始まって2時間も経った頃、いつの間にかに舞台上で煙の様な影が見えた。
「遂に現れたか…一体どんな奴なんだ」
私は緊張で汗ばんだ拳を強く握り締めた。
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