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【第5部〜旧世界の魔神編〜】

第2章 立ち入り禁止区域

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 翌日も10区のあの立ち入り禁止区域に行って観察した。特に車や人の出入りなどは無かった。工事しているだけで、アテが外れたのか?と思ったけれど、もしかすると人目につきにくい深夜に出入りしているのかも?と考えて思い直した。
 しかし、主婦である私が深夜に出歩くなど無理な話だ。慎ちゃんに話しても、笑って相手にしてくれないだろうし、言い方が悪いけど、私を手に入れる為に政府と裏で繋がっていたのだ。愛されてはいても、完全に信じ切る事は出来ない。
「思い切って中に入って見るか…」
 立ち入り禁止区域は、周囲を柵で囲われているが、山の斜面を背にしている為、雑木林を抜けて山に登れば、もう少し状況が分かるかも知れない。これでダメなら諦めようと思い、行動に移した。
 雑木林は、人の手が入っていない為、歩きにくいのは勿論、手に擦り傷を作った。
「痛いっ」
切った手を摩りながら奥へと進む。道なき道を行き、やっぱり止めておくんだったと後悔しながら先に進んだ。雑木林をやっとの思いで抜けると、山の斜面の上に出た。下を見ると、重機によって削られた斜面が、切り立った崖の様になっていた。
「どうしよう。ここまで来たら行くべきか。高所恐怖症だから、めっちゃ怖い…」
そう言いながらも、ここで引き返すと、ここまで来た苦労が水の泡になるのが嫌で、恐る恐るゆっくりと崖を降りた。思ったより、スムーズに降りられて油断していた。かけた足場が崩れて、咄嗟に手で崖を掴もうとしたが、引っかかる場所がなく、そのまま下に滑落した。落ちる下に太い木の枝が出ているのが見えた瞬間、胸やお腹を打ち付けると、身体の骨が折れる嫌な音が聞こえて、私は意識を失った。

 目を開けると、真っ白な部屋の真ん中に置かれたベッドに寝かせられていた。ここは何処だろうと身体を起こすと、痛みもなく起きれた。確か骨が折れたはず、それにあの高さから落ちてどうやって助かったのだろうか?ドアを開けて外に出ると、人に見つかった。
「ひぇえええ!ば、化け物だぁ!」
「助けてくれ!至急、応援!応援!」
1人の男が無線で誰かに報せていた。そして、私を化け物と呼んだ男は銃を抜いて身構えていた。
「ちょっと待って、撃たないで。化け物って何なのよ?失礼ね」
「言葉が話せるのか?」
私は本当に自分が化け物になったのかと思って、手足を見たり身体を触ってみた。
「別に何も変わってないじゃない?何のドッキリですか?私を助けてドッキリ仕掛けるとか意味が分からないんですけど?」
「助けたって?俺達が?馬鹿な、見つけた時、お前は死んでいたんだ!」
「死んでた?私が?」
彼らが何を言っているのか、意味が分からなかった。呆然としていると、前から見知った顔が現れた。
「あら?瑞稀さん。お久しぶりね?」
あの研究所にいた職員の1人だ。やはりこの場所は、異世界に通じているに違いない。
「どうしてここに…何て聞かないわ。貴女は、見てはいけない物を見てしまった。ただそれだけよ…」
職員の女性は、私に向かって3度発砲した。パーン、パン、パンと銃声が鳴り響くと、弾は全て私の胸やお腹に命中した。
「うっう…」
「避けようとしなければ楽に死ねたのに、馬鹿なね。今、楽にしてあげるわ」
至近距離から額を撃ち抜かれると、私は脳漿のうしょうを撒き散らして絶命した。
「遺体は山岡慎二に渡してあげて」
女は銃をしまいながら、その場を立ち去った。

「容赦無いな。可哀想に」
「全くだ。躊躇ためらいもせずに撃ち殺したぞ」
「恐ろしい女だ」
 女の職員の部下と思われる彼らは、口々に好き勝手言いながら、私を運んだ。絶命したはずの私は、何故か彼らの言葉が聴こえていた。彼らがその場を立ち去ると、私は息を吹き返した。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
上体を起こすと、撃たれた胸やお腹を摩ったが、銃痕は無かった。スマホで自分の顔を見ると、額から血の跡は残っていたが、穴は開いていなかった。
「何なのコレ?夢なの?それとも不死身の化け物になっちゃったの?私」
 ベッドから降りると、ちゃんと歩く事が出来た。室内の様子を見ると、どうやら医務室の様だ。遺体と一緒には居たくないのだろう、室内には誰もいなかった。外に聴き耳を立ててみたが、人の気配はしない。私が死んでいると思って、油断しているのだろう。窓を開けて下を覗くと、3階の様だ。これなら降りられると思い、靴下のまま手すりに登ってつたい、エアコンのホースを利用して下に降りた。
 駐車場に行き、当然だけどドアが開いている車もキーを付けっぱなしの車も無かったので、貨物の1つに忍び込んでやり過ごした。しかし気が付くと、いつの間にかに眠っていて、揺れる振動で目が覚めた。
「何処に行くんだろう?」
揺れが気持ち悪くなり、車酔いをして吐きそうになった。
「こんな密閉空間で吐いたりしたら、その臭いでまた吐いちゃうよ」
口を両手で押さえて上を向いて目を瞑り、鼻唄を歌った。
「ふん♪ふ、ふんっ♪ふーん♪」
頼むから早く着いて、止まって、吐いちゃう、と心の中で祈った。
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