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【第5部〜旧世界の魔神編〜】

第2章 性転換薬

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皆んな検査が終わり、食堂に集められると、誰もが無言だった。片隅に集まって、シクシクと泣いている女の子達もいた。それはそうだろう。誰もが経験済みとは限らない。初めてを大切な人に捧げようと、守っていた人もいたはずだ。それをあの様な形で奪われたのだから。
「これは人権侵害だ。ここから出られたら訴えてやる、ここにいる全員が証人だ」
そう怒鳴っている者もいたが、果たしてここから出る事は出来るのだろうか?ここまでするからには、生きては出られないかも知れない。
 それから、検査と称して同じ事が連日の様に行われた。何度も性別が入れ替わり、何度も性行為を強要された。それが当たり前の様になって来ると、抵抗する気力を失った。女性の時は、1日に10人以上の男性と性行為をさせられ、女性の時でも3人は交代した。初めこそ風俗関係者らしき人達が相手だったが、やがて明らかにそうではない人が相手になった。男性である時に抱いた女性は、子供が欲しいが夫にたねが無く、子供を作れる見込みが無い女性が、夫に内緒で同じ血液型の私に抱かれたのだ。また、女性である時に相手をされた男性達は、女が好きなだけ抱けると言うので、応募したと言っていた。
「応募」だって?何なんだそれは。しかしやがて思考能力も低下して何も考えられなくなった。来る日も来る日も、同じ事の繰り返し。毎日違う10人以上の男性に抱かれた。10日もすれば、100人以上と経験した事になる。気が付けば、ここに監禁されてすでに1ヶ月は経った。と言う事は300人以上に抱かれた計算だ。娼婦だって、こんなペースで経験なんてしていないだろう。地獄なんて言葉は生ぬるい。私達の心は既に死んでいた。もう怒る者も、泣き叫ぶ者もいない。目はうつろになり、求められれば皆んな甘んじて受け入れた。1人1人順番に行われていた性行為も、いつの間にかに複数同時に行われていた。目の前で友梨奈が、他の男に抱かれているのを見ても何も感じ無くなった。その隣で私も他の女性を抱いていたり、自分が女性の時は抱かれていたりした。
「瑞稀?やっぱり瑞稀だ」
抱かれる相手の顔を見ない様にしていた私は、名前を呼ばれて声の主を見た。
「慎二…?」
「覚えていてくれたのか瑞稀。嬉しいよ」
私が学生だった頃、塾が同じだったかつての親友だ。慎二は私に会えた嬉しさと同時に、複雑な表情をしていた。
「もしかすると瑞稀に会えるかも、と思ってここに来たんだ」
慎二は私の肩を抱きながら、昔話をしていた。
「ねぇ、時間が無くなるよ。私を抱きに来たんじゃないの?」
「瑞稀…」
慎二は震える手で私の頬を寄せると、口付けを交わした。それから慎二は、私の身体をむさぼる様に抱いた。
「満足した?」
「気持ち良かったよ、瑞稀。でもお前がここで何人もの男に抱かれているかと思うと、心が張り裂けそうだ。愛してる。ここから出て一緒になろう。俺が幸せにしてみせる」
「こんな私でも、まだ愛してくれるの?抱かれた人数3桁超えてるよ…。こんなけがれた私なんかを本気で愛せるの?私は、私の人生はもう終わったのよ…。私の事を愛しているなら、殺して。殺してよぉ…うっ、う、うぅ…」
心が壊れたはずの私にも、まだ涙が残っていた。まだ泣く事が出来た。慎二は無言で私を抱き寄せると、優しいキスをした。
「結婚しよう、瑞稀」
「うん、こんな私でごめんね…」
心が弱っていた私は、この地獄から救い出してくれるなら、誰でも良かったが、それが知人なら尚良いと思った。慎二を利用して、ここから抜け出そうとした気持ちが無いかと言えば嘘になる。
 翌日、ここから出られないと思い込んでいた私には、驚くほどあっさりと出られた。ここでの出来事を口外しない、と言う同意書にサインさせられて。私達の性行為は、記録と称して全て録画されているそうだ。全世界で貴女の無修正動画が、配信されなければ良いですね?と脅された。私の震えて握りめた手を、慎二は優しくそっと握ってくれた。今はこの心の温かさに、温もりに触れていたい。そうすれば、いつか私の心が癒される日が、来るのかも知れない。
 思考能力が低下していたせいもあるが、落ち着いて来ると、私達は薬の力で自由に性別が変えられた。ジェンダーレスな世の中だ。この世紀の大発明とも呼べる性転換の薬を世界に売り出せば、日本がかかえる負債は回収出来るだろう。春町の住人は、その為の犠牲だ。政府は必要悪だと思い、この様な非人道的なやり方を黙認したのだろう。
 そう言えば、春町は異世界に存在すると言っていた。そこで採取された物質で、性転換の薬を作ったのだろう。春町の住人全員の性別が変わった所を考えると、①空気②塵や埃③水が考えられる。だが政府関係者が私を春町に連れ戻す時に、ガスマスクらしき物は着けていなかった。検査の度に、暫く水分はこれだけだ、と飲まされたスポーツドリンクが怪しい。やはり③水なのか?
 春町の研究所から出た私は、久しぶりの陽射しを見て、涙が出て来た。
「辛い目にあったな。これからは、ずっと俺が一緒だから…」
慎二に泣きながら抱き寄せられた。それから私は慎二と同棲を始めた。慎二に毎晩の様に求められて抱かれたが、研究室にいた頃を思えばなんて事はない。慎二の優しさに触れ、徐々に慎二に愛情が湧いて来た。
「愛してる、瑞稀」
「私もよ、慎二さん」
「えっ?今まで慎二だったじゃないか。急にどうした?」
「だって、親友だったから慎二って呼んでたの。でも女性として貴方の事が好きになったから…」
「あははは、それで、さん付けか。普通は逆だよなぁ。気恥ずかしいから、さん付けは止めて、あだ名で呼ぶとか?」
「うーん、じゃあ、慎ちゃんで」
ふふふと、笑った。久しぶりに幸せを感じたのは、今思えばこの時が最後だったかも知れない。
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