その日、女の子になった私。異世界転生かと思ったら、性別転生だった？

【第4部〜西洋の神々編〜】

第10章 終末戦争の行方③

「瑞稀ー、起きなさーい！遅刻するわよー」
「おはようママ」
「おはよう。今朝はちゃんと食べるのよ」
「はーい、ママ」
欠伸をしながら応えると、洗面所に向かった。冷たい水で顔を洗うと、一気に目が冴えて来る。支度を終えると、ニュースを見ながら朝食を食べ始めた。
　あれから私は天界だけでなく、魔界も含めて統一し、人類への干渉を禁じた。私が人間界に戻ると、家を出た数時間後だった。ママからは、「帰りが遅くなるんだったら、連絡くらいしなさいよ」と一言叱られた。
　登校すると、今までと全く変わらない日常が待っていた。いつもの様にスカウトや、自称ファンのストーカーもどきの人達に、挨拶されながらの登下校だ。でももう、彼らに怯える事もない。何せ、もっと怖い目に遭ったし、地球で私よりも強い人類は、神々も魔族も含めて存在しない。
　あれから少しだけ興味を持って、芸能事務所に行ってみると、副社長を名乗る人から、足のつま先から舐める様に見られ、「キミ、枕出来る？」って聞かれた。噂には聞いてたけど、こんなあからさまに枕営業を勧めて来るんだ？と驚いた。私が「無理です」と答えると、「カマトトぶりやがって、どうせ彼氏とやりまくってるんだろう？」と言われて、その場で押し倒された。大声で助けを求めたのに、誰も助けには来ない。隣の部屋に人の気配を感じたけど、助けに来る様子もない。仕方ないので、催眠の呪文をかけて逃れた。
「誰も助けに来ないって事は、日常茶飯事って事なのね。マジ最悪だわ」
乱れた衣服を整えながら、憤慨して事務所を飛び出た。
　翌日、他の女性スカウトに昨日の件について聞いてみた。
「うーん、普通はスカウトされた子にはさせないんだけどね？オーディション組なんかは多いと聞くけどね。あとは事務所にもよるかなぁ。で、何処に行ったの？」
「◯◯プロダクションです」
「あー、そこは枕の噂が絶えない事務所だからなぁ。気を付けないとね。うちは大丈夫よ」
「有難う御座います。でも今回ので懲こりたので、ちゃんと進学します」
そう言ってスカウト達を断る事にした。
「はぁ～華やかそうに見える芸能界も、水面下ではあるんだなぁ、やっぱり。怖い世界だわ」
　月日は流れ、高校を卒業して大学に入学した。決して一流大学などではなかったが、身の丈にあった大学を卒業すると、華友商事に入社した。更に月日はあっという間に流れ、入社して6年が経ち、私は28歳になった。だけど私は、年齢が20歳固定なので、歳は重ねても見た目は20歳のままだ。
「先輩！もし良かったら、仕事終わりに食事に行きませんか？」
「いいよ。何処にする？」
「先輩の行きたい所で良いですよ。勿論、奢りなんで」
「えーっ、悪いよ。私の方が先輩なのに」
何処でも良いと言われた割には、案内されるとコース料理が出て来た。
（最初から予約してたんじゃないの）
そう思いながらも、心遣いが嬉しかった。
食事の後、何故か会社の屋上に誘われた。
「ここから見下ろす夜景が何故か好きで」
「ふふふ、分かるよ。綺麗だし、感慨深いよね？」
手すりに寄りかかって、外を覗き込んでいた身体を屋上側に戻すと、後輩と目が合った。
「せ、先輩。いえ、神崎瑞稀さん。初めて会った時から好きでした。僕と結婚を前提に、付き合って下さい。宜しくお願いします！」
「私で良かったら、喜んで。宜しくね、山下巧くん」
そう言って、差し出された手を握り返すと、背伸びをして唇を重ねた。巧は優しく私を抱きしめながら、何度も口付けを交わした。
　私はずっと、巧が入社して来るのを待っていた。私は巧の、どストライクのはずなので、会えば必ず落ちると思っていた。前ループを含めて、色んな恋をした。でも結局一番私を思ってくれていたのは、巧だった。そう考えて、添い遂げるのは巧しかいないと決めたのだ。
私はアナトではない。
小虞シャオ・ユーでもない。
だからバァルや項羽とは添い遂げられない。
私は、神崎瑞稀なのだから。