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【第4部〜西洋の神々編〜】

第9章 西洋の神々29

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 ルシファーとミカエルは、互いに決定打に欠け、それでも相手に致命傷を与える為に数㎜ずつ距離を縮め、より深い傷を互いに負っていた。距離が縮まる度に、己の負う傷も深まり、躊躇(ためら)うどころか更に近づいていく。皮膚は裂け、肉は抉れ、骨を断った。そして遂に、超回復が追いつかない傷を負い始めた。
「ルシファーもミカエルもボロボロだわ」
瑞稀達は、ルシファーとミカエルの死闘の場に来た。
「馬鹿な!あいつらが来たと言う事は、ガブリエルやラファエルが敗れたと言う事か?」
 ガブリエルは、自らを回復しながら戦う手強い相手だった。しかし瑞稀が、ラファエルの自爆に巻き込まれた仲間を全員生き返らせ、更にはラファエルまで生き返らせて手下にした為、ガブリエルは遂に捕らえられた。悪には決して屈しないと豪語し、死を望んだが、神の真実を見極めてから死んでも遅くは無いと、連れて来たのだ。
「ガブリエル、本当は貴女も知ってるはずよねぇ?」
リリスが意味ありげに、ガブリエルを横目で見た。
「とぼけるなら、教えてあげるわ。ミカエルは、実の兄であるルシフェルを愛していたのよ。ミカエルにとって、誰よりも強く、賢く、美しかったルシフェルは、理想の男性像そのものだった。でも近親相姦は禁止(タブー)だわ。彼女は血の繋がりを呪い、影ながら兄を見ている事しか出来なかった。ミカエルはティサァナジュム(S9)ランクでは無くて、オクタス(S8)ランクだったわ。どうやってティサァナジュム(S9)ランクになったと思う?」
「止せ!止めろ、それ以上は…言ってはいけない…」
ガブリエルは涙を流して、リリスの言葉を遮ったが、リリスはクスリと微笑んで続きを話し始めた。
「唯一神に、処女を捧げて抱かれたのよ」
「!?」
「ミカエルの弱みに付け込んで、言葉巧みに誘導すると、悍(おぞ)ましくもミカエルの身体を好きに弄(もてあそ)んだのよ。自らの欲望を叶える為に」
「…」
「ルシフェルとミカエルの母であるアウローラをヤハウェは愛していたの。でもアウローラを射止めたのは、彼らの父であるアメナディエルだった。それからもずっとアウローラに横恋慕していたのでしょう?母のアウローラに生き写しのミカエルを抱く事で、欲望を叶えたのよ」
「その事をルシファーは?」
「当然気付いたわ。ティサァナジュム(S9)ランクになる唯一の方法だからよ。夫(ルシファー)が神に反旗を翻(ひるがえ)した理由は、1つや2つじゃないのよ。様々な要素が複雑に絡み合った結果、唯一神ヤハウェを倒すと言う選択肢を選んだのよ」
「そんな事が…」
「そんな事って、まだ信じないの?本当は貴女も理解しているはずよ…」
「うっ…う、うぅ…」
ガブリエルは声を押し殺して泣いていた。自分達が信じ、命をも捧げた信念が音を立てて崩れたのだ。すぐには立ち上がる事は出来ないかも知れない。
「皆んな、力を貸してちょうだい!こんな悲しい戦いは終わらせて、さっさとヤハウェを倒すわよ!」
ミカエルは兄であるルシフェルを愛していた。その兄に届く為に、その身を犠牲にしてまで得たのがティサァナジュム(S9)ランクだ。だが今、愛する兄と対等の強さを得てヤハウェの命令で、殺し合いを演じている。私には聞こえる。ミカエルの悲しみが、あの人はずっと泣いてる気がしていた。その理由がやっと分かった。
「ガブリエル、貴女も手を貸してちょうだい。でないと、ミカエルは愛する兄の手を借りて死ぬつもりよ。愛する人を殺せるはずが無いじゃない?でも神の命令に背く訳にはいかない。なら取る道は1つだけ。最初から戦って死を選ぶつもりよ」
「そんな…ミカエル様…。分かった。ミカエル様を助けてくれるなら、お前達に従おう」
「あなた達の魔力を、神通力を私に貸して」
『魔力吸収(マジックドレイン)』
全員の力を吸い込むと、私は一時的にティサァナジュム(S9)ランクになった。
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