上 下
60 / 240
【第4部〜西洋の神々編〜】

第8章 須弥山の攻防⑥

しおりを挟む
 私は須弥山を登りながら、ずっと釈迦に話しかけ続けていた。それこそマシンガントークで。丁寧に話しながらも、顔色を伺いながら馴れ馴れしい口調で話しかけた。少しでも私に親しみを感じてもらおうと思った。別に媚びている訳ではない。このタイプは公私の区別を完全につけるタイプだ。しかし、それでも情は移ってくるはずだ。一見クールそうに見えても、鬼に成り切れない所があるかも知れない。
 ルシエラに小声で相談すると、「その可能性は限り無く低い」と言われた。何故なら、釈迦はすでに修行が完成した身で煩悩など無く、情に訴えても無駄だと言われた。でも私は、それでも可能性を信じたい。友達を、命令だからと割り切って殺せる者は、人間でも少ない。私が釈迦と友達になれば良いのだと、親しげに話しかけ続けていた。
「ねぇ、私、お釈迦様と友達になりたい」
 釈迦の顔を覗き込んで、真っ直ぐ目を見ながらストレートに言ってやった。釈迦はまるで、まだ女性に興味を抱かない年頃の子供の様に、純粋な目をしていた。勿論、私の魅力なんか効かない。
「ふふふ、友人ですか?良いですよ」
「えぇ!良いの?」
「どうされました?貴女が求められたので、承諾しただけですよ」
「あははは、めっちゃ嬉しいよ」
そう言うと私は、釈迦と腕を組んだ。
「これは、友人とは違うのでは?」
「堅いなぁ。女友達同士なら腕くらい組むでしょう?」
「えっ?私は男ですよ?」
「ぇえっー!御免なさい。本当に申し訳ありませんでした。女性だとばかり思っていました」
「そんなに女性ぽいですか?私…」
へぇ~。ようやく釈迦の人間らしい所が見れて、思わずニヤけてしまった。気にしてたんだ?コンプレックス?煩悩は退散したんじゃなくて?と、思うからニヤニヤしてしまう。フォローしないと嫌われちゃう。
「美女に見えるくらい、イケメンって事だよ。人間界にいた時、モテモテだったんでしょう?」
「人並みだったと思いますがね?」
これは聞く人が聞けば、嫌味にしか聞こえなかったはずだ。
 釈迦は、王子様であった。母親を早くに亡くした為に、国王が寂しい思いをさせない様に、釈迦の周りは常に美女達に囲まれていた。妻子はいたが、王子様である。優秀な子種は多いに越した事は無い。求めてもいないのに、毎日の様に美女達に代わる代わる上に乗られて、腰を振られて果てた。ある時、釈迦が目を覚ました時、踊り疲れた美女達は、ある者はイビキをかき、ある者は寝言を言い、ある者は口を開け、ある者は着物がはだけて陰部を露わにしたまま眠っていた。その様を見て釈迦は、益々彼女達に対して欲情を失くした。釈迦はこの後、俗世を捨てて出家するのである。
 だから、釈迦はモテた。それも、とびっきりの美女達に。女性がお金に弱いのは昔も今も変わらない。私にお金に不自由無い暮らしを保証してくれるのなら、私の身体なんて好きにして良いわ、喜んで抱かれてあげる。そんな女性達しか釈迦の周りにはいなかったのである。
 女性に失望して出家したのは、何とも人間味がある人だ。きっと、真実の愛を知らないのだ。私が教えてあげようか?とか思い始めた。なにせ美女にも見える釈迦が男だと分かった途端に、超イケメンに見えて来てドキドキする。釈迦の腕を組んで須弥山を登っていると、背中に突き刺さる様な視線と殺気を感じる。
(はい、はい。今ループでは浮気はしませんよ阿籍。でも少しくらい良い目を見たっていいじゃない?)
ほっぺを膨らませると、振り返ると阿籍に向かって舌を出した。

 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

車いすの少女が異世界に行ったら大変な事になりました

AYU
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:51

【完】君を呼ぶ声

BL / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:87

親友彼氏―親友と付き合う俺らの話。

BL / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:19

箱入りの魔法使い

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:10

サディスティックなプリテンダー

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:110

卵が我が家から消えた

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

処理中です...