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【第4部〜西洋の神々編〜】

第6章 再び天界へ

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 帝都に帰って来た。神猫バステトと神狼フェンリルと血盟を結び、蛇龍ミズガルヅ、狂神象ベヒモス、四手熊クワトロハンドベアーの討伐に成功した。この報告は事前に報しらされており、そのまま凱旋パレードとなった。城下はお祭り騒ぎで、民は飲み、食らい、歌い、語らい、大いに楽しそうだった。
「ふぅ、疲れた」
「お祭りには参加されないのですか?」
「私は別の楽しみがあるから良い。貴女達は、今日は自由にして良いから、遊んでおいで」
私にいつも寄り添っている侍女達を解放してあげた。勿論、たっぷりお金をあげた。侍女達は、喜び感謝され、ウキウキでお祭りに向かった。
 部屋で暫く待っていると大官が、食事を運んで参りましたと報せに来た。待ってました、これを。食事は蛇龍ミズガルヅ御膳だ。蛇かぁ、初めて食べる、楽しみだ。先まずは蒲焼から。
 見た目は鰻の蒲焼だ。さっそく一口食べてみる。外はカリッ、中はふわっ、蛇は小骨が多いと聞いていたが丁寧に全て取り除かれている。少し甘辛く、濃い目の味付けにしてある。蛇自体の肉はタンパクで、鶏肉に似ているらしいとよく聞く。なるほど、そう言われればそんな気もする。
 次に箸休めで、お吸い物。蛇は水っぽいらしいので、このお吸い物も濃い目の味付けと言うか、辛い味付けだ。汁を飲むと、これが蛇の味か?と感激した。生臭さも消してあるので飲みやすく、身は本当に鶏肉の様な食感でホロホロだった。
 生き血をお酒で割った物が出て来たが、お酒は飲めないので、と断った。蛇は全体的に骨が多く、根気よく骨を取られていたが、それでも時々、口の中に小骨が刺さって食べにくかった。
 次に骨ごと砕いてミンチにして、つくねハンバーグみたいなのが出された。骨をコリコリと食べる食感も楽しく、味付けもGOOD。これはかなり美味しいなぁ。普通の女子ならキャーキャー騒いで絶対に蛇なんて食べられないだろうけど、私は子供の頃から食べる事が大好きで、よく食べた分、身体の発育も良くて、11歳の頃には大人並みのバストがあり、子供とは思われなくて、大人からナンパされたり、求婚されたりした。まだ小学生の私がだよ?話は逸れたけど、食への探究心は蛇なんかでは衰える事は無い。ただ、虫だけは全般的に無理。虫を食べてるのを見ても絶叫しちゃうな。特に蜘蛛はダメ。この世でもっともダメ。砂つぶほどの大きさだろうとも、大絶叫で逃げ惑う。サイズの問題でもない。蜘蛛がダメなのだ。身体に触れられたら気を失うに違いない。それほどダメだ。
 最後に違うバージョンのスープが出て来た。こちらは身だけでなく、鱗も見える。蛇は身よりも骨が多く、かぶりついて身を食べながら骨を出すのだ。この料理も同じ様な感じだったが、これは本当に、何と言うか蛇って感じで私は苦手な料理だった。途中で食べるのを止めて、もう結構と料理を引っ込めさせた。味も食感もダメ。食べて気持ちが悪くなった。蛇食べてますって、食べてるんだけどね?その、主張が激しいと言うか、蛇感を忘れさせてくれる料理なら良かったのに。
「なるほど、蛇の味ってこんな感じなのね。もう良いや」
食べるのは1度で良い、話のネタになったと思えば良い。そんな感じ。蒲焼とつくねは美味しかったけどね。私が蛇龍ミズガルヅを食べたお話はこれでお終しまい。
 凱旋パーティーから数日が経った。
「いよいよゲートを開けて天界に攻め込む事になる。だが、話しておく事がある。信じられない話だろうけど最後まで聞いて欲しい」
私が夢の中で見た事が、ほぼそのまま現実となっている事。恐らく私はループさせられ、人生のやり直しをしている事。皆んなの名前を予め知っていた事も、その推測を確定させる要素の1つである事。そして、夢の中通りに事が運ぶなら、これから起こるであろう事の全てを話した。
「それなら陛下1人で、ゲートを解放するのは危険過ぎる」
「そうは言っても陛下以外に地上に行けて、ゲートを開けられる者はいない」
「どうするんだ?」
「危険を承知で行くのか?」
「ヴィシュヌなら知ってるぞ。あいつは途轍もなく強いぞ」
どうするんだ?と、ざわざわし始めた。
「俺が小虞(シャオ・ユー)を守る。夫として当然だ」
「どうやって?」
「俺も人間だ。元だがな。神格を捨てれば良い」
「何だと?そこまで貯めた修練を捨てると言うのか?しかし、修練を捨てれば、お前はただの人間。ヴィシュヌが現れたら勝てはしないだろう。行くだけ無駄だ」
「よせ!お前が盾となり陛下を逃す時間を稼ごうとでも思っているのかも知れないが、人間では神の一撃を受け止める事も出来ない。時間を稼ぐ事すらも無理だ。そんな事はお前も分かっているだろうに」
ロードが眉をしかめて阿籍(ア・ジー)を止めた。
誰も良い案が出ずに終始無言だった。
「でも、少しずつ未来も変化しているし、前ループでは神猫バステトや蛇龍ミズガルヅなんて見てもいない。だから絶対会うとも限らない」
 結局良い案も浮かばず、その日は散会となった。侍女達に手を取られて、寝殿に向かう。
「小虞(シャオ・ユー)!」
「どうしたの?阿籍(ア・ジー)」
「実は1つだけ方法がある。俺の修練を取り出し、魔石の様に結晶化させるのだ。それを必要な時に服用すれば一時的だが、神格を取り戻して、神とも渡り合える」
「なるほど、要するにドーピングするって事ね」
確かにそれは良い案かも知れない。アダム以外に阿籍を倒せる者はいない。少なくとも東洋天界にはいないのだ。これは最強の用心棒だ。
「謝謝你(シェーシェーニー)(ありがとう)」
阿籍と並んで寝殿に向かうと、侍女達は気を遣つかい、足を止めて私達を見送った。絶対Hすると思っているんだろうな?しないけど。気を遣って、こっちに来ないのはそう言う事だろう。私だって、そう言う事ね?って思って余計な気を回しちゃう。
 前ループも夢で冷静に見てた。浮気しまくりだったな、私は。最低だ。前ループは男性から人生がスタートして、死んで女性の姿になった。今ループは最初から女性で人生がスタートした。そして、時間軸が微妙に違う。今年で18歳になると言う事は、山下巧はまだ12歳の小6のはずだ。だから彼とは恋仲になる事はあり得ない。張玉(ヂャン・ユゥ)にも今ループでは会っていない。今後は、ヴィシュヌ、梵天(ブラフマー)、帝釈天(インドラ)から貞操を守り、アダムにも心を動かさなければ、阿籍だけの私でいられる。元夫婦なのだ。それが一番自然な形だ。他の男に心を動かされてはダメだ。夢の中で自分の行動を見ていて、そう感じていた。


 ゲートを開ける為に地上に向かう日がやって来た。阿籍に肩を抱かれて、上空の分厚い黒雲に飛び込んだ。視界が全く無い、真っ暗な雲の中をスクロールで泳ぐみたいに進んで行くと、影の世界の地面に出た。
ここまで来れば地上までは、すぐそこだ。
 そう言えば思い出した。確か地上のゲートは、ネパールとチベットの間くらいの場所に隠されていたはずだ。阿籍ア・ジーに話すと、このまま進むべきだと言われた。前は戦闘機に並ばれて、領空侵犯で撃退すると警告されたっけ。外国は日本みたいに緩くは無いので気を付けなきゃ。問答無用で撃ち落とされるよ。
 阿籍に「飛ばすぞ」と言われて、しがみ付いた。景色が流れ、流線の様で何も目に入らない。Gどころか、顔にぶつかる風圧で、窒息していたが、阿籍は気付かずお構いなく飛ばした。風圧と言うか身体にかかるGによって、胸骨と肋骨が数本折れた。着いた時には私は既に顔面が青紫になり、生き絶えていた。不死と身体状態異常無効スキルのお陰で、暫くすると意識を取り戻した。
 目を覚ました私は、頭にきて思わず阿籍ア・ジーにビンタを喰らわした。
「苦しいって言ったじゃない!」
「すまない、気付かなかった」
「普通、気遣うでしょ?本当に私の事、好きなの?」
 イライラがピークに達しているから、怒りの勢いで食ってかかり、捲し立てた。謝ってるのに、怒りが収まらない。抱きしめようとして来たので、振り解ほどいて無言でゲートを探し始めた。
 確か夢の中では、手に魔力を集中して、ゲートのありそうな場所を辿っていたっけ。この辺だった様な?何かの手応えを感じて魔力を注ぐと、ゲートは姿を現した。
「なるほどね、魔力の無い人間には天界と魔界の門は見つけられないし、開けられないって事ね。よく出来ているわ」
「阿籍、何かあったら私を守ってね?前ループでは、ここでヴィシュヌに攫われたのよ。そしてトラウマになるほど暴行された上に犯されたの。私がそんな目に合っても良いの?」
「絶対にお前を守る」
牙戟を取り出して身構えた。
(ふーん、魔法箱も持ってるんだ?)
生活魔法が使えるって事だね。
確かレア魔法で、魔族も神族も使えないはず…。阿籍は元人間だから使えるのかな?生活魔法なんて人間にしか必要ないからね。
「じゃあ行くよ」
ありったけの魔力をゲートに注ぎ込むと、魔力が枯渇して意識が飛びかけて膝から崩れ落ちた。そこへ阿籍が私を抱き止めてくれた。
 ゲートが光輝き、扉の部分は鏡が割れた様に破片が飛び散り、破片は塵となって消えた。
「あーあ、やっちゃったね?見過ごす訳にはいかないなぁ」
地上では神の姿が見えない。空気の塊が人型になり、それは少年の様にも見えた。
「あっぁぁ…、はぁ、はぁ、はぁ…くはっ」
植え付けられた恐怖、トラウマは簡単には払拭ふっしょく出来るものではない。身体中の毛が逆立ち、鳥肌が立つ。恐怖で手足が震えて、失禁してしまった。
「ヴ、ヴゥ、ヴィ…ヴィシュ…ヌ…」
情け無いほどの狼狽えようだが、こいつは前ループで、私の顔を地面に何度も叩き付けて、顔面が平らになるまで潰し続けた。鼻は潰れ、眼球も破裂した上で、潰れた目に指を入れて掻き回して目玉を取り出されたりした。その上で回復魔法をかけて修復すると、再び同じ事を繰り返して私を苦しめた。自分から進んで、抱いて下さいと言うまで、それは繰り返された。これ以上ないほどの苦しみを与えられ、苦しみから逃れる為に抱かれる方を選んだ。私は精子が膣内に入らない様に魔法で膜を張っていたのだが、見破られて腹を割かれて力づくで膜を取り出された。「次に同じ事をしたら分かっているな?」と言われて顔が半分潰れるまで殴られた後、回復魔法をかけられた。それからは容赦なく膣内に出され続けた。結局、妊娠しなかったのは奇跡だった。ビゼルが助けに来るまで、軽く200回以上は犯されていた。妊娠していたら死を選んでいた。不死で死ねないけども。
 それでもう1人の別人格が誕生し、『模倣(ラーニング)』を身に付けた。今ループでは最初から『模倣(ラーニング)』を持っている。例えスキルを奪われても、全てのスキルを使う事が出来るから、前ループの様に無抵抗で攫われたりしないだろう。
「へぇ?ボクが現れる事は想定済みだったって訳?」
あははは、と大笑いを始めた。
「ひー、ひー苦しい。あんまり笑わせないでよ?」
パチンと指を鳴らすと、阿修羅(アスラ)王とラーヴァナ、インドラジットが現れた。
「嘘っ…夢と違う…」
瑞稀が前ループと違う行動ばかり取っていた為に、予測不能な事が起きてしまった。
「ひゃあぁぁぁ!」
狂神象ベヒモスくらいの大きさの蜘蛛に取り囲まれた。蜘蛛だけはダメだ。戦意を完全に消失して、左耳のピアスを引きちぎって地面に叩きつけると簡易結界を張った。蜘蛛は結界をガジガジと噛んでいた。私は結界内でうずくまり、丸くなって顔を膝の中に入れ、両手で耳を塞いだ。
 阿籍は阿修羅アスラ王とラーヴァナ、インドラジットと1vs.3で戦っているみたいだ。卑怯者どもめっ!
「あははは、キミ、蜘蛛が苦手だったんだ?蜘蛛は阿修羅達のペットだからね。連れて来て正解だったな」
耳を塞いでいるから、何話しているか分からない。
「聞いてるのか?」
突然怒鳴って結界を殴ると貫通し、そこから結界が割れると粉々になり、私を引き摺ずり出した。
「おっと、抵抗するとこうだ!」
そう言うと、巨大な蜘蛛の顔の前に差し出されると、牙を剥き出した。恐怖のあまり、失禁した。私はもう気を失う寸前だ。
「汚いなぁ。何回漏らしてるんだよ?キミを抱くのに萎えるじゃないか」
これでは、このままでは前ループと同じ目に合う。首を傾けて阿籍の様子を見ると、まだ勝負はつきそうに無い。
「抵抗しても良いけど、抵抗したら蜘蛛の餌にしてあげるよ」
ヴィシュヌは私を小脇に抱かかえて飛び去った。 
(ダメだ、もう終わりだ何もかも。)
「抵抗しないから、暴力だけは止めて下さい。逆らいませんから、お願いします」
「あははは。殊勝な心がけだね。大人しくボクに抱かれるなら、気分が良いから殴ったりはしないでおこうか?いや、キミ蜘蛛が怖いんだろ?逆らったら蜘蛛の巣に放り込んでやるよ」
「それだけは絶対に勘弁して下さい。どんな事でもしますから」
「どんな事でも?ボクはね?キミみたいな綺麗な娘が壊れて行く姿を見るのが大好物なんだよ。だから、めちゃくちゃにしてやるよ。キミの覚悟が本物か見たいからね?」
「ぐすっ、うぅぅ…、ひっく、ひっく…」
「何だ?泣いてるの?喜んで抱かれますの間違いだよね?」
「…」
「無視なの?その態度は何?蜘蛛の巣に放り込むしかないみたいだね」
「うぅっ、違っ、違います…こ、これは、嬉し…泣きです。ひっく…」
「嘘っぽいんだよ、さっきから。イライラするね?」
「あぁぁーん。ごめんなさい。ごめっ…ん、なさい。本当、です。嬉しい…です、ぐすっ。抱いて下さい。好きなだけ」
「もうすぐボクのお城だよ。キミを括り付けて抵抗出来なくしてから犯して上げるよ。あの3人と一緒にね」
「あの椅子台に括るのは止めて下さい。手足が痛いので。抵抗、しませんから…。4人一緒でも受け入れますから、このままでして下さい」
「何だって?何故それを知っている!?」
ヴィシュヌは抱えている私の手を離した。隙をついて飛んで抜け出して相対した。
『死誘鎮魂歌(レクイエム)』
ヴィシュヌには効果が無かった。
「やはり即死無効持ちか…」
「お前は何者なんだ?」
「ぐすっ、何者だって?私は、人であって人に非あらざる者。闇の女帝・虞帝(ユーディ)よ」
「キミが魔族のボスって訳か。でも弱そうだね?」
「そうね、魔王達の中で私が1番弱いわ。でも貴方より強い」
「あははは、さっきまで震えていた娘が、笑えない冗談だ。痛い目に合わないと理解出来ないか?」
魔法箱(マジックボックス)から剣を取り出して構えた。ヴィシュヌの超高速の斬撃を連続で受けるが、剣帝の剣技で全て受け流す。
「何だと?」
ヴィシュヌの最初の一撃は、脅しみたいなもので手加減されていた。だが、軽く受け流された為、2撃目、3撃目と繰り出す数が増えるに連れて、徐々に本気になっていく。本気の一撃まで弾かれると、初めて瑞稀の力を見くびっていた事に気付いた。
「へぇ?キミそんなに強かったんだ。なら、遠慮は要らないね。手足斬り落としてから犯してやるよ」
先程までと打って変わり、強烈な斬撃が一合毎に増していく。受け流している剣が耐えられずに亀裂が入り、折れた。間合いを開けて、今度は槍を取り出して構えた。
 鋭い突きを繰り出し弾かれると、槍を横に振って殴るも受け止められ、身体を回転させて横殴りにするも今度は飛んで躱された。すかさず上に向かって槍を突き出すとギリギリで避けられ、間合いを詰めようとして剣を打ち込んで来たが、手首を返して剣を跳ね上げると、隙を逃さずヴィシュヌの胸を貫いた。
「ぐぁっ」
槍を押し込まれない様に槍を掴んで引き抜こうとする。
筋力で敵わないので、槍を捨ててヴィシュヌの間合いに入った。
『風刃(フォンレェン)』
至近距離で風の刃は、ヴィシュヌの首を切断した。首が落ちて行くのがスローモーションの様に見える。
「終わった…」
長きに渡って瑞稀を苦しめた、トラウマを克服した瞬間だった。
 阿籍の助太刀を、と思って見ると、既に3人とも討ち取っていた。これで残る憂いは、梵天(ブラフマー)と帝釈天(インドラ)だけだ。梵天(ブラフマー)を攻めた時、嘘の投降をするはずだ。こいつのせいで前ループでは500年も人形の様に飾られる目にあったし、ラブドールの様な扱いを受けた。確実に殺しておく必要がある。そこへロード率いる魔軍がゲートを潜って来た。
「陛下、ご無事でしたか?」
「なんとか倒せたよ。私も強くなっているみたいだ。皆んなの技を模倣(ラーニング)させてもらったからね。私だけの力では無理だったよ」
私達はゲートを通って、遂に天界に達した。魔界は神々の流刑地だった。ほとんどの魔族は元、神だ。天界には皆、思入れが強い事だろう。
 さて、ここからだ。先ずは、ヴィシュヌの城を陥として拠点にする為に進軍した。ようやくここまで来た。ヴィシュヌの城を拠点にして、梵天(ブラフマー)を攻める。決意を新たに兜の緒を締め直した。
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