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【第4部〜西洋の神々編〜】

第3章 魔王ロード

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 夢で見たのと、実際に行うのは勝手が違う。外でブツブツ言っていると、私がおかしくなったとかSNSで UPされそうで怖い。早退したのだから、急ぎ足で家に帰った。家に帰ると、シャワーを浴びてから、動きやすい服に着替えた。
『影の部屋(シャドウルーム)』
ずぶずぶと自分の影の中に、身体が沈んで行く。
「うゎわっ」
何だかとっても変な感触だ。完全に影の世界に入ると、少し薄暗い。飛行SSSのお陰で、影の世界を飛んで移動出来る。空中を歩く様な格好をしてみたり、空中を蹴って勢いを付けてみたりした。そんな事をしているうちに速く飛ぶコツを掴んで来た。さて、そろそろ魔界に行ってみようか?と思い、影の世界の地面に着地した。固い様で固くなく、足で踏むと固いのだが、手で穴を掘る様な仕草をすると、掻き分けて進む事が出来そうだ。ふわふわ弾力があり、まるで綿飴の様だ。水中に潜もぐる要領で、深淵へと向かう。暫く進むと、厚い雲を抜けた。ぼふっ。そこは、影の世界よりも更に薄暗く、陽の光が届かない洞窟みたいだ。夢で見たお城へと向かう。すると、虫の化け物が例の如く、私を捕食しようと、こっちに向かって来た。
『光速飛翔(ライトニングレイヴン)』
文字通り光の速さで飛翔する呪文だ。化け物達を一瞬で置き去りに引き離すと、私の残像が残った。お城の門に来ると、衛兵が通せんぼして来た。
「何者だ?ここは魔王ロード様の居城だ。用がなくば立ち去れ!」
「こんにちは。ドルとソル。門番お疲れ様!」
私が2人の名前を言い当てたので、2人は顔を見合わせた。怪訝な表情をして、「お前は誰だ!何故、オレ達の名前を知っている?」と尋ねて来た。
「何故知ってるかって?だって私達、知り合いじゃない?」
「お、オレはお前なんか知らん!」
「オレもだ。初めて見る顔だ!」
「う~ん、どうしたらココを通してくれる?」
「怪しい奴めっ!ここを通れると思うなよ!」
槍を向けられ、敵意丸出しになっちゃった。仲間だから戦いたくないなぁ…と思っていると、1人の女性が現れた。
「何を騒いでいる!」
「ショウ・ルゥイさん、久しぶりね」
私が声の主に反応すると、門番2人は「ショウさんのお知り合いの方でしたか?」と道を譲ろうとした。
「待て!何故、私の名前を知っている?」
門番2人が私に道を譲ろうとしたのを、手で静止しながら私に質問して来た。
「私を鑑定すれば分かるよ」
「残念だが、私は鑑定が使えない。こちらに来てもらおうか?」
ショウ・ルゥイさんって、こんな感じだった?何だか本当は怖い感じの人だったんだ、と思った。
まぁ、警戒されるのは仕方ないよね、と思う。このループのテーマは、「犠牲は少なく、最小限の力で最大限の効果を発揮する!」と決めた。個室に案内され、対話と言う名の尋問を受けた。『鑑定』によって私のステイタスを明かした。私のスキルを見て表情が変わったのを見た。「不死」の私を倒すのは、ほぼ不可能だろう。それから、唯一神に私が倒されるまでの話を長々と話して聞かせた。
「あははは。中々興味深い話だな。作り話にしては良く出来ている」
個室に入って来たのは、会話を聞いていたであろうロードだ。尋問では、隠れて聞いているであろうロードに、わざと聞こえる様に話した。ロードの両親が天帝に陥れられ、この魔界に流刑された事は一部の者しか知らない内容だ。ロードが私に興味を持つ様に誘導したのだ。
 『神眼』のスキルを持つロードには、私のスキルはお見通しだ。この『神眼』のスキルは『鑑定』の最上位版だ。『鑑定』は他者のステイタスを覗き見る事が出来る。その上の私が持っている『隠しスキル』は、更に他者から覗き見られない様にしたり、嘘フェイクステイタスを見せる事が可能だ。『神眼』ともなると、全てのステイタスを見る事が可能となり、防ぐ事は不可能で、『隠しスキル』の効果も無効となる。
「今日の所は城内で寛くつろがれると良い」
ロードがそう言うと、配下に個室を案内された。
「ロード様、あの者の言葉を信じられるのですか?」
「嘘を言っている様には見えなかったが、あまりにも内部事情に詳し過ぎる。他の魔王の間者である可能性もある。暫く様子を見よう。監視を怠るな」
「はい。畏まりました」
案内された部屋は1人で使うにはあまりにも広く、体感的に50畳くらいは有りそうな広さだった。
「ふぅ、取り敢えずロードのお城までは来れたね。まずは、レベル上げしなくちゃ。『生活魔法』を覚えないと不便だよ」
独り言を言いながら部屋の中を歩き回った。
「前の時は、こんな部屋に来ていないなぁ。」
飾りはあるが、書物が無いので退屈だ。まだ疑われているだろうから、城内を歩き回る訳にもいかない。ソファーに腰掛けて、ステイタスを眺めていた。これからどうやって魔界を統一しようか?と、夢で見た前ループを思い出しながら思案していると、ドアが開けられた。
「ミズキ様、お食事のご用意が出来ました。魔王様もご一緒されるとの事でございます」
この侍女は、前ループでも私に使えていた侍女のティエンだ。
「ありがとう、ティエン」
と言うと、驚いた表情をした。
「どうして私の名前を知っているのか?って顔しているね」
あはははと、イタズラっぽく笑って、答えてあげなかった。
食卓には既にロードや側近のショウ・ルゥイ達が、席に着いていた。
「遅くなって、すみません」
侍女のティエンが椅子を引いてくれて、着席した。
まずは乾杯した。私はまだ未成年なので、お酒は飲んではダメだと思い、お酒以外の飲み物に替えてもらった。
「素直に聞くが、人間の貴女が魔界ここで何をしたい?」
ロードは微笑んでいたが、目は笑っておらず、私の真意を探っている様だった。
「私は人間だから、神々が作った魔族を封じるゲートを抜けられる。多くの魔族は神々に復讐したいはずでしょう?私なら、それが可能よ」
「ふふふ、あははは。面白い。実に愉快だ。こんなに笑ったのはどれほど振りか?」
ロードは立ち上がり、剣を抜いた。
「これで分かった。神の差金だな?魔族を魔界に封じただけでは飽き足らず、滅ぼしに来たのだな」
「あのね、どうしてそうなるかなぁ?疑り深いにも程があるよ。私達、仲良かったじゃない?ベッドで抱き合った仲だし」
そう言うと、ロードは怒って斬りかかって来た。百合なの皆んな知ってるのに、隠してるつもりだったのかな?私はロードの剣技を当然、躱せずに斬られた。左肩から右腰まで斬り下げられて絶命した。しかし次の瞬間、不死のスキルで死ねず、身体状態異常無効の効果で、斬られた傷が修復していく。魔族達はその様子を見て、激しく動揺した。
「『模倣(ラーニング)』成功よ…」
私はゆっくりと立ち上がった。
「誰か、私に剣を貸して頂戴!ロードの『剣帝の剣技』は覚えたわ」
「覚えただと?面白い、誰か剣を貸してやれ!」
ショウ・ルゥイが腰に差していた剣を、投げてよこした。私は剣を抜くと、鞘を投げて構えた。
「ふん、見た目だけは、それなりだな」
踏み込んで来ると、一瞬で目の前に現れて剣を振るわれた。先程までなら、この一撃で私は真っ二つだっただろう。目で追える速度でも無い。しかし身体は反応し、剣を受け流した。私の筋力はたったの12しかない。それに対してロードの筋力は軽く10万超えだ。普通なら相手にもならない。受けてはダメだ。相手の力を逸らす様に、受け流すしかない。
 ロードは魔王だが、赤子の時に天界から母親と共に魔界に流された。赤子だったロードには何の罪も無い。だから、ロードは魔界で育った神様だ。神様と人間の戦いだ。初めから勝負は見えている。相手が私でなければ…。
 目にも止まらない超高速の斬撃が、連続で繰り出される。しかしその全ての攻撃を捌き、受け流す。目では見えない高速の剣技も、身体が剣帝の剣技に反応する。最初の一撃を受け流したのはまぐれだろ?と思っていた者も、軽々と受け流し続けている私に驚愕していた。
 捌いて受け流しているだけでなく、こちらからも打ち込みながら間合いを詰めて行く。2人の剣技は同じだから、まるでダンスでも一緒に踊っているかの様にも見える。ロードの剣を弾き返して、首筋に剣を突き付ける。
「チェックメイト!」
「その言葉の意味は分からないが、どうやら私は負けてしまった様だな」
「ふふふ、私と切磋琢磨すれば、もっと強くなるよ。ロード、両親は天帝に嵌られたのよ。貴女のお母さんは、物凄く綺麗な女性だったみたいね。お母さんを手に入れる為にお父さんを挑発して剣を抜かせ、謀反の罪で処刑されたのよ。お母さんは天帝の毒牙にかかるまえに、赤子だった貴女を抱いて魔界のゲートに飛び込んだわ。背中を斬られる重症を負いながら。貴女の両親は何も恥ずべき事はしていない。冤罪で無罪なのよ。貴女は本当なら、光輝く天界で家族と幸せに暮らして、皆んなの憧れの的だったはずよ」
ロードは涙を流しながら私の話を聞いていた。
「話はまだこれで終わりじゃない。貴女は、天帝と一騎打ちを行い、敗れたの。両手、両足を斬り落とされた。その状態で犯され続けて、孕ってしまったの。ソーシャって言う可愛い女の子が生まれたわ。貴女は、娘の為に天帝への復讐を諦めたの。でも天帝に敗北しなければ未来を変えられるわ。ソーシャに会えなくなるのは辛いけど…」
「母は…」
声にならない声で、ロードは泣いた。配下達からも啜すすり泣く声が聞こえて来た。私も貰い泣きしていた。皆んな天界の被害者達だ。魔界は天界の流刑地。本当の極悪人もいるが、8割もの人は、いや神か、有力な神に陥れられた者達だ。
絶対に許さない!
そう思い、天界を攻めて皆殺しにした。そして、『黄泉還反魂(リザルト)』で全員生き返らせた。生き返った者は術者の私に、絶対服従する様になる蘇生呪文だ。天界を攻めるには、まず魔界の制覇からだ。
 私は、客将の待遇を受ける事になった。王を譲位されてはいない。少しずつ前ループとは違う未来を歩んでいるみたいだ。
 食事が終わるとお風呂に入った。温泉くらい広いお風呂だった。侍女3人に身体を洗われて、恥ずかしい思いをした。寝巻きに着替えて寝ていると、ロードが来た。色々と話をしたが覚えていない。自然にロードと口付けをすると、裸で抱き合った。女同士だからか、罪悪感がない。夢の中でもロードと抱き合っていたのを見た。でも実際にするとなると勝手が違う。何せこのループの私は、1人Hもした事がないのだ。指でも処女を失った扱いになって「聖女」の称号を失いたくないので、ロードに指は入れないで、とお願いした。
 女は女の身体を1番良く分かっている。
初めての絶頂を5分もせずに達した。女性が相手でこれだ。男性としたくなるのも分かる。どうせなら、上手い男とヤってみたいと思った。それから朝まで、何度絶頂に達したか覚えていない。何度も意識を失い、抑える事が出来ない喘ぎ声で、悦びを表現した。ロードは、いつの間にかに意識を失って寝ていた私を、口付けで目覚めさせた。
「お目覚めかい?お姫様」
「ふふふ、素敵な王子様の口付けで目覚めるなんて、幸せね」
何だか、とてつもなく愛しい。ロードを愛してしまったみたいだ。そう言えば、前ループでロードと百合の関係になった時は、私は処女ではなかった。彼氏がいたし。今はいないから、ロードの事を好きになっちゃったのかも知れない。私はレズじゃないんだけど…と自分に言い聞かせた。やはり前ループとは、変化が生じている。この変化が、良い方向に向かえば良いのだけど。
「ロード、同盟を結んでいるフレイアとクラスタを説得して傘下にしよう。同盟のままでは連携に限界があるよ」
フレイアとクラスタの事まで知っているのか?と言う顔をされた。
「実は既に話はついている。お前の力量を見てから判断するらしい」
「うん、手合わせだね。前は完全に負けていたけど、引き分けた様な形に見せられたから認めてはもらえたんだけどね」
自信たっぷりとロードに言った。
「今度は勝つよ」
「頼もしいな」
ロードとフレイアの居城に向かった。
「うん、うん、前は3人のお城を順番に泊まったりしてたっけ」
広間に通されると、着物に似た衣装を着た美女がキセルを吹かしていた。ブランドヘアーに美しい碧みどり色の眼が特徴的だ。
「へぇ~『模倣(ラーニング)』出来ないものもあるんだ?」
後で分かった事だが、固有スキルを『模倣(ラーニング)』する事は出来ないらしい。フレイアがキセルで吹いているのはタバコでは無く、高濃度の魔力だ。その魔力で結界を張り、その貯めた魔力を使って魔法を唱えたりする。
「魔力の磁場を作り出して結界を張るんでしょう?ネタバレしてる能力は通用しないわよ?『模倣(ラーニング)』出来なかったのは残念だけど」
『光収束砲(ライトコンバージ)』
光呪文を唱えると、フレイアに飛び退のいて躱されたが、足元の魔法陣を吹き飛ばした。
『五指火球弾(ファイヴファイアーボール)』
フレイアは避けながら、指から巨大な火球ファイアーボールを5つ飛ばして来た。私は、そのうちの1つを躱かわし切れずに左肩を掠め、炎で左の顔半分を焼いた。
「ぎゃあ!」
辺りに人肉が焦げた異様な臭いが充満する。手で顔を覆うと、もう回復していた。
「熱いし、痛いし、ぎゃあ!とか言ってるし私」
顔が焼けた余韻で、まだ火傷している気がして、何度も顔を摩った。
「いつの間に回復魔法を?」
「使ってないわ。特異体質なのよ」
そう言って片目を瞑って見せた。
『風刃(フォンレェン)』
『雷刃(レェィレェン)』
フレイアは懐から扇子を取り出して、扇子を振りながら連続で呪文を唱えた。風の刃で左腕は切断され、雷の刃は右足を切断して私は床に転がった。身体状態異常無効のお陰で、感電せずに済んだ。そして、切断された手足はすぐに元に戻った。
「痛っ~い!マジ最悪。治るんだから痛いのは無しにして」
痛覚なんて要らないわ、と思う。
「でもそれも『模倣(ラーニング)』したわ」
『風刃(フォンレェン)』、『雷刃(レェィレェン)』
剣を振るって呪文を唱えた。
フレイアは風刃(フォンレェン)を躱し、雷刃(レェィレェン)には同じ呪文をぶつけて相殺して掻き消した。
「閃いたわ」
ずっと剣なら剣、魔法なら魔法で戦っていた。両方同時にこなせるほど、器用ではないからだ。でもゲームでは魔法戦士っているじゃないの?剣に纏わせたり出来るんじゃないの?もしかして。閃いたけど、放出系の呪文しか無いのに、どうやって剣に魔法を留め置けるのか分からない。
「取り敢えず今はフレイアに勝つ事だけ考えないと」
「ほほほほ…妾に勝てるつもりかぇ?面白い娘ねぇ」
フレイアの魔力が膨れ上がり、全身が紅い光に包まれると、瞬歩で詰め寄り目の前に現れた。扇子を薙ぎ払うと、五重に張った防御結界を簡単に砕かれ吹き飛ばされた。柱に背中を激しく打ち付けると、大理石で出来た柱は崩れ、私の背骨から肋骨の全てが粉々になる音が聞こえた。口から血の泡を吹いて絶命し、意識は完全に飛んだはずだが、激しい痛みを感じて意識を取り戻した。折れたはずの骨は全回復していた。
「うぐっ…魔法使いのくせに何て攻撃力なの…」
いや違う、多分フレイアは、自分の強大な魔力を攻撃力に変換したのだろうと思い直した。某ゲームにもあるではないか、魔力を攻撃力に替える「膂力の杖」って言うのが。
 不死で死ねず、身体状態異常無効で受けた傷が瞬時に治ろうとも、痛みは遅れてやって来る。身体の傷は治っているはずなのに、とてつもない痛みを感じる気がする。そう、まさに気がするだけなのだが、痛みは恐れだ。恐れは身体を硬直させる。刹那の速さが生死を分けるほど強い相手では、これは致命傷となる。
 私、運動部じゃなくて美術部なのに…。何やっているんだろう、私。何で戦っているんだろう?そんな事が頭によぎった。そんな事はお構い無しにフレイアに距離を詰められ、再び扇子を薙ぎ払われたが、手首を捻って返すと、上手く捌いた。剣帝の剣技を習得していなければ、今ので死んでいたはずだ。さすが魔王、強い。
『光之神槍(ライトニングジャベリン)』
光速で敵に向かう投げ槍だ。文字通り光の速さであるにも関わらず、フレイアは躱して見せた。
『風刃(フォンレェン)』×3
連続で発生した風の刃が襲って来る。
それを剣帝の剣技で受け流し、『光之神槍(ライトニングジャベリン』を剣を握っている手を振るって放つと、剣)から神槍が出た様な形になった。
 不意を突かれたフレイアはギリギリで躱したが、間合いを詰めた私は剣で胸を貫いた。フレイアは驚いて倒れると、核コアを損傷したらしく、死にかけてしまった。
『完全回復(パーフェクトヒール)』
傷はすぐに治った。手を取ってフレイアを立ち上がらせた。
「どうかしら?合格ですか、私?」
と聞くと、笑顔で応えた。
「十分合格だわねぇ」
私はレベルが15増えて32になり、念願の生活魔法を覚えた。自動音声ガイド機能も覚えたが、無視した。
 フレイアを傘下に加えた翌日、クラスタの居城へと向かった。その途中、黒い雲に覆われた空から見慣れた軍服に身を包まれた軍人達が蟻の様にパラシュートで降下して来るのが見える。
中国軍だ。
そう言えば夢の中、前ループで見たものだと、クラスタを攻める前夜に攻められたんだっけ。すっかり忘れていた。少し時差があるけど、これは未来を知っている私が起こした変化の1つに違いない。
「全軍止まれ!」
行軍を止めて、皆んな何事かと空を見上げた。
「あれは人間だが敵だ。あなどるな!未来を知る私は、奴らの強さを知る。魔王と同じSSSランクとSSランクだが銃神の称号を持つ者に、我が軍の半数以上は殺された。敵の装備は全てに貫通魔法が付与されており、防御は意味を為さない。地上に降り立つ前に殺せ!」
降下してくる中国兵を、無数の弓矢で撃ち落としていく。
「来るぞ!」
Sランク以上は飛行能力を持っている。数人こちらに向かって飛んで来るのが見えた。キラリと光のが見えると、魔兵が次々と撃ち殺されていく。
「王の奴か…」
剣を抜いて指揮を取ると、反射的に剣を薙ぎ払った。私の足元に銃弾が弾かれて落ちる。
「剣帝の剣技を覚えていなければ死んでいたな。ま、生き返るんだけどね、私」
「ロード!フレイア!敵のSSSランクは空間魔法と時間魔法を使う。魔王アーシャと強さは同じくらいだ、気を付けて!」
「アーシャの事も知ってるのか?お前の未来っての、そろそろ信じるしかないかな?」
「酷ひどい。まだ私の事を信じてなかったの?」
「ゲートを手にするまでは信じられんさ」
ロードは剣を抜刀してSSSランクの張玉(ヂャン・ユゥ)に向かって行った。
「王ワン、久しぶりね?これから先の未来で、貴方にどれほど辛酸を舐めさせられる事か。貴方と戦ったのはロードだったけど、私が貴方の首をもらうわ」
「お前など知らん、邪魔だ退け!」
適当に発射された弾は、確実に私の急所を撃ち抜くはずだったが、全て斬り払った。
「残念ね、王。でも貴方はここで死ぬわ」
「ほざけ!」
引き金を弾くと私の頭を撃ち抜くよりも速く、剣で弾を落とした。王は、左右に身体を揺さぶってフェイントを入れて撃って来た。だがその全てを、軽く手首を翻すと弾き返し、あるいは逸らし、斬り落とした。
「馬鹿な、信じられん」
そう言うと連射を繰り返した。
しかし全て私に当たる直前で、弾は私の足下に転がった。
剣を一閃して、王の首を刎はねた。
「相手が私で良かったわね?ロードが相手だった時は、両手足を斬り落とされ、目はくり抜かれ、耳、花、唇は削そぎ落とされた上に性器もちょん切られて、皮まで剥はがれていたわよ」
戦う相手を変えたのは、油断した私は張玉に結界魔法に閉じ込められて、何度も犯された未来を回避したかったのと、王が吐き気を催すほど、無惨な殺され方をするのが忍びなかったからである。どうせ後で皆んな生き返らせるのだし。私が王を倒した頃、張玉の首をぶら下げてロードが戻って来た。
「流石!強いねぇ、ロードは」
「フレイアと2人がかりだからな、当然だ」
このクールで謙虚な所が格好良くて、痺しびれるわ。
 生き残った中国兵達を集めて、彼らの将達の首を見せた。
「殺すなら、さっさと殺せ!」と、誰1人として降伏しようとしない。国に殉じて死を選ぶつもりだ。何と言う愛国心だ、このご時世にと感動した。
「攻めて来ようとしたのは、お前達の方だ。だから先制攻撃を加えた」と言って、全員を生き返らせた。交易を結んで争いを止めて、地上に帰らせた。その後、クラスタに会うと巨大な斧を振り回して来たが、打ち負かして傘下に加えた。
「貴方のお姉様を取ったりしないわ」と耳元で囁いた。
 その晩、クラスタとロードが2人でお楽しみの所に割り込んで、3人で朝まで抱き合うと、クラスタは私に敵意を向けて来なくなった。目が覚めて、3人で代わる代わる、おはようの口付けを交わし合った。フレイアにもしようとしたら拒否られた、残念。
 脅威を感じた魔王ビゼルが、連合を組んで攻めて来た。前ループでは戦って負けたけど、結果的に彼らは傘下についた。つまり、最初から戦う必要は無かったのだ。
 私は使者を送った。その使者の側仕えのフリをして、私は紛れ込む事にした。使者はビゼルに拝謁し、誼みを結ぶ書簡を読み上げた。ビゼルは魔王ルシエラに目配せをすると、「返事はおって伝える」と言った。
私が立ち上がると、魔兵に取り囲まれた。
「そんな拙い変装で、誤魔化し切れるとでも思った?」と、ルシエラに切り出された。
「凄い!流石、ルシエラだわ」
「私の事を存じ上げて頂き、光栄ですわ」
手で合図を送ると、魔兵が攻撃して来た。
「何のつもりなの?」
「何のつもりとは?ゲートが開けられるとか眉唾物でしょう。貴女には無理よ。ゲートを守る者は誰よりも強い。例え魔王が10人で相手しても全員殺される。それほどまでに強い。貴女がそれほど強いとは思えないわ。だから試させてもらうのよ」
「あははは。何も武力でゲートを奪うとは言ってない」
「ではどの様な策が?」
「策?策略でもないわ。魅力よ」
馬鹿にされたと思ったルシエラは、怒って攻撃して来た。
「待って、待って!私は彼の妻なのよ!」
「何を言っている!」
「本当の事よ。彼の名前は、阿籍(ア・ジー)、もとい。西楚の覇王・項籍、字は羽。人呼んで項羽よ。強いのは当然ね」
「あの項羽か…なるほど」
ルシエラは少し思案している様だったが、微笑んで応えた。
「貴女の傘下に付きましょう」
「おい、勝手に何を言っている!」
ビゼルは他の2人に目線を配ると、相談せずに決めるな!と言って制した。
「嘘か真まことか、ゲートに行けば分かる。嘘であった場合、貴女を殺せば良い」
私を見る冷ややかな目が、本気である事を物語っていた。
 ロードの居城にルシエラ達を連れて戻ると、どうやって説得したのかと驚かれた。
「前ループではロードが説得してくれたのよ」
「私が…?」
クスッと笑って、紅茶を一口飲んだ。
「これは何と言う料理だ?美味いな」
ビゼルが口一杯に頬張りながら尋ねた。
「鳥の唐揚げよ。沢山あるから、どんどん食べてね」
私は生活魔法を覚えたので早速、宴会で人間界の食事を出した。
「これは、美味しいわね。何と言う料理かしら?」
「それはお刺身です」
ルシエラはお刺身を気に入った様だ。
「この煮えた料理は味付けが濃くて俺好みだ」
ファルゴが何かに興味を持つ姿を初めて見た。
「それは筑前煮よ。美味しいよね」
ビゼル達を加えて宴会をしている。魔王も7人になった。残るは3人だ、と思っていると他の3人の魔王達から傘下に加わえて欲しいと書状が届いた。
「宴会の仕切り直しね」
怖いほど、上手く事が運び過ぎている。須弥山の時の様に、足元を掬すくわれない様にしなければ、と気を引き締め直した。
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