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【第2部〜魔界編〜】

第1章 再会

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 陽射が眩しく、右手で影を作って、桜の木を見上げると、時折り吹く強い風によって、桜の花びらが舞い散っていた。数日もすれば、お花見が出来なくなるほど散る事だろう。
 私は気が付くとお墓の前に立っていた。
どのくらいの時間、立っていたのか覚えていないし、何故ここにいたのかも分からない。
 遠目の方で年配と思われる女性と若い男が、私を見て笑顔で手を振っている。見覚えのある顔だ。しかし、誰だったか思い出せない。私も笑顔で手を振り返した。若い男は走って来るなり、私を強く抱きしめた。私も自然と彼の背に手を回してハグをしていた。記憶は無いけど、身体が感触を覚えている。私はこの人を知っている。きっと私にとって、大切な男性だったのだろう。そこへ年配の女性がようやく追い付いて来た。
「はぁ、はぁ、山下君、早いよ。歩くのもキツいのよ」
息が乱れ呼吸を整える為に、大きく深呼吸を繰り返していた。歳は60代前半くらいだろうか?実年齢よりも見た目が若く見えるのは、きっと若い頃は美人だったに違いない。私を見る目が優しい。彼女の事も思い出せないが、彼女を見て胸が痛むのは、私にとって大切な女性だったからに違いない。
「あの…ごめんなさい。お2人を知っているはずなのですが、思い出せなくて…」
私が申し訳なさそうな表情を作ると、2人は顔を見合わせた。
「そうなの?…生き返って、いえ、生まれ変わったばかりだから、まだ記憶が混乱しているのかもね?」
「大丈夫、すぐに思い出すよ。瑞稀」
「ちょうどそこに喫茶店があるから入って話ましょうか?」
年配の女性に誘われるがままに、後ろをついて行った。良く考えたら、私は自分の名前も覚えていない事に気が付いた。彼女達の話では、今の私の名前は神崎瑞稀と言い、生前は男性で、青山瑞稀と言う名前だったと教えてくれた。男女で私の苗字が異なるのは、私が女性の時に母方の姓を名乗ったからだそうだ。女性の時に、と言う表現は何だか変だが、「女性変化」と言うスキルを持っていたらしく、女性化している間だけチート能力が使えたらしい。しかしそのデメリットも大きく、女性化進行率が100%になったら、元の男性に戻れなくなると言うペナルティーがあったみたいだ。また、男性としての寿命が尽きると、女性となって生まれ変わる様で、彼らも私が本当に転生するのか半信半疑だったとの事だ。男性の時の名前を何処かで聞いた名前だと思ったら、先程のお墓に刻まれていた名前だ。今の私は、男性から転生した姿なのか。俄かに信じられない話だったが、彼女達が嘘を付いている様には見えない。記憶は失くしていても、言葉や足し算、掛け算を忘れないのと同じで、私は自分のスキルを把握していた。
『自動音声ガイド』
呪文を唱え、自動音声ガイドに事実か確認してみると、確かに私はこの年配女性と夫婦関係にあり、天寿を全うして女性に生まれ変わったそうだ。
『女性変化』の蘭には、「男性としての寿命が尽きた為、女性変化100%永続中」と表示されていた。そして、女性変化していた時の恋人がこの男性で、私の寿命が尽きて完全女性化したら、一緒になる約束をしていたらしい。
「先輩の死を決して望んだ訳ではないけど、待ちましたよ、40年。意外にも早かったですね?」
「本当ね。あと50年って言ってたけど、10年早かったわね。もっとも、私に隠れて時々こっそり会っていた事も知っているんだけどね」
悪戯っぽく山下に微笑むと、恐縮した様子で山下が言い訳をし始めた。
「すみません。どうしても会いたくて…。でも1年に1回だけって言うルールを決めていました」
「へぇ、40年も毎年1回、山下君と浮気Hしてたんだ。見た目も心も女性化していても記憶は残ってるんだから、ある意味、ボーイズラブだよね」
「Hって…」
私は羞恥心で顔が真っ赤になり、山下の顔が見れなくなった。
「あははは。何を今更恥ずかしがっちゃってるの?ウブかっ」
麻生さんは大笑いしながら、私の肩を叩いた。
「意地悪だけど聞いて見たかったのよ。山下君に抱かれている時、私の事なんて頭になかったでしょう?」
「ごめんなさい」
「謝らなくて良いのよ。最後にちょっと愚痴を聞いて欲しかったの。私の青山君はもう死んじゃったから…」
麻生さんの目に光るものが見えて、ハンカチで目を押さえた。
「麻生さん、すみませんでした」
山下も深々と頭を下げて謝罪した。
「自分の旦那が、男の山下君と三角関係なんて複雑だったわ」
「青山君の死ぬ前の進行率を知ってる?98%だったのよ。元に戻れなくなっていたら、どうしていたのかしら?」
彼女とは約束をしていたらしい。死んだ後、生き返ったら1度だけ顔を見せて欲しいと。
「これでもう会う事はないから2人の邪魔はしないわ、仲良くね。そうそう、私が死ぬ時、娘達と一緒に看取って欲しいわ」
娘達にも話しておくから、と言い残して席を立って行った。私達も喫茶店から出た。山下のマンションに向かう間に、この40年間の話をしてくれた。日本政府はSSSランクの存在を確認したと発表し、国家機密として私自身、公の場には出せないと言う事で、寿命が尽きて完全女性化するまでは、プライベートを守ってくれたらしい。しかし常に私と山下の動向は監視されており、生まれ変わった事もすぐに報告されるはずだと言われた。その後は国に尽くすと約束したので、すぐに政府から迎えが来るだろうから、2人で過ごせる時間が限られているみたいだ。
 マンションに着くと、すぐに押し倒され、山下は私の身体を貪る様に愛し続けた。正直、彼の事は覚えていない。恋人だったのかも知れないが、記憶のない私には初対面も同然で、すぐに身体の関係になるのは抵抗があったが、何度も愛撫される内に、その気になってしまった。Hしたいと思うのは、何も男だけの特権ではない。彼に抱かれて8度目の絶頂を迎えた頃、チャイムが鳴った。シャワーを浴びていたからと言って待たせた。訪問客はやはり政府関係者だった。
 小柄だが恰幅の良い、見た目は50代の男と、側に筋骨隆々とした2人の男が控えていた。「お楽しみ中、お邪魔して申し訳ありませんでした」と余計な事を言われ、「約束は思い出して頂けましたか?」と切り出された。政府は私との約束を守り、男としての寿命が尽きるまでの間、プライベートに関知せず待っていた。誠意を先に尽くされた以上、此方から破る訳にはいかない。
「はい、約束は覚えていますので、落ち着いたら挨拶に伺う予定でした」と応えた。
マンションの下に用意されていた、リムジンに山下と乗り込んだ。外からの見た目に反して、中に入ると広くて内装がゴージャスだ。ちょっとした高級バー付旅客車見たいだ。
「何か飲みますかな?」
小柄な男はブランデーをグラスに注ぎながら聞いた。
お酒を飲むにはまだ早い時間だと思いながら、車内の時計に目をやると、19時を回っていた。山下と6時間以上、愛し合っていた計算になる。それに気付いて顔を赤らめた。
「何だか暑いわ」
車内の温度を少し下げてくれた。
車の中では終始無言だった。山下は不機嫌そうな顔をして、窓から見える景色を眺めていた。私は眠くなって、山下の胸に頭を乗せて寝ていた。
「着きましたよ」
「うん?」
大きく欠伸をしながら身体を伸ばした。
『自動洗浄』
洗浄魔法で顔を洗う効果と、少し汗ばんだ服の洗濯効果を同時に得た。山下にも掛けてあげてから、小柄な男達の後をついて行った。
「此方でお待ち下さい」
案内された部屋には誰もおらず、中央のソファに腰掛けた。
「何させられるんだろう?怖いな…」
「めちゃくちゃな事はさせられないと思うけど、俺が瑞稀を守るよ」
「ありがとう、山下さん」
「うーん、いつまで山下さん何だろう?他人行儀みたいで嫌だな。俺達、結婚前提で付き合ってるんだから、巧で良いよ」
「う、うん。分かった、巧」
「お、おぅ」
巧は、不意打ちを喰らって少し動揺していたが、すぐに嬉しそうな満面の笑みで私の肩を抱き寄せた。彼の胸に頭を乗せると、通常より少し早いリズムを刻んだ鼓動が聴こえた。
(結婚前提か…)巧は私と一緒になると幸せなんだろうな。では、私は?巧に関する記憶が全く無い。恋愛感情があるのかも分からないうちに、彼に抱かれてしまったけど、私は本当に巧の事を、愛しているんだろうか?そんな事を考えているうちにドアが開き、数人の男達が入って来た。
「初めまして瑞稀君、私の事は分かるかね?」
「すみません、生まれ変わった時に生前の記憶を失くしてしまったみたいで、覚えていません」
「ふむ、その昔、貴女と約束を交わしたのは私の祖父でね。私の名前は柊と言います。官房長官をさせてもらっていますよ」
先程からこの男の顔を、何処かで見た事がある様な気がしていたのは、生前に面識があった官房長官の面影が原因か。そう思って1人で納得していた。
「この40年で色々と情勢が変わってしまったのは聞いているかね?例えば台湾が中国に完全併合された事とか?」
「いいえ…」
「ロシアのウクライナ侵攻は覚えているかね?あの声の事件以来、戦争は兵器から能力者がモノを言う時代になってしまった。ヨーロッパ全土を巻き込む戦争に発展し、世界大戦の様相を得ていたのだが、アメリカのSSSランクが介入して収めてくれた」
私の記憶に無い生前に、そんな事があったのかと聴き入った。
「世界がロシアに注目する間隙を縫って、中国は台湾に、北朝鮮は韓国に攻め込み朝鮮統一を図ろうとした」
どうなったのか?と気になり、話に引き込まれていた。
「韓国に救助を求められた我国は共に戦い、これを阻止した」
ふぅーと、溜息をついた。
「しかし、残念ながら台湾の方の侵攻は食い止められなかった。中国は随分前から計画していたのだろう。兵は神速を貴ぶと言うが、台湾は政治、軍部の中枢をあっという間に抑えられ、為す術なく降伏したよ」
台湾の歴史を軽く説明すると、初めは先住民が住んでおり、オランダの植民地となったが、一部スペインが占拠していたので、オランダが攻め込んでスペインを完全追放した。その後、明の名将・鄭成功によってオランダは駆逐された。やがて鄭氏政権も崩壊し、台湾は清国の領土となった。日清戦争で日本が清国に勝利し、台湾を割譲され統治権を得たが、太平洋戦争で日本は降伏し、台湾は中華民国に返還された。その後の中国では政変が起こり、現在の中華人民共和国となった。つまり、日本人から見た台湾は、中国に返還したのだから元々中国のモノだろう、と考えるのが普通だが複雑であり、当の台湾人達は自分達が、中国人と思われているのを嫌っている。中国共産党政権よりも、日本統治下時代の方が良かったと思っている台湾人が多い為、親日家が多い。中国人には恨まれて嫌われている日本人だが、台湾人が日本人を好きなのは、こうした事情があるからだ。
「かつての総統府は無くなり、初めは自治区だったのだが、現在は香港やマカオと同じく特別行政区になっている」
「ごほんっ」
幹事長の隣りに座っていた男が、咳払いをして嗜めた。この人の顔は、喫茶店横の掲示板にポスターが貼ってあったのを見たので知っている。総理大臣の浅山慎介だ。
(総理に幹事長、この国のトップ1、2が揃ってる。忙しい筈なのに、私がSSSランクだからだろうな?)
「さて、前置きはこのくらいにして、本題に入りますかな」
「貴女の記憶には無いかも知れませんが、新たに『魔法省』と言うのが出来ましてね。そこのトップになって存分にその力を発揮して頂きたい」
総理は幹事長とは違って、穏やかに喋る人だ。
「省のトップと言うと、大臣?私が?」
「勿論、優秀な秘書やスタッフを付けて、貴女の仕事をバックアップさせて頂きます。ただ…」
と言葉を区切って、濁した。
「貴女にしか出来ない事を平時は行って頂きたい」
私にしか出来ない事とは、主に医療に従事する事だった。私に頼りっぱなしになると、医療の技術レベルが落ちる為、現代の医学では厳しい治療を回復魔法で行うと言う内容だ。
 なるほど、手足の欠損や今の医学で治せない病気も、私の回復魔法なら治せる。なんなら死者蘇生も可能だ。しかし、莫大な魔力を消耗する。だけど40年も経っていると問題点は改善されているものだ。
 知らないうちに法案が通過していて、魔法が使えない国民は、「魔力抽出の納税の義務」を負う事になったらしい。通常の税金とは別に毎月1回、各役場にて献血の様な感じで行われている。抽出は別に痛くも何ともなくて、抽出装置に手を翳すと魔力が吸い出される仕組みとの事だ。従わない者には厳しい罰則もあると言う。抽出された魔力は加工され、人工ダイヤモンドの様に圧縮し、魔石に加工して保存される。こうして作られた魔石は、報酬として魔法使いに支払われる仕組みだ。消耗した魔力を回復するので重宝されている。最早これは世界常識と化していて、各国は魔石を集める為にあの手この手を駆使している。
 私は、医者が治せない病や怪我を治療して、報酬に莫大な魔石が支払われる、と言う事になるみたいだ。戦争に従事させられるよりはマシだったな、と思ったので快諾した。政治家のお偉いさん方は肩の荷が降りたのか、一仕事終えた満足か非常に和にこやかになった。
 このあと私は、食事が用意されていると言うので、ディナーに招待された。お召し物をお着替えに、と言われてドレスアップさせられた。連れて行かれた食事会場は、華やかなパーティーだった。TVで見た事ある、社交界って言うのよね?明らかに私には場違い過ぎて、入口で呆然としていると、背の高いイケメンが歩み寄って来た。私の手を取って会場に入ると、全員に注目されて拍手で迎えられた。何コレ?恥ずかしくて赤面しているのが自分でも分かる。少し壇上になった所に連れて行かれると、MCがいて私の紹介を始めたので、挨拶されられる事になった。
「あ、あの、ただ今ご紹介に預かりました、神崎瑞稀です。宜しくお願い致します」
頭を下げると、一斉に拍手された。
MCが話を続けろ、みたいな目線を送って来たけど、ムリムリもう勘弁して。
そそくさと逃げる様に壇上から降りると、再び拍手された。
「良い挨拶でしたよ」
と先程のイケメンが笑顔で声を掛けて来ると、負けず劣らずのイケメン達、5、6人に取り囲まれた。
(私、こう言うの苦手だぁ)
ふと目線を女性に落とすと、好奇の目で見られていたり、もの凄く睨んで来る人もいた。嫉妬と好奇の目に晒されて精神的に疲れる。チヤホヤされている様に見えるかも知れないけど、私とは全く会話が合わないし、嬉しくないし、楽しくない。
(これが憧れの社交界デビューだって?)
ふふふ、笑っちゃう。あ、自然とイケメン達に、笑顔を振り撒いてる様に見えるのかなぁ?端っこの方に1人で飲んでいる巧を見つけて、救いを求めて走って行った。
「何、1人で飲んでるの?」
巧の腕に抱きついて頭を擦り寄せた。
此方に来たイケメン達に、「彼氏なの」と紹介すると、興醒めした様に散り散りに去って行った。
「良いのかよ?」
「何が?本当の事じゃない」
巧は嬉しそうな顔して頭を撫でてくれた。
「見せつけてくれるわね?あの男達が、誰だか知ってるのかしら?」
胸元と背中が開いたセクシーな赤いドレスに身を包んだ女性が話掛けて来た。私がキョトンとしていると、教えてくれた。
「ふふふ、どうやら私の事も知らないみたいね。ちょっとショックだけど、私もまだまだって事ね」
首をすくめて見せた仕草が可愛らしく、見た目と違って性格は良さそうな女性だ。巧が耳元で、有名女優さんだと耳打ちしてくれた。
「さっきの男達はね、今をときめくアイドルグループの男の子達なのよ。そして、貴女をエスコートした男は、これまた今の、抱かれたい俳優No.1の芳山昌幸よ」
「ちなみにニックネームは、ヨッシーね」
安易なネーミングだけど、親しまれる名前とは案外そんなものかも知れないなと思う。アイドルグループか、だから私と話が噛み合わない。ヨッシーの方は、確かにイケメンだな。
「あっ、ちなみに私は女優の荒井佳織よ」
「私は、神崎瑞稀です」
「あははは、面白い人ね。これ、貴女の為のパーティーなんだから、貴女を知らない人はここにいないわ」
私が生まれ変わったばかりで、生前の記憶がほとんど無いので、誰が誰だか分からないと伝えると、巧を残して私と一緒に会場を回って紹介してくれたので、全員と挨拶が出来た。最初に私に声を掛けて来た男性アイドルは、私の記憶が無くて彼らを全く知らなかったと言うと、自信を取り戻したみたいだった。
 それから荒井さんは芸能界の闇を教えてくれた。
「女性アイドルに皆んな幻想を抱いているけどね、多くはヤリコン経験者なのよ」
「ヤリコン?」
「あはっ、知らないかぁ?ヤリコンはね、ヤル、コンパって事なのよ。分かる?」
「あー」
意味を理解して顔を赤らめる。
「うふふ、反応が可愛いわぁ。女性アイドルやモデル、女優も皆んな最初から売れてる訳じゃないのよ。勿論、そんな人もいるけど、一握り以下しかいない厳しい世界なの。皆んな、食べて行くのも厳しい生活を送っているわ」
「厳しい世界ですね」
「それにね、この業界を続けるにはお金がかかるの。売れれば事務所が出してくれるけど、そうでない人は自腹よ。服も交通費も、自分磨きも怠れないからエステに通ったり、ボイトレに行ったり、ヘアメイクやネイルサロンにも行かなきゃならない。大抵が一人暮らしだから家賃から光熱費、食費、人に見られる商売だから見栄え良くする為にブランドのバッグも欲しいし、私服だって同じ物は着ていられないの。でも売れていない芸能人がどうやってそんなお金を捻り出すの?」
「?」
「彼女達には若さと身体しかないのよ…」
「…」
「枕営業とはよく言ったものだけど、実際はそんな甘い物じゃない。ヤリコンで何人ものオヤジ達(プロデューサーやスポンサー、有名俳優やTV局の大物)に抱かれながら縁を繋いで、オーディションの紹介を受けるの。勿論、受かる保証なんてない。チャンスが与えられるだけよ。それに、1回あたり足代とは別に、20万くらい貰えるから生活は助かるし、オヤジ達も若い女の子を抱けるからwinwinの関係なのよ」
「はぁ…」
「良く、私の彼氏はファンの皆さんでーす。とか言ってるアイドルとかもファンや彼氏を裏切って、ヤリコンに通って生活しているのよ」
「彼氏って?」
「そうそう皆んなじゃないけど、アイドルも実は彼氏いるしね。彼氏がいても誰とでも寝れるのよ。感覚がマヒしちゃってるから。10代で徐々に売れて来た子なんかは、100人は余裕でヤッテルわね。だから今更、1人、2人増えた所で何ともないのよ。誘い出されて男達に回された経験者もいるけど、ヤリコンやってたお陰で犯されたショックが全く無いんだよねーって言ってた子もいたわ。ただでヤラレて悔しいとは言ってたけどね」
「ふわぁ、詳しいですね」
「何で詳しいかって、言わなくても分かるわよね?私も売れてない頃はヤリコンに参加してたからよ。やった人数なんて両手両足の指1本ずつが10本有っても足りないわ」
(両手両足の指10本って、20×10で200人越え?ひょえぇぇ~。凄い話だぁ)
「ねぇ?さっきの彼氏とはもう済ませたの?」
私はコクリと頷いてみせた。
「なーんだ、ちゃんとやる事はやってるのね?反応がウブ過ぎて処女なのかと思っちゃったわよ」
彼女は、あはははと大声で笑った。
荒井さんと別れて巧の元へ戻って来ると、綺麗な女の子達に囲まれていて、チヤホヤされていたので、かなりムカついた。彼女達の目的は金のある男を落とす事だと分かった。それに『絶世の美女』の称号持ちの私から男を奪えれば、彼女達のステイタスは上がるし、自己満足も満たされるだろう。無理でもの知り合いにコネ付けるチャンスでもある。荒井さんが何であんな話をしたのか理由が分かった。巧が大切なら、しっかり捕まえておきなさいよ、って忠告してくれたんだ。
(はぁ、疲れた。もう帰りたい…)
パーティーとか私は苦手だなぁ。そもそも人とあまり会話したく無い。オタクは基本的には陰キャだ。私は家でゲームするか華流ドラマを観ていたい。録画が溜まってるだろうな?と思うと気になって来た。ようやくパーティーが終わって解放されたのは、あれから3時間後だった。来た時と同じ様に政府関係者が、車で送ろうとしてくれたが、不機嫌だった私は断って、『影の部屋』を唱えて、影の世界に入って全速力で飛んで帰った。鼻の下を伸ばしている巧を置いて。
 シャワーを浴びてバスローブに身を包むと、たくさん予約録画していた華流ドラマのチェックを行なった。私はそのまま観る派ではなく、CMカットしてから観る派だ。何故なら全部ダビングしてコレクションにするからだ。CMはカットするが、目に付いた広告は気にしていて、お店で見かけたら、ついつい手に取って見てしまう。気に入れば購入するのだから、CMの効果は大きいよね、と当然の事だけど感心する。
 CMを一通りカットし終わって、さぁ観るぞ!って言う時にドアが開いて、巧が帰って来た。
「ひどいなぁ。置いて帰るなんて。何、怒ってるんだ?」
「言わなくても分かるでしょ?綺麗な女の子に囲まれて、チヤホヤされて鼻の下伸ばしちゃって…」
「俺も迷惑だったんだ。冷たく突き放したかったけど、瑞稀のパーティーだと思って我慢してたんだよ」
ムクれている私の背後からハグをして、耳を甘噛みされた。
「『絶世の美女』の瑞稀に勝てる女なんている訳ないだろう?絶対、浮気なんかしない。俺が怖いのは、瑞稀に嫌われて、失う事だけだよ」
こんな単純な言葉で許せてしまう自分が情け無い。顔が良いから私と付き合っているのか?と、捻くれて受け止めちゃうわよ。   
 その『絶世の美女』の称号持ちは、全世界で7人いるらしい。インド・中国・イギリス・フランス・フィンランド・ブラジル・日本の7カ国だ。そのうちSSSランクが私だけなので、本命とされているらしいけど、インドの美女がNo.1の呼び声が高いみたいだ。
「ところで荒井さんの話は何だったんだ?」
「ダメだよ。芸能人のHな秘密のお話だから、言えないよ」
荒井さんの話を聞いて、どうやら私も興奮してたみたいで、積極的に巧を攻めると、何度も悦びの声を上げた。それにしても、なんだかとても疲れる1日だった。行為が終わって目を閉じると、あっという間に深い眠りについた。
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