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【第1部〜序章編〜】

第24章 政府による能力者の囲い込み

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 その日の夕方、政府関係者と称する者たちが会社に来た。能力ランクを鑑定するスキル持ちによって判別し、記録されるとの事だ。山城が言っていた様に、高ランク能力者が見つかった場合は、そのまま面談があるとの事だった。山城が言った事が事実であれば、面談と言いながら、問答無用で連れ去る気かも知れない。銃を持った自衛隊が物々しく周囲を警戒しているが、あれは、武力によって有無を言わさない為の物ではないのか?皆んな能力を得たばかりでランクが高くても、力の使い方を知らない者ばかりだろうから抵抗出来ない。
 1人1人、会議室に呼ばれて行く。私の番が来て室内に入り、最初に目に飛び込んだのは、鋭い眼光をした無愛想な小柄の男が座っていて、その男の左右から銃を持った自衛官が守っていた。その男は私を一瞥して「C」と言うと、スーツの男が「ご協力ありがとうございました、あちらのドアからお帰り下さい」と会議室の隣の部屋に通じるドアを示した。私は退室すると、既に鑑定が終わった社員が、ランクは何だった?と聞いて来た。皆んな、自分のランクやスキルの話で持ちきりだった。山下や麻生さんはどうしただろう?順番がまだなのか?自分が出て来たドアを見つめていたが、最後の1人が出て来た後「これで終わりです。ご協力ありがとうございました」とスーツ姿の男だけが挨拶して帰って行った。
(麻生さん達は、どうした?)
山城の言葉が急に現実味を帯び出した。
そう言えば、山下だけでなく山城もいないじゃないか!
「えー、皆さん、静粛に。数名ほど高いランクの社員がおり、その社員たちは政府で、より詳しい検査を受ける事になりました。これは大変光栄な事です。政府から報奨金も出る様です。彼らにとっても有意義な事なので、暫くの間、会社を休みますが、騒ぎ立てる事など無いように…」
社長の言葉を最初は聞いていたが、段々と青ざめて最後の方は頭が真っ白になり、耳に何も入って来なかった。
 会社はそのまま解散となり、次の出勤は3日後で良いと伝えられ、皆んな単純に大喜びしていた。いなくなった仲間の心配をするものは、1人もいなかった。麻生さん達の無事を確認したい。検査と称して何をされてる事やら。まさか人体実験なんてされてないよな?考えれば考えるほど不安になる。考えても仕方ない。この目で見て判断するまでは安心出来ない。必要であれば、助けるだけだ。
 会社の男子トイレで女性変化し、『影の部屋』を唱えて、影の世界を全力で飛んで追いかけた。会社の会議室で会った男達が乗っている車に追いついた。前後を自衛隊のジープで挟まれ、守られて走っているからすぐに見つけられた。そのまま影の中から尾行を続けると、そのまま自衛隊の駐屯地に入っていった。麻生さん達もここにいると言う確証はない。しかし手掛かりはここしか無い。『自動音声ガイド機能』と『自動書込地図』をONにした。
〝主様、ご用件を承ります〟
「ここに麻生さん達がいるかどうか、分かる方法はある?」
〝いくつか方法はございます〟
〝まず1つ目は、『自動書込地図』を使ったまま影の中をくまなく飛んで地図を埋めます。そうしますと、主様が知っている者であれば地図に名前が表示されます〟
「おー凄い。手間はかかるけど確実性はあるって事ね」
〝2つ目は、『自動書込地図』の特殊技能で、エコロケーションを行います。これは、地図を指で弾くようにタップしますと超音波の様に地図内の人、物などを感知します。感知しますがそれが何かまでは分からないのがデメリットです〟
「なるほど、それなら1と2を組み合わせて使った方が、効率よく早く見つけられるって事ね」
上手くいくか試しに地図を指で弾くと、弾いた所から中心に波紋が広がっていく。地図上に青色の光点が浮かび上がる。取り敢えず近い所から順に、確認して行く。地図を見ている内にある事に気付いた。部屋の様な所に青い光が多く集まっている。
(ここね、多分)
その場所に辿り着いて中の様子を伺ったが、麻生さん達はここにはいなかった。しかし連れて来た社員を、どうするつもりなのか興味がある。暫く室内の様子を伺っていたが動きが無いので、このまま見守っている間に知りたかった事をガイドに聞いてみようと思う。
(そうだ、確か山城が言ってたな。SSSランクはアメリカと中国と残るは後1人だと)
「どうやってランクの人数まで分かったの?」
〝それは、ステイタスの『ランク』をタップされますと、各ランク毎の人数を知る事が出来るからです〟
「所属国まで分かっているのは?」
〝ランク毎の人数しか見れません。恐らく各国が他国を牽制する為に独自でランクを把握して、発表したものと思われます〟
「なるほど、つまりSSSランクの私に勝てる人は、少なくとも日本人にはいないわけだ…」
(だからと言って、人殺しまでするつもりはない)
「日本人じゃないフリをして、堂々と出て行っても何とかなるんじゃないコレ?誰も私に勝てないでしょ?」
〝主様、ランクだけで慢心した考えは危険です。主様はSSSランクで不老不死ですが、ベースは魔法使いです。接近戦で銃や剣のSランク以上が相手ですと歯が立ちません。不死とは言っても、身動き出来ない様に捕らえる事は可能です〟
「なるほど、生け捕りにされる可能性はあるのか…」
〝はい、麻痺、催眠、石化、氷漬け等は状態異常無効によって効きませんが、結界などで閉じ込めて生け捕る事は可能です〟
「結界師とか空間魔術師とかかな?気を付けないと」
それに、日本人同士で戦いたくない。何だか戦う前提で考えちゃってるが、もの凄く高待遇で贅沢させて貰える可能性もあるし…その時はお邪魔なんで帰ろうと。
「もう1つ聞きたい。今、私を魔法使いがベースだと言ったよね?違う人もいるんだ?」
〝はい、例えば、願い事に魔法ではなく、剣の達人になりたいと願った人もいるからです〟
「なるほど、山下や山城の様にか。では私を倒せる可能性があるSSSランク以外のランクで要注意とかあるの?」
〝ランクではなく、称号です〟
〝剣聖、拳聖、賢聖の三聖に加え、勇者、賢者、銃神等の称号持ちは主様の強さに届き得ます〟
「勇者とかいるんだ、完全にRPGだな」
思わず笑ってしまったが、これが現実なんだと噛み締めた。ほんの数日前の平穏な日常がガラリと変わって、まだ夢の中にいるみたいで現実味を帯びていない。
「そうだ、最後に『影の部屋』で行ったあの深淵は何なの?勝手に魔界とか呼んでたけども」
〝あれは第三異世界です。神々が罪人を墜とし、流刑地とした闇の牢獄。分かりやすく言い直しますと、魔界です〟
「やっぱり魔界!?」
「魔界って言うからには、悪魔とか魔王とかいたりするのかなぁ?な~んてね?」
〝居ます〟
「えぇ~!やっぱりヤバい所だったんじゃないの」もう2度と行かないと心に誓いつつ、遭遇しなくて良かったと安堵した。
「悪魔とかって、地上に出たりとかしないのかな?大丈夫?」
〝大丈夫です。神々の牢獄ですので、神々が施したゲートを通過する事は出来ません〟
「私は通れたけども…」
〝主様が人間だからです。魔界に堕おとされた神や闇の住人は、神々が張った光の結界によって出れません〟
なるほど、その心配は無くて安心したよ。
「この際だから全部聞いておきたい。私の称号『神々に愛されし者』が、ある条件で『神々に捧げられし者』に変化するらしいけど、これは何?」
〝神々は古来より、美女と美酒が大好物です。『絶世の美女』である主様が、神々と出会ってしまうと、称号が変化します。そして、飽きるまで慰み者とされてしまいます。主様の力は、神々が与えたもの。ですので、神々のその力は絶大で、人間が抗あらがえるものではありません〟
(怖っ。確かにギリシャ神話とか、ゼウスが一目惚れした人間の美女を犯して子供を生ませたって話があるな)
「その神々に会わずに済む方法とかって無いのかな?」
〝ありません。神々は気まぐれで神出鬼没です。その行動は予測不能です。出会わない事を祈るしかございません〟
(うぅ、飽きるまで犯され続けるって、性犯罪者も真っ青な変態だろ。酒…酒か…万が一出会った時の為に美酒を用意して、酔わせた隙に逃げよう)
「怖すぎる」
〝はい、その行為は数年にも及びますので〟
「はぁ?数年って、飲まず食わずで?死んじゃうじゃん!」
〝天界に連れ去るので、飲まず食わずでも死なないのです〟
「何で天界だと死なないの?」
〝天界では一定時間の周期で、『甘露の霧』が発生します。甘露は、飢えも渇きも癒し、栄養価も高い為、身体に浴びるだけでその効果を発揮します。室内であっても甘露が漂っていて、効果が得られるのです〟
「もしかすると天界では食事はしないのかな?」
〝する必要は無いのですが、楽しむ為に敢えて人間の様に食事を摂る場合もあります〟
「なるほど…」
まだ何か言いかけ様とした時、室内に動きがあった。
「皆揃った様なので、お呼びした理由を順々にお話させて頂きたいと思います」
面談の時のスーツの男が話始めると、皆一斉に男の方を向き、私語を止めて聞き始めた。ここら辺は社会人だなぁと、変に感心して見ていた。スーツの男は、名前を木下完治と名乗った。話の内容は半分想像した通りで、残り半分は寝耳に水の切迫した話だった。要約すると、他国の脅威から日本を守るためにAランク以上は国家戦力として人材を確保すると言うもので、SSSランクを要する中国とは戦争寸前の状態らしい。原因は、台湾を併合しようと「1つの中国」を目指す中国の野望を阻止して、台湾を独立させたいアメリカの思惑に乗っている日本の立場が、中国とは敵対しているからだ。
 ここ数日、中国が台湾に戦闘系能力者の送り込みが活発化していると諜報部門から情報を得て、台湾に自衛官を派遣しているが、水面下では既に小競り合いも起きており、非常に危険な状態で、いつ大規模戦闘が起こっても不思議じゃないらしい。そこまで緊迫した状態は全く感じないが、両国が情報統制していて、政治的に駆け引きをしているのだろう。そこで、Aランク以上の人材は緊急時に、その力を発揮出来る様に訓練をする為に呼んだ、と言う事らしい。国家機密を知った事になるから、彼らは簡単には帰してもらえないだろう。麻生さん達も同様か?そう思うと居ても立っても居られなくなった。
 私の個人的な感情では、中国史、華流ドラマ好きとして、中国とは仲良くして欲しいと思う。しかし、状況によっては、そうも言っていられなくなる。麻生さん達も何処かに連れて来られていて、訓練するだけなら、暫くは大丈夫だろう。中国と戦争になったら、麻生さん達が危険に晒される。中国はSSSランクを筆頭にSSランクが2人、Sランクが3人で米国を上回って世界情勢は逆転し、中国が世界最強国とニュースでやっていた。もはや完全にランクがモノを言う時代となり、各国Sランク1人でもいれば御の字で、Sランク以上が1人も居ない国もある。全世界でSSSランクは3人で、SSランクは10人、Sランクは30人しかいない。Sランクは1人で、核兵器1万発に匹敵する戦力らしい。中国を敵に回せば、日本は危うい。麻生さん達も戦争になれば駆り出されて危険だ。それなら、先に脅威を取り除くしかない。思い切って中国に行ってみようか、それとも先ずは親日で、中国が暗躍している台湾に行こうかと思い悩んだ挙句、いきなり中国はハードルが高い気がして、台湾に行く事にした。
日本人観光客も多いと思うので、紛れ込みやすいと思ったからだ。
(台湾で情報を集めながら、中国軍の動きを探ろう。もしバレても日本にSSSランクがいると分かれば牽制になるだろう)
でも行くには準備も必要だ。支度をする為に一旦帰ることにした。
 アパートに帰って来たが、支度と言っても生活魔法で服が出せるなら、着替えを持って行く必要がない。
「何でも入るバッグみたいなのはないのかな?」
〝生活魔法の中に、『魔法箱』がございます〟
「あった、コレね?ありがとう」
大して持って行く物もないのだが、それでも軽装であるに越した事はない。
(さて行くか…)
会社の休暇中に何とか目処をつけたい所だ。支度をしながら鼻唄を歌い、少し旅行気分で浮かれている自分に気が付いて反省した。ふいに、パスポートを持って無い事に気が付いた。堂々と観光客を装って入国するつもりだったが、『影の部屋』で密入国するしかない。犯罪なので気が引けると考えていたが、思い返すと、さっきの自衛隊基地に入ったのも、不法侵入の上に、覗き行為で十分犯罪なのでは?と今更気がついた。バレなければ良いと言う問題ではない。これは良心の問題だ。葛藤したが、戦争を未然に防ぐ為で、非常事態なので特例だと自分に言い聞かせて納得する事にした。
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