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【第1部〜序章編〜】

第23章 ボランティア

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「おはよう」
「おはようございます!」
会社の建物の外で麻生さんと挨拶を交わす。まるで待っていてくれたみたいだ。朝から至福の一時だ。
 麻生さんは私の顔を覗き込みながら、
「待ってたのよ?」と悪戯っぽく笑った。その笑顔にドキッとして胸が高鳴った。笑顔で手を振って、麻生さんは医務室へ向かった。
 会社の入口で山城が立っていた。私に近寄って来て、苦い顔をしながら肩を組んで聞いて来た。
「青山お前、麻生さんと付き合ってるのかよ?」
「秘密にしてくれよ。実は付き合っているんだ」
「かぁ~。あの高嶺の花を落としたのが、まさかのお前とは羨ましい限りだ」
そう言うとタバコを吹かした。私はタバコの臭いも煙も苦手なので、山城に挨拶してエレベーターに乗った。出勤すると、今日の仕事は無かった。取引先が休業だったり、文字通り会社が潰れて倒産してしまったりと混乱が続いているからだ。その代わり、ボランティアで近くの商店街の復興の手伝いをする事になった。
「地域の皆さんに常日頃の感謝と貢献を!」などと最もらしい事を言っているが、結局のところは「地域に密着してますよアピール」で、会社の好感度を上げて取引先が増えるのを期待しているのだ。それ自体は良い事だし、巡り巡って会社の利益に繋がるかも知れないし、社員の給料だって増えるかも知れない。それは分かるが、それに駆り出される身にもなって欲しい。私は良い、アパートは無事なのだから。社員の中には自分の家や実家が倒壊し、ボランティアどころじゃない人もいる。自分の方こそ、ボランティアして欲しいと思っているだろう。そこら辺を、もう少し考慮してくれれば良いのに。私は店舗の崩壊によって発生した粗大ゴミを、収集場所に集める作業を中心に行った。
 先日女性の私をナンパして来たチャラい2人組は、真面目に復興作業をしていた。周りの人達にも声を掛けて、音頭を取っている。私には真似が出来ない芸当だ。彼らのおかげでスムーズに皆、作業が出来ている。人には色んな才能があるものだと感心し、見直した。
(案外、良い人達だったのかもしれないな。モテる為にしてるその見た目が逆に損してるぞ?勿体ないな)
腕が上がらなくなって来た頃、ようやくお昼休憩になった。日頃行わない力仕事で、既に身体中が悲鳴を上げている。午後から体力が持つか不安だ。それよりも何よりも汗だくでシャワーを浴びたい。昼食はそれからだ。シャワーにかかりサッパリして、食堂で胡桃パンとオレンジジュースを受け取ると屋上に行ってみた。勿論、麻生さんを探しに。屋上で麻生さんを探したがいなかった。まだ医務室かな?
 そんな事を考えていると、突然けたたましくサイレンが鳴った。それは、パトカーや救急車のそれではなく、ましてや消防車でもなかった。サイレンが鳴り終わると大音量で放送が鳴り響いた。
「こちらは、政府による案内放送です。能力者対策特別法案が可決されました。日本国民の能力ランクとスキルの登録が義務付けられました。政府の案内に従って速やかに登録して下さい。これは、訓練放送ではありません!」
3度繰り返して鳴り止んだ。
「各国が国家戦力の把握で能力者の囲い込みを始めているらしい。これからは、能力者の時代よ。富国強兵がいつの時代でも要だからな」
スピーカー放送が止むと、山城が背後から声を掛けて来た。
「特にAランク以上は重宝されるが、国に管理されて自由が無くなる。これまでは大量虐殺兵器の質と量が抑止力だった。特に核兵器のな。しかし、これからは高能力者ランクがモノを言う時代だ」
「そんなの民主主義が許すのか?」
突然声を掛けられて驚きながらも、山城の方を向いて応えた。
「他国の脅威に晒さらされてるんだぞ、そんな事を言ってる時代じゃなくなったんだよ」
「それでは、麻生さんや、山下、お前も政府に囲われるって事なのか?」
「それはどうなるか分からない。日本は基本的に欧米のやり方に倣ならっている。そうすると、近いうち戸籍に能力ランクやスキルを紐付ひもづけて登録され、次に高い能力者は政府によって招集されるはずだ。一生の贅沢をさせてやるとね。自由と引き換えに」
最後は皮肉めいた言葉だが、これからの自分の運命を悲観してのものだった。
「拒む事は国民として許されない。能力者を囲い込む事は国を守る上で重要な事だと、国民を洗脳する放送が各局で流され始めるぞ。世界の流れも同じだ、平和を維持する為に乗り遅れるな!とね」
私は隠しスキルの効果で、低いステイタスに見せかけられるから安心だ。でもSランクの麻生さんは、聖女のスキルを守る為に生涯恋愛禁止にされるかもしれない。だがもう麻生さんは処女では無くなった。それを知らない日本政府によって自由は無くなり牢獄の様な場所で、重傷患者を治療するだけの一生を送る事になるかもしれない。
そんな事は許さない。麻生さんだけは守ってみせる。SSSランクがそうさせるのか、奇妙な自信があった。
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