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【第1部〜序章編〜】
第6章 外出禁止令が明けて
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陽射が目にかかり、眩しさで目が覚めると、毛布に包まりながらブルブルと震えた。もう6月だと言うのに朝は肌寒く、日中との気温差で身体を壊しそうだ。
「おはよう、よく寝ていたね」
透き通る様な明るい声が、意識を完全に呼び戻してくれた。
「おはようございます、麻生さん」
麻生さんが起こしてくれるなんて、幸福感で満たされる。俺も昨日の山下の事は言えないなと思い、苦笑いした。
「よくここが分かりましたね?」
「探したんだよ?(笑)」
「えっ、何でですか?」
「うーん、内緒(笑)」
そう言って彼女は悪戯っぽく笑った。
皆んな男女別々の部屋で寝たり、お構いなしに一緒に寝ていたり、自由にしていた様だ。部屋と言っても、自分達の所属する部署で、寝れるだけのスペースを空けたみたいだ。どうやら麻生さんは、ゲームの話をしながら、私と一緒に寝たいと思ってくれていたらしい。めっちゃ嬉しい、1人で寝て後悔した。
「麻生さんもよく寝れました?」
「ううん、私、環境が変わると中々寝付けなくて、ほとんど寝れなかったよ」
「何処で寝てたんですか?」
「医務室のベッドで…私だけベッドで寝てて良いのかな?と思ったんだけどね…」
そう言って申し訳なさそうな表情をした。
他の女性社員達で仲良い人がいないだろうからな。一緒に寝たかったって、ベッドで?いやいや、私は床だろう。麻生さんの性格だと気にせず、一緒にベッドで寝ようとか言いそうだけどな。勿論、私を信用して、襲われないだろうと。でも私も男だから、好きな女性が横で寝ていればチャンスを狙うだろう?普通…と、何考えているんだ私は、会社だぞここは。麻生さんとの初めてが会社って言うのは…などと不謹慎な妄想をしてしまった。
(皆んな自分の部署で寝てたんだから全然OKだろ?遠慮なんてする必要もなければ罪悪感を感じる必要もない。優しいよなぁ、麻生さんは。益々、貴女を好きになったよ…)
「所で今何時だろう?」
「もう8時だよ。皆んな朝ご飯もらって家に帰ってるよ」
「え?外出禁止令は大丈夫なんですか?」
「うん何か夜間だけだったみたいで、皆んな家が心配だろうからって解散になったよ。もし、家が無事じゃなかったら会社に戻って来ても良いって。家族も一緒に避難OKみたいよ」
うちの会社、良心的だったんだなぁ。
こういう非常事にこそ良さが見えるもんだな。
「私も今から家に帰るから、ちゃんと朝ご飯食べるんだよ?バイバイ」
手を振りながら、軽くスキップをして去って行った。
(することなすこと可愛いなぁ)
わざわざ起こしに来て教えてくれるなんて、これは親切心が好意だと勘違いしちゃうよなぁ。もしかして両想いかもと期待してしまう。思わず顔が綻んでニヤけてしまう。側から見たら、さぞかしキモい光景だろう。
欠伸をしながら毛布を畳んで、トイレで顔を洗って食堂に行くと、やはり山下が例の如く待ち構えていた。食堂のおばさんからカツサンドとコーヒー牛乳を受け取ると、手招きする山下の前に座った。
「先輩!昨日はどこで寝てたんすか?話を聞いて欲しくて…」
興奮気味に昨晩の屋上での出来事を話始めた。私は話半分に聞きながらカツサンドを頬張り、コーヒー牛乳で押し流した。私は当事者だぞ。内容は全て把握してるよ、お前とは逆目線でな。
山下は、キスを受け入れてくれたんだから、友達からと言っても付き合ってるも同然だとか、自分勝手な解釈で話していた。別にキスを受け入れた訳じゃないだろアレは?無理矢理したんだろ。お前の想い人がまさか目の前にいる私だとは思わないだろう。しかし今は何ともなく普通だが、実は女性化していた時は一緒にいてドキドキしていた。バレないか心配で、一種の吊り橋効果みたいなものだったのかも知れないが、トキメキにも似た感情だった。正直キモいけど。もしかすると女性変化中は、見た目の身体だけでなく、感情とかも色々と女性寄りになるのかも知れないな。だとすると、使用は控えるべきだ。正体を隠す意味でも。使い過ぎて男に戻れなくなるのも怖い。
遅めの朝食を終わらせて帰り支度をした。と言っても出勤に大した物を持って来ている訳では無いから、すぐにまとめ終わった。山下も自宅に帰るみたいだが、山城はまだ残って仕事をするみたいだ。こんな時にも仕事なんて、さすがエリートコースだ。軽く皮肉って見せながら会社を後にした。
外は想像以上に荒れ果てていた。街路樹は軒並み物理的な力で折れ、商店街のほとんどは入口を中心に壊され、道路も所々抉られた跡が残り、一昨日まで見慣れていた景色がこうも変わるものかと目を疑いたくなる光景が広がっていた。この有り様でよく会社が無事だったな、と思わずにはいられなかった。恐らく守衛さん達が強いスキル持ちで、守ってくれたに違いない。会社の前はそこそこ交通量が多いはずだったが、今は1台も通ってはいない。そればかりか、人っ子1人見かけない。皆んな何処かに避難しているんだろう。今さらだが、とんでもない事になった。早く治安が回復して欲しいものだ。いつもは電車やバスを利用して出勤しているのだが、どちらも運休しているので、徒歩で帰るしかない。
3駅程度なので徒歩なら片道50分くらいだが、この歳になると半分も歩かないうちに息切れをする。それに加えて日が昇り始めて気温が上がり、それだけで体力を根こそぎ奪っていく。途中途中で休みたいが、どの自販機も売り切れが表示されていて空っぽだ。仕方なく、木陰で涼みながらスマホでニュースのチェックをしたが、ネットに全く繋つながらず諦あきらめた。もう少しで着く、踏ん張れ!と自らを鼓舞して歩き始めた。
ようやくアパートが遠目から確認出来る距離まで来ると、既に11時をまわっていた。
「ふー、やっと着いた」
アパートの周辺は何事もなかったらしく、近所からお昼支度の匂いが漂っていた。
部屋に入ると、どっと疲れが押し寄せる。
(このままベッドに倒れて寛ぎたいところだが、汗びっしょりだ。先にシャワーを浴びよう)
少し温度を下げたシャワーを頭から浴びた。シャワーの後は風呂桶にお湯を溜めて足をつけた。
(はぁ、癒される。湯船に浸かるのが一番だけど、足湯も悪くないな)
浴室から下着だけで出ると冷蔵庫からアイスを取り出した。幸い停電にはなっていなかった様だ。至福の1本だね。アイスキャンディーを舐めながらテレビのスイッチを入れた。どのニュースもあの声の話題と、得た能力での犯罪ニュースを流していた。
そしてどの宗教団体も、あの声こそが我らが神のお言葉と主張して対立していた。ベッドに横になると、眠くなって来て瞼がとろんとして来た。
「おはよう、よく寝ていたね」
透き通る様な明るい声が、意識を完全に呼び戻してくれた。
「おはようございます、麻生さん」
麻生さんが起こしてくれるなんて、幸福感で満たされる。俺も昨日の山下の事は言えないなと思い、苦笑いした。
「よくここが分かりましたね?」
「探したんだよ?(笑)」
「えっ、何でですか?」
「うーん、内緒(笑)」
そう言って彼女は悪戯っぽく笑った。
皆んな男女別々の部屋で寝たり、お構いなしに一緒に寝ていたり、自由にしていた様だ。部屋と言っても、自分達の所属する部署で、寝れるだけのスペースを空けたみたいだ。どうやら麻生さんは、ゲームの話をしながら、私と一緒に寝たいと思ってくれていたらしい。めっちゃ嬉しい、1人で寝て後悔した。
「麻生さんもよく寝れました?」
「ううん、私、環境が変わると中々寝付けなくて、ほとんど寝れなかったよ」
「何処で寝てたんですか?」
「医務室のベッドで…私だけベッドで寝てて良いのかな?と思ったんだけどね…」
そう言って申し訳なさそうな表情をした。
他の女性社員達で仲良い人がいないだろうからな。一緒に寝たかったって、ベッドで?いやいや、私は床だろう。麻生さんの性格だと気にせず、一緒にベッドで寝ようとか言いそうだけどな。勿論、私を信用して、襲われないだろうと。でも私も男だから、好きな女性が横で寝ていればチャンスを狙うだろう?普通…と、何考えているんだ私は、会社だぞここは。麻生さんとの初めてが会社って言うのは…などと不謹慎な妄想をしてしまった。
(皆んな自分の部署で寝てたんだから全然OKだろ?遠慮なんてする必要もなければ罪悪感を感じる必要もない。優しいよなぁ、麻生さんは。益々、貴女を好きになったよ…)
「所で今何時だろう?」
「もう8時だよ。皆んな朝ご飯もらって家に帰ってるよ」
「え?外出禁止令は大丈夫なんですか?」
「うん何か夜間だけだったみたいで、皆んな家が心配だろうからって解散になったよ。もし、家が無事じゃなかったら会社に戻って来ても良いって。家族も一緒に避難OKみたいよ」
うちの会社、良心的だったんだなぁ。
こういう非常事にこそ良さが見えるもんだな。
「私も今から家に帰るから、ちゃんと朝ご飯食べるんだよ?バイバイ」
手を振りながら、軽くスキップをして去って行った。
(することなすこと可愛いなぁ)
わざわざ起こしに来て教えてくれるなんて、これは親切心が好意だと勘違いしちゃうよなぁ。もしかして両想いかもと期待してしまう。思わず顔が綻んでニヤけてしまう。側から見たら、さぞかしキモい光景だろう。
欠伸をしながら毛布を畳んで、トイレで顔を洗って食堂に行くと、やはり山下が例の如く待ち構えていた。食堂のおばさんからカツサンドとコーヒー牛乳を受け取ると、手招きする山下の前に座った。
「先輩!昨日はどこで寝てたんすか?話を聞いて欲しくて…」
興奮気味に昨晩の屋上での出来事を話始めた。私は話半分に聞きながらカツサンドを頬張り、コーヒー牛乳で押し流した。私は当事者だぞ。内容は全て把握してるよ、お前とは逆目線でな。
山下は、キスを受け入れてくれたんだから、友達からと言っても付き合ってるも同然だとか、自分勝手な解釈で話していた。別にキスを受け入れた訳じゃないだろアレは?無理矢理したんだろ。お前の想い人がまさか目の前にいる私だとは思わないだろう。しかし今は何ともなく普通だが、実は女性化していた時は一緒にいてドキドキしていた。バレないか心配で、一種の吊り橋効果みたいなものだったのかも知れないが、トキメキにも似た感情だった。正直キモいけど。もしかすると女性変化中は、見た目の身体だけでなく、感情とかも色々と女性寄りになるのかも知れないな。だとすると、使用は控えるべきだ。正体を隠す意味でも。使い過ぎて男に戻れなくなるのも怖い。
遅めの朝食を終わらせて帰り支度をした。と言っても出勤に大した物を持って来ている訳では無いから、すぐにまとめ終わった。山下も自宅に帰るみたいだが、山城はまだ残って仕事をするみたいだ。こんな時にも仕事なんて、さすがエリートコースだ。軽く皮肉って見せながら会社を後にした。
外は想像以上に荒れ果てていた。街路樹は軒並み物理的な力で折れ、商店街のほとんどは入口を中心に壊され、道路も所々抉られた跡が残り、一昨日まで見慣れていた景色がこうも変わるものかと目を疑いたくなる光景が広がっていた。この有り様でよく会社が無事だったな、と思わずにはいられなかった。恐らく守衛さん達が強いスキル持ちで、守ってくれたに違いない。会社の前はそこそこ交通量が多いはずだったが、今は1台も通ってはいない。そればかりか、人っ子1人見かけない。皆んな何処かに避難しているんだろう。今さらだが、とんでもない事になった。早く治安が回復して欲しいものだ。いつもは電車やバスを利用して出勤しているのだが、どちらも運休しているので、徒歩で帰るしかない。
3駅程度なので徒歩なら片道50分くらいだが、この歳になると半分も歩かないうちに息切れをする。それに加えて日が昇り始めて気温が上がり、それだけで体力を根こそぎ奪っていく。途中途中で休みたいが、どの自販機も売り切れが表示されていて空っぽだ。仕方なく、木陰で涼みながらスマホでニュースのチェックをしたが、ネットに全く繋つながらず諦あきらめた。もう少しで着く、踏ん張れ!と自らを鼓舞して歩き始めた。
ようやくアパートが遠目から確認出来る距離まで来ると、既に11時をまわっていた。
「ふー、やっと着いた」
アパートの周辺は何事もなかったらしく、近所からお昼支度の匂いが漂っていた。
部屋に入ると、どっと疲れが押し寄せる。
(このままベッドに倒れて寛ぎたいところだが、汗びっしょりだ。先にシャワーを浴びよう)
少し温度を下げたシャワーを頭から浴びた。シャワーの後は風呂桶にお湯を溜めて足をつけた。
(はぁ、癒される。湯船に浸かるのが一番だけど、足湯も悪くないな)
浴室から下着だけで出ると冷蔵庫からアイスを取り出した。幸い停電にはなっていなかった様だ。至福の1本だね。アイスキャンディーを舐めながらテレビのスイッチを入れた。どのニュースもあの声の話題と、得た能力での犯罪ニュースを流していた。
そしてどの宗教団体も、あの声こそが我らが神のお言葉と主張して対立していた。ベッドに横になると、眠くなって来て瞼がとろんとして来た。
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