144 / 196
episode 5
沈黙
しおりを挟む私は障害者である。
目も見えないし、足も悪い。
二十歳の頃だろうか。
車に轢かれ、気付かないままにあらゆるモノを失った。
あの綺麗な景色はもう、見れない。
小鳥の囀りが頬を伝ったって、本体を見ることは出来ない。
苦しみしかない。
働くことは無理だし、生きてて辛いだけ。
私は歩道を歩いていた。
以前から私は、絶望していた。
この社会に。
以前の私は、目や足があったから、この世界を見渡せた。
けれどその時は若かった。
本当の社会の闇を、垣間見たことはなかった。
失ってからだ。
耳に聞こえてくるのが罵声だって、迷惑がる声だって。
全ては私に、向けられていた。
ただ私が点字ブロックの上を杖を使って歩いているだけで、言われる。
やれ障害者だの、邪魔だの。
私はそう言う人間の声しか、最近聞いていない。
言葉はトゲなのだ。
私のような障害者は、なりたくてこうなってるわけじゃない。
君たちの様に、全てを五体満足で与えられて幸せなわけじゃない。
だが彼らは、私の様な人間の声を、聞きたいと思っていない。
聞く仕草を見せたって、本当に心に届いていない。
嫌いだ。
全ての人間が。
そう言う奴らこそ、こうなればいいのだ。
でも。
私も、彼らの気持ちを理解できない。
ただただ被害妄想を繰り広げているだけだ。
良い人はいるし、その分悪い人だっている。
一概に批判するのも、ダメなことだろう。
ラジオをつける。
すると、こんな声が流れ込んできた。
「ペンネーム、私は。さん。えー、
『障害者が嫌いです。』
うわっ酷い。
『以前はそう思っていました。けれど、ある人を見かけました』
……ん?
『どうしようもない程に、蔑まされている障害者。
侮蔑している友人を見て、私は戰慄を覚えました。
だから私は思い切って、組織を立ち上げようと思います。
非障害者による、障害者の為の非営利組織を。
それに当たる意見を聞きたいです』
と。うーん、僕が思うに──────」
私はそこでラジオを止めた。
あの局は、障害者などの弱い人に寄り添う放送をしていたらしい。
だからあんな質問が出てきたと。
事実。
質問に出てきた障害者が私でないにしろ、そういう人間もいる。
そう、悟った。知った。
そこから私は、人の目も、侮蔑も、気にせずに。
今を歩く。
例え目が目えなくとも、足が朧いでも。
確かに私達を思ってくれる人がいる。
そう思うと、少し、この世界が綺麗にも見えてきた。
侮蔑しない。異常者でない人もいる。
では。
君は、どちら側でしょうか。
0
お気に入りに追加
221
あなたにおすすめの小説

【完】あなたから、目が離せない。
ツチノカヲリ
恋愛
入社して3年目、デザイン設計会社で膨大な仕事に追われる金目杏里(かなめあんり)は今日も徹夜で図面を引いていた。共に徹夜で仕事をしていた現場監理の松山一成(まつやまひとなり)は、12歳年上の頼れる男性。直属の上司ではないが金目の入社当時からとても世話になっている。お互い「人として」の好感は持っているものの、あくまで普通の会社の仲間、という間柄だった。ところがある夏、金目の30歳の誕生日をきっかけに、だんだんと二人の距離が縮まってきて、、、。
・全18話、エピソードによってヒーローとヒロインの視点で書かれています。

じれったい夜の残像
ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、
ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。
そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。
再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。
再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、
美咲は「じれったい」感情に翻弄される。

溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
モテ男とデキ女の奥手な恋
松丹子
恋愛
来るもの拒まず去るもの追わずなモテ男、神崎政人。
学歴、仕事共に、エリート過ぎることに悩む同期、橘彩乃。
ただの同期として接していた二人は、ある日を境に接近していくが、互いに近づく勇気がないまま、関係をこじらせていく。
そんなじれじれな話です。
*学歴についての偏った見解が出てきますので、ご了承の上ご覧ください。(1/23追記)
*エセ関西弁とエセ博多弁が出てきます。
*拙著『神崎くんは残念なイケメン』の登場人物が出てきますが、単体で読めます。
ただし、こちらの方が後の話になるため、前著のネタバレを含みます。
*作品に出てくる団体は実在の団体と関係ありません。
関連作品(どれも政人が出ます。時系列順。カッコ内主役)
『期待外れな吉田さん、自由人な前田くん』(隼人友人、サリー)
『初恋旅行に出かけます』(山口ヒカル)
『物狂ほしや色と情』(名取葉子)
『さくやこの』(江原あきら)
『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい!』(阿久津)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる