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第六章
契約夫婦は円満に
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それからの時間は本当に楽しかった。
しばらくすると「おまたせ~」と遥翔の母の美穂子が料理の乗った大きなワゴンを押しながら入ってきた。
初めて目にする遥翔の母親に、依舞稀はガバっと立ち上がり「お手伝いしますっ」と駆け寄った。
「あら、あなたが依舞稀さんね?初めまして、遥翔の母の美穂子です。ずっと会いたかったわぁ」
美穂子が両手を広げたかと思うと、あっという間に依舞稀を包み込んだ。
ふんわりと柔らかく包まれると、ほのかに香るのは美味しそうな料理の匂い。
依舞稀よりも少しだけ背が高い美穂子から抱きしめられると、父親の話をしたせいか、母のことを思い出して泣きそうになった。
鼻をすすった依舞稀に慌てた美穂子は、「ごめんなさい」と依舞稀を手放した。
「急にこんなことしたら誰だって驚くわよね。ごめんなさい。私も緒方先生とは面識があって、依舞稀さんがお嫁さんになってくれたって聞いた時は本当に飛びあがって喜んだの。だからもう会いたくて会いたくて」
こうやって顔を合わせるまでは、本当に自分が受け入れてもらえるか心配で仕方がなかった。
しかしこうやって手放しで喜んでもらえるとは、なんて有難くて嬉しいことだろう。
依舞稀の目の前から突然いなくなってしまった父と母が、今また自分を包んでくれるなんて夢のようだ。
「お母様……。嬉しいです」
依舞稀が目を潤ませて言うと、美穂子は「やだやだ」と両手を振った。
「依舞稀さんさえよかったら、私のことは『ママ』って呼んでほしいの。私も依舞稀さんのこと、イブちゃんって呼びたいわ」
「もちろんです。ママ」
「やった。聞いた?パパ、遥翔。ママなんて呼ばれたの、25年ぶりくらいだわ」
「依舞稀さん、私のことも『パパ』と呼んでくれてかまわないよ」
「イブちゃん、そうしましょ!これからずーっと仲良くしましょうね!」
せっかく我慢していた嬉し涙が頬を伝い、桐ケ谷家の一員になれたことを心から喜んだ時間だった。
しばらくすると「おまたせ~」と遥翔の母の美穂子が料理の乗った大きなワゴンを押しながら入ってきた。
初めて目にする遥翔の母親に、依舞稀はガバっと立ち上がり「お手伝いしますっ」と駆け寄った。
「あら、あなたが依舞稀さんね?初めまして、遥翔の母の美穂子です。ずっと会いたかったわぁ」
美穂子が両手を広げたかと思うと、あっという間に依舞稀を包み込んだ。
ふんわりと柔らかく包まれると、ほのかに香るのは美味しそうな料理の匂い。
依舞稀よりも少しだけ背が高い美穂子から抱きしめられると、父親の話をしたせいか、母のことを思い出して泣きそうになった。
鼻をすすった依舞稀に慌てた美穂子は、「ごめんなさい」と依舞稀を手放した。
「急にこんなことしたら誰だって驚くわよね。ごめんなさい。私も緒方先生とは面識があって、依舞稀さんがお嫁さんになってくれたって聞いた時は本当に飛びあがって喜んだの。だからもう会いたくて会いたくて」
こうやって顔を合わせるまでは、本当に自分が受け入れてもらえるか心配で仕方がなかった。
しかしこうやって手放しで喜んでもらえるとは、なんて有難くて嬉しいことだろう。
依舞稀の目の前から突然いなくなってしまった父と母が、今また自分を包んでくれるなんて夢のようだ。
「お母様……。嬉しいです」
依舞稀が目を潤ませて言うと、美穂子は「やだやだ」と両手を振った。
「依舞稀さんさえよかったら、私のことは『ママ』って呼んでほしいの。私も依舞稀さんのこと、イブちゃんって呼びたいわ」
「もちろんです。ママ」
「やった。聞いた?パパ、遥翔。ママなんて呼ばれたの、25年ぶりくらいだわ」
「依舞稀さん、私のことも『パパ』と呼んでくれてかまわないよ」
「イブちゃん、そうしましょ!これからずーっと仲良くしましょうね!」
せっかく我慢していた嬉し涙が頬を伝い、桐ケ谷家の一員になれたことを心から喜んだ時間だった。
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