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第三章

手駒の足音

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遥翔の一声で風のような速さで立ち去った光星を気にも留めず、遥翔は依舞稀の腕を取って地下駐車場まで連れていき、押し込むように車に乗せた。

沈黙が続く車内で、依舞稀はこの一連の出来事を遥翔にどう説明しようか必死に考えていた。

元はと言えば彩葉が蒔いた種ではあるのだが、昨夜光星が現れたことを遥翔に隠していた手前、上手く説明する事ができない。

遥翔のことだ。

もしかしたら既に昨夜の出来事も耳に入っているのかもしれない。

そう考えると余計に口を開けずにいた。

重い沈黙に限界を感じ、とりあえず謝ろうと口を開きかけた時、車は遥翔のマンションへと到着した。

相変わらず一言も言葉は発さないが、依舞稀の手だけはしっかりと握っていて、歩調も合わせてくれている。

こういうところがまた、依舞稀の心をぐわんぐわんと揺さぶるツボなのだ。

家に帰ると遥翔は無言のままネクタイを外し、ソファーにもたれて長い足を組んだ。

この状況下に中で不謹慎だが、ありえないほどにかっこいい。

依舞稀は思わず遥翔に見惚れてしまった。

光星を一喝した時の男らしさと、自分以外の男を名前で呼ぶなと言った時の可愛さ。

そのギャップで倒れ込みそうになる。

しかし今自分が置かれている状況は、それを言葉にすることを決してゆるさないのだ。

「遥翔さん……」

小さな声で名前を呼び、依舞稀は遥翔の足元にちょこんと座った。

「自分で解決もできないのに、一人で何とかしようとしてごめんなさい……」

依舞稀は遥翔の組んだ足の膝に、自分のオデコをこつんと乗せて謝った。
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