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第三章

手駒の足音

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依舞稀は大きく息を吐くと、先ほどとは違い心を落ち着かせた。

光星相手に回りくどい言い方をしてはだめだ。

しっかりと伝えるためには、ハッキリとストレートに言葉にする必要性がある。

だからといって感情的になっても駄目なのだろう。

「何度も何度も言ってるでしょ?光星が私の気持ちを理解する必要も、光星自身の気持ちを私に理解される必要もないんだって。自分の気持ちを一方的に押し付けないで、私の話をちゃんと聞いてくれない?」

光星に対しての感情が『嫌悪感』だけになってしまった依舞稀だが、その言葉は冷静に光星へと紡がれた。

「こんなことがあってもなくても私が光星を選ぶことはない。今後も私と光星の人生が交わることなんて絶対にないの」

未来永劫変わることのない事実。

依舞稀はそれを容赦なく光星に突き付けた。

適格な拒絶の言葉は、光星の心にやっと突き刺さったようで、光星の表情がようやく崩れ始める。

「確かに僕は不誠実だったかもしれない。でも、だからこそ、僕は依舞稀の幸せを見届けなくちゃならないんだ」

自分に依舞稀の情報を教えてくれた人は、依舞稀が絶対に人に見せない弱みや苦しみを俺にだけは見せられるんだと言っていた。

依舞稀の人生のパートナーになれなくても、側で依舞稀の幸せを見守ってやることが僕の役割だ。

自分なりの正義感に侵されている光星には、黙ってこの場を離れて静かに依舞稀の元から去るという選択肢を持ち合わせてはいなかった。
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