契約結婚！一発逆転マニュアル♡

第三章

手駒の足音

従業員出入口から外に出て、ホテルの入り口付近に常駐しているタクシーに乗り込もうと思っていた。

しかし今日に限ってタクシーは全て出はらっていて一台も止まっていない。

チェックインチェックアウトの時間ともずれているし、それは仕方のないことだった。

依舞稀は従業員出入口まで戻り、タクシーを一台呼んだ。

十分ほどで到着するとのことだったので、中には入らずこのまま外で待つことにした。

見上げた夜空は満天の星で輝いている。

天気も良く、空気も澄んでいたおかげだろう。

しばらくぼんやりと眺めていると、不意に「依舞稀……」と自分を呼ぶ声で我に返った。

暗闇の中から姿を現したのは、あろうことか昨晩見た顔、光星であった。

「な……」

なぜ、どうして、なんのために。

脳内にたくさんの疑問が浮かんだが、依舞稀はそれを言葉にもできずに立ち尽くした。

「怖がらせるつもりなんてないんだ」

光星は、何もしないとばかりに両手を軽く上げて、依舞稀を刺激しないようにゆっくりと近付く。

光星とて真のバカというわけではない。

昨夜の失態を振り返り、急に相手の間合いに近づかないこと、相手にか決して触れないこと。

これだけは学んでいたのだ。

同じ迷惑行為は繰り返さない。

本当ならばそのことを学ぶべきであったというのに。

「こうやって私の前に現れること自体、怖がらせてるってどうしてわからないの？」

依舞稀の言葉は当然のことだった。