ここからは私の独壇場です

桜花シキ

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第16章 楽園で微笑う乙女

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 夢で大天使ミハエルと話した翌日。
 エインズワース侯爵家から、急遽、シエナがブラウローゼ公爵家に訪問したがっているという旨の先触れが届いた。宛先は、もちろんアヴェリアに向けて。

 すぐに了承の意を伝えると、程なくしてシエナがやってきた。
 いつもの庭園へ通され、お茶が準備されるよりも早く、彼女は口を開いた。

「アヴェリア様、私、大天使様とお話しする夢を見たのです」

 緊張した表情で、シエナはアヴェリアを見た。きっとアヴェリアが関係しているのではないかと予想して来たのだろう。勘の鋭さに、アヴェリアは口角を上げた。

「どのようなお話しだったのですか?」
「ええと……まず、私が大天使ミハエル様から、祝福を受けている人間であることを教えていただきました」

 自分が天使の祝福を受けている可能性は、以前アヴェリアから聞かされていた。それが、まさか大天使の祝福だと知って、戸惑いを隠せないようだった。

「しかも、アリア様が強力な悪魔に魅入られているともお聞きしました」
「ええ。堕天してしまった、元大天使だそうですわね」
「やはり、あれはただの夢ではなかったのですね」

 アヴェリアも夢の内容を知ってると分かり、シエナはあの夢がただの夢ではなかったことを確信した。

「では、私がこれから、その悪魔と対峙するために……聖女となるべく修行をせよというのも、現実のことなのですね」

 真剣な眼差しで、アヴェリアを見つめる。
 少し前に運ばれてきたお茶を一口ふくみ、アヴェリアはカップを戻した。

「申し訳ありません。私がお願いしたのです。シエナ様の同意も得ずに進めてしまったこと、心から謝罪いたします」
「そんな! 顔を上げてください!!」

 深々と頭を下げるアヴェリアに、慌ててシエナは首を横に振る。

「私は嬉しいのです。ようやく、アヴェリア様のお役に立てる……私にしかできないことなのですよね?」

 預言者は、未来を知ることはできても、悪魔に直接対抗できる力は持っていない。神も、人間に万能の力を与えたわけではなかったから。

「はい。これは、シエナ様にしか頼めないことです」

 顔を上げたアヴェリアは、シエナを見た。彼女の表情を見て、少しだけ目を見開く。
 そこには、恨みなど一つもないような、優しい微笑みを浮かべるシエナがいた。

「よかった。いつも助けていただいてばかりの私にも、アヴェリア様のお役に立てることがあって」
「シエナ様がしようとしていることは、世界を守ることにもつながります。お願いできますか?」
「もちろんです。必ず聖女の力を習得してみせます!!」

 力強い言葉に、アヴェリアは感謝を伝えた。
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