ここからは私の独壇場です

桜花シキ

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第16章 楽園で微笑う乙女

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 ミハエルの意見は無視して、神は勝手に話し始めた。

「ルシフェルは、ミハエルの兄弟のようなものさ。今でこそ堕落してしまったけど、元々は大天使のひとりだった」

 昔は、ミハエルと共に天使たちを束ねる大天使だった。しかし、あるきっかけで悪魔へと変化してしまったのだという。

「なぜ、堕落を?」
こいつが悪いんだ!!」

 キッ、と睨みつけられた先にいる神は、やれやれと首を振った。

「私が人間に、予言の力を与えたことが気に入らなかったみたいでさ」

 預言者に関わることとあっては、アヴェリアも無視はできなかった。どういうことか、と詳細を求める。

「天使たちは、自分たちがわたしから力を与えられた特別な存在だという意識があってね。とりわけ、ルシフェルはそれが強かったんだ」
「天使だって、人間に祝福を与えてくれるではありませんか」
「祝福は天使が与えるものであって、自発的に力を行使できる預言者とは違う」

 アヴェリアの反論に、ミハエルが食い気味に応える。

「私だって、この意識だけの空間で予知の内容を教えてもらわなくては、予言ができませんのに。敵対視されるのは納得いきませんわ」

 天使の祝福はよくて、予言の力はだめだというのは筋が通っていないのではないか。

「預言者たちは、その力を我が物のように振る舞ってきただろう。神と同等の存在であると勘違いしているのが気に入らない」

 本当の理由としては、ただ預言者の立場や振る舞いが気に入らないという、子どもじみたものなのだろう。困ったものだと、アヴェリアは心の中で独りごちる。

「あら。何だかんだ言っても、ミハエル様はこの方を特別に思われているのですね」

 そう言い返せば、むすっとした顔でミハエルはアヴェリアを睨んだ。

「ミハエル様の目から預言者がどう見えていたのかは分かりませんが、今代の預言者として言わせていただきます。望んで予言の力を授かった預言者はほとんどいないと思いますわ」

 頼んでもいないのに勝手に力を与えられ、使命を果たすために生きなければならない。
 歴代の預言者たちは、皆、自分のために生きることを許されなかった。

「ある時は国の利益のために、ある時は神の暇つぶしのために。いいように使われて、自分の人生に制約を受ける。預言者にとってはありがた迷惑な話でしかありませんもの」
「その割に、貴様はその力を楽しんで使っているように見えたが?」
 
 フン、とミハエルに鼻で笑われる。
 予言の力を使って、主にアリアの嫌がらせを阻止するために一芝居打ったことを指しているのだろう。

「私は抵抗しているのです。私の人生を、誰かのためだけに消費しないように」 

 アヴェリアは、魅惑的な笑みを浮かべた。
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