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第15章 学園に舞う乙女
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歓迎会も終わり、自室に戻る途中だったアヴェリアの元へ、アリアがずんずんと鼻息荒く突撃してきた。
本当に突撃してきそうな勢いであったが、寮の監視に阻止される。
放しなさいよ、と喚いているが、これが女性の監視でなければ、彼女の魅了の力でその手は離されていたかもしれない。
「何でいつもいつも邪魔ばっかりするのよ!?」
アヴェリアの方へ飛び出していかないよう抑えつけられた状態で、アリアは叫んだ。
「なんのことでしょう?」
「とぼけないで!! フォリオ様と私が仲良くするのが気に入らないからって、邪魔しないでよ!! あんたみたいな女、フォリオ様に相手にされるわけないんだから!!」
「あなたなら相応しいと?」
その問いに、アリアは自信たっぷりに笑った。
「私のことを好きにならない殿方なんていないわ。パトリック様も、ハルサーシャ様も、あんたが邪魔しなければ私のものになるの!!」
「まったく、おめでたいですわね」
話していると頭痛がする。これくらい自分に関心をもってくれていれば、シエナから意識も逸れるだろう。
「残念な方ですわね。せいぜい頑張るとよろしいかと」
洗練された美しい笑みを浮かべて、アヴェリアは自室へ戻った。
背後から、キーキー喚く声が聞こえてきたが、振り返ることはしなかった。
◇◇◇◇
「おめでとう! これから、君は嫌というほどあの子に付き纏われることになる」
その日、眠りについたアヴェリアの夢に現れた神は、相変わらず嫌味っぽく、面白がるような口ぶりだった。
もう慣れたアヴェリアは、気にせず続ける。
「デイモン男爵令嬢自体は、大した相手でもありません。厄介なのは、彼女に憑いている悪魔です。一部の生徒たちには被害がでておりますし」
成長するにつれて影響力も増すだろうと予想していたが、その通りになってしまった。
「質問があります。聖女の力が発現する条件は何でしょうか?」
「ほう?」
聖女ーーそれは、神聖な力をもつとされる乙女の通称。大昔には、悪魔の力を退けた存在とも言われている。
とはいえ、昔話として細々と語り継がれている程度で、現実に存在するのかどうかも不明だ。
「君は、聖女を信じているのかな?」
「預言者なんてものが存在するのなら、聖女がいてもおかしくはないかと」
「なるほど、なるほど」
少し考えてから、神は問い返した。
「聖女の力の発現方法を聞いてきたということは、候補者がいるんだろう?」
「ええ、シエナ・エインズワース侯爵令嬢です」
「そこまで分かっているなら、わざわざ聞くこともないと思うけど」
「時間がありませんので、確信が欲しいのです。悪魔の力に対抗できるのは、対となる天使の力。であれば、天使の力を強めることができれば、悪魔の力を完全に消し去ることもできるのではないかと」
そこまで言ってから、アヴェリアは返答を待った。
「そこまではいいと思うよ。でも、天使の力を強める方法は?」
「人間に憑いている悪魔と違って、天使は滅多に姿を現しません。シエナ様も、言われるまで気がつかなかったほどです」
天使が与えるのはささやかな祝福であり、悪魔のように積極的に介入してくることはない。
しかし、アリアに憑いている悪魔に対抗するためには、こちらも天使の積極的な介入を求める必要があると考えた。
「私の考えに間違いがないのなら、天使の知り合いを紹介しては頂けませんか?」
そう持ちかけてきたアヴェリアに、神は大笑いした。
本当に突撃してきそうな勢いであったが、寮の監視に阻止される。
放しなさいよ、と喚いているが、これが女性の監視でなければ、彼女の魅了の力でその手は離されていたかもしれない。
「何でいつもいつも邪魔ばっかりするのよ!?」
アヴェリアの方へ飛び出していかないよう抑えつけられた状態で、アリアは叫んだ。
「なんのことでしょう?」
「とぼけないで!! フォリオ様と私が仲良くするのが気に入らないからって、邪魔しないでよ!! あんたみたいな女、フォリオ様に相手にされるわけないんだから!!」
「あなたなら相応しいと?」
その問いに、アリアは自信たっぷりに笑った。
「私のことを好きにならない殿方なんていないわ。パトリック様も、ハルサーシャ様も、あんたが邪魔しなければ私のものになるの!!」
「まったく、おめでたいですわね」
話していると頭痛がする。これくらい自分に関心をもってくれていれば、シエナから意識も逸れるだろう。
「残念な方ですわね。せいぜい頑張るとよろしいかと」
洗練された美しい笑みを浮かべて、アヴェリアは自室へ戻った。
背後から、キーキー喚く声が聞こえてきたが、振り返ることはしなかった。
◇◇◇◇
「おめでとう! これから、君は嫌というほどあの子に付き纏われることになる」
その日、眠りについたアヴェリアの夢に現れた神は、相変わらず嫌味っぽく、面白がるような口ぶりだった。
もう慣れたアヴェリアは、気にせず続ける。
「デイモン男爵令嬢自体は、大した相手でもありません。厄介なのは、彼女に憑いている悪魔です。一部の生徒たちには被害がでておりますし」
成長するにつれて影響力も増すだろうと予想していたが、その通りになってしまった。
「質問があります。聖女の力が発現する条件は何でしょうか?」
「ほう?」
聖女ーーそれは、神聖な力をもつとされる乙女の通称。大昔には、悪魔の力を退けた存在とも言われている。
とはいえ、昔話として細々と語り継がれている程度で、現実に存在するのかどうかも不明だ。
「君は、聖女を信じているのかな?」
「預言者なんてものが存在するのなら、聖女がいてもおかしくはないかと」
「なるほど、なるほど」
少し考えてから、神は問い返した。
「聖女の力の発現方法を聞いてきたということは、候補者がいるんだろう?」
「ええ、シエナ・エインズワース侯爵令嬢です」
「そこまで分かっているなら、わざわざ聞くこともないと思うけど」
「時間がありませんので、確信が欲しいのです。悪魔の力に対抗できるのは、対となる天使の力。であれば、天使の力を強めることができれば、悪魔の力を完全に消し去ることもできるのではないかと」
そこまで言ってから、アヴェリアは返答を待った。
「そこまではいいと思うよ。でも、天使の力を強める方法は?」
「人間に憑いている悪魔と違って、天使は滅多に姿を現しません。シエナ様も、言われるまで気がつかなかったほどです」
天使が与えるのはささやかな祝福であり、悪魔のように積極的に介入してくることはない。
しかし、アリアに憑いている悪魔に対抗するためには、こちらも天使の積極的な介入を求める必要があると考えた。
「私の考えに間違いがないのなら、天使の知り合いを紹介しては頂けませんか?」
そう持ちかけてきたアヴェリアに、神は大笑いした。
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