89 / 94
第15章 学園に舞う乙女
88
しおりを挟む
意図された騒動が落ち着いたあと、いよいよダンスが始まった。
ファーストダンスのお相手は、アヴェリアとフォリオ、シエナとパトリック、ハルサーシャはなかなかパートナーが見つからない令嬢に声をかけていた。
アリアは完全にシエナのことなど忘れたようで、パトリックの相手を気にする様子もなかった。
その代わり、ずっとアヴェリアに鋭い視線を送っている。
フォリオにパートナーになってもらえなかったアリアは、取り巻きの令息と渋々踊ることになったようだ。
嫌々なのが顔に出てしまっているのが、なんとも失礼である。
「あの様子だと、ファーストダンスが終わったらこっちに突撃してきそうだね……」
フォリオがアヴェリアの手を取り、ホールの中央に進みながら呟く。
「殿下は、デイモン男爵令嬢に捕まる前に、他のご令嬢を見つけてくださいませ」
「君は、アリア嬢に絡まれないように十分気をつけてね」
シエナから意識を逸らすということには賛成だが、そのせいでアヴェリアに矛先が向くのは心配で仕方がなかった。
(でも、アヴェリアとファーストダンスを踊る権利を手に入れたのは役得かな)
心からこの状況を喜ぶわけにはいかないが、それでもアヴェリアのパートナーに選ばれたことは嬉しく思う。きっかけがなければ、この場所はハルサーシャのものだったはずだ。
演奏が始まり、ふわりとアヴェリアが優雅に舞う。美しく洗練されたステップで、周囲の人々を魅了した。
その様子が面白くないのか、ますますアリアの視線は厳しくなる。しかし、そんなことお構いなしに、アヴェリアは皆を釘付けにした。
(ますますアヴェリアは綺麗になるな)
やはり、諦められない。彼もまた、彼女から目が離せなかった。
それと同時に、アヴェリアについていくのが精一杯のフォリオは、どんどん彼女が先に行ってしまい、置いていかれる不安にも駆られていた。
あっという間に夢のような時間は過ぎ、軽く礼をして、すぐ次の相手の手を取る。
自然な動きで、かつ待ち構えていたかのように、アヴェリアの手を取ったのはハルサーシャだった。
「本当は俺が最初に踊りたかったが、今回は仕方があるまい」
近づいてきていたアリアを避けるように、フォリオが別の令嬢と踊り始めたのを確認してから、アヴェリアはハルサーシャに視線を向ける。
「練習では最初に踊ったではありませんか」
「本番でも一番に貴女と踊りたかったのだ」
ようやくアヴェリアと踊れることに、本当に嬉しそうにハルサーシャは笑った。
曲の中盤に差し掛かったところで、ふいに尋ねられる。
「俺のことは、まだ友人止まりだろうか?」
「申し訳ありませんが、今はそれ以上に考えてはおりません」
アヴェリアはきっぱりと答える。
「そうか……」
それ以上、彼が言葉を続けることはなかったが、内心ではアヴェリアの預言者としての使命によって与えられた期限を気にしていた。
彼女が歳を重ねるほど、一緒にいられる時間も限られてくる。使命を果たすまで、あとどれくらいの時間が残されているのだろう。
まだ間に合ううちに、アヴェリアと共に在りたいと、ハルサーシャは焦りを感じ始めていた。
預言者の使命は尊いもの。その代償から解放される方法を探すというのは、ハルサーシャにはない考え方だった。
ファーストダンスのお相手は、アヴェリアとフォリオ、シエナとパトリック、ハルサーシャはなかなかパートナーが見つからない令嬢に声をかけていた。
アリアは完全にシエナのことなど忘れたようで、パトリックの相手を気にする様子もなかった。
その代わり、ずっとアヴェリアに鋭い視線を送っている。
フォリオにパートナーになってもらえなかったアリアは、取り巻きの令息と渋々踊ることになったようだ。
嫌々なのが顔に出てしまっているのが、なんとも失礼である。
「あの様子だと、ファーストダンスが終わったらこっちに突撃してきそうだね……」
フォリオがアヴェリアの手を取り、ホールの中央に進みながら呟く。
「殿下は、デイモン男爵令嬢に捕まる前に、他のご令嬢を見つけてくださいませ」
「君は、アリア嬢に絡まれないように十分気をつけてね」
シエナから意識を逸らすということには賛成だが、そのせいでアヴェリアに矛先が向くのは心配で仕方がなかった。
(でも、アヴェリアとファーストダンスを踊る権利を手に入れたのは役得かな)
心からこの状況を喜ぶわけにはいかないが、それでもアヴェリアのパートナーに選ばれたことは嬉しく思う。きっかけがなければ、この場所はハルサーシャのものだったはずだ。
演奏が始まり、ふわりとアヴェリアが優雅に舞う。美しく洗練されたステップで、周囲の人々を魅了した。
その様子が面白くないのか、ますますアリアの視線は厳しくなる。しかし、そんなことお構いなしに、アヴェリアは皆を釘付けにした。
(ますますアヴェリアは綺麗になるな)
やはり、諦められない。彼もまた、彼女から目が離せなかった。
それと同時に、アヴェリアについていくのが精一杯のフォリオは、どんどん彼女が先に行ってしまい、置いていかれる不安にも駆られていた。
あっという間に夢のような時間は過ぎ、軽く礼をして、すぐ次の相手の手を取る。
自然な動きで、かつ待ち構えていたかのように、アヴェリアの手を取ったのはハルサーシャだった。
「本当は俺が最初に踊りたかったが、今回は仕方があるまい」
近づいてきていたアリアを避けるように、フォリオが別の令嬢と踊り始めたのを確認してから、アヴェリアはハルサーシャに視線を向ける。
「練習では最初に踊ったではありませんか」
「本番でも一番に貴女と踊りたかったのだ」
ようやくアヴェリアと踊れることに、本当に嬉しそうにハルサーシャは笑った。
曲の中盤に差し掛かったところで、ふいに尋ねられる。
「俺のことは、まだ友人止まりだろうか?」
「申し訳ありませんが、今はそれ以上に考えてはおりません」
アヴェリアはきっぱりと答える。
「そうか……」
それ以上、彼が言葉を続けることはなかったが、内心ではアヴェリアの預言者としての使命によって与えられた期限を気にしていた。
彼女が歳を重ねるほど、一緒にいられる時間も限られてくる。使命を果たすまで、あとどれくらいの時間が残されているのだろう。
まだ間に合ううちに、アヴェリアと共に在りたいと、ハルサーシャは焦りを感じ始めていた。
預言者の使命は尊いもの。その代償から解放される方法を探すというのは、ハルサーシャにはない考え方だった。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました
さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア
姉の婚約者は第三王子
お茶会をすると一緒に来てと言われる
アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる
ある日姉が父に言った。
アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね?
バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

もう尽くして耐えるのは辞めます!!
月居 結深
恋愛
国のために決められた婚約者。私は彼のことが好きだったけど、彼が恋したのは第二皇女殿下。振り向いて欲しくて努力したけど、無駄だったみたい。
婚約者に蔑ろにされて、それを令嬢達に蔑まれて。もう耐えられない。私は我慢してきた。国のため、身を粉にしてきた。
こんなにも報われないのなら、自由になってもいいでしょう?
小説家になろうの方でも公開しています。
2024/08/27
なろうと合わせるために、ちょこちょこいじりました。大筋は変わっていません。

父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです
珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。
その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。
そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。
そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

溺愛されている妹がお父様の子ではないと密告したら立場が逆転しました。ただお父様の溺愛なんて私には必要ありません。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるレフティアの日常は、父親の再婚によって大きく変わることになった。
妾だった継母やその娘である妹は、レフティアのことを疎んでおり、父親はそんな二人を贔屓していた。故にレフティアは、苦しい生活を送ることになったのである。
しかし彼女は、ある時とある事実を知ることになった。
父親が溺愛している妹が、彼と血が繋がっていなかったのである。
レフティアは、その事実を父親に密告した。すると調査が行われて、それが事実であることが判明したのである。
その結果、父親は継母と妹を排斥して、レフティアに愛情を注ぐようになった。
だが、レフティアにとってそんなものは必要なかった。継母や妹ともに自分を虐げていた父親も、彼女にとっては排除するべき対象だったのである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる