ここからは私の独壇場です

桜花シキ

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第15章 学園に舞う乙女

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 意図された騒動が落ち着いたあと、いよいよダンスが始まった。
 ファーストダンスのお相手は、アヴェリアとフォリオ、シエナとパトリック、ハルサーシャはなかなかパートナーが見つからない令嬢に声をかけていた。
 アリアは完全にシエナのことなど忘れたようで、パトリックの相手を気にする様子もなかった。
 その代わり、ずっとアヴェリアに鋭い視線を送っている。

 フォリオにパートナーになってもらえなかったアリアは、取り巻きの令息と渋々踊ることになったようだ。
 嫌々なのが顔に出てしまっているのが、なんとも失礼である。

「あの様子だと、ファーストダンスが終わったらこっちに突撃してきそうだね……」

 フォリオがアヴェリアの手を取り、ホールの中央に進みながら呟く。

「殿下は、デイモン男爵令嬢に捕まる前に、他のご令嬢を見つけてくださいませ」
「君は、アリア嬢に絡まれないように十分気をつけてね」

 シエナから意識を逸らすということには賛成だが、そのせいでアヴェリアに矛先が向くのは心配で仕方がなかった。

(でも、アヴェリアとファーストダンスを踊る権利を手に入れたのは役得かな)

 心からこの状況を喜ぶわけにはいかないが、それでもアヴェリアのパートナーに選ばれたことは嬉しく思う。きっかけがなければ、この場所はハルサーシャのものだったはずだ。

 演奏が始まり、ふわりとアヴェリアが優雅に舞う。美しく洗練されたステップで、周囲の人々を魅了した。
 その様子が面白くないのか、ますますアリアの視線は厳しくなる。しかし、そんなことお構いなしに、アヴェリアは皆を釘付けにした。

(ますますアヴェリアは綺麗になるな)

 やはり、諦められない。彼もまた、彼女から目が離せなかった。
 それと同時に、アヴェリアについていくのが精一杯のフォリオは、どんどん彼女が先に行ってしまい、置いていかれる不安にも駆られていた。

 あっという間に夢のような時間は過ぎ、軽く礼をして、すぐ次の相手の手を取る。
 自然な動きで、かつ待ち構えていたかのように、アヴェリアの手を取ったのはハルサーシャだった。

「本当は俺が最初に踊りたかったが、今回は仕方があるまい」

 近づいてきていたアリアを避けるように、フォリオが別の令嬢と踊り始めたのを確認してから、アヴェリアはハルサーシャに視線を向ける。

「練習では最初に踊ったではありませんか」
「本番でも一番に貴女と踊りたかったのだ」

 ようやくアヴェリアと踊れることに、本当に嬉しそうにハルサーシャは笑った。
 曲の中盤に差し掛かったところで、ふいに尋ねられる。

「俺のことは、まだ友人止まりだろうか?」
「申し訳ありませんが、今はそれ以上に考えてはおりません」

 アヴェリアはきっぱりと答える。

「そうか……」

 それ以上、彼が言葉を続けることはなかったが、内心ではアヴェリアの預言者としての使命によって与えられた期限を気にしていた。
 彼女が歳を重ねるほど、一緒にいられる時間も限られてくる。使命を果たすまで、あとどれくらいの時間が残されているのだろう。
 まだ間に合ううちに、アヴェリアと共に在りたいと、ハルサーシャは焦りを感じ始めていた。

 預言者の使命は尊いもの。その代償から解放される方法を探すというのは、ハルサーシャにはない考え方だった。
 
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