ここからは私の独壇場です

桜花シキ

文字の大きさ
上 下
87 / 94
第15章 学園に舞う乙女

86

しおりを挟む
 あのダンスレッスンから、そう日も経たずして。
 緊急の案件について対策を練るべく、アヴェリア、シエナ、パトリック、フォリオ、ハルサーシャといういつもの5人は、再び学園の中庭に集まっていた。

「大変だったね、シエナ嬢。でも、君に怪我がなくてよかった」

 俯くシエナに、パトリックは心配そうな声をかける。
 今日ここに集まったのは、あの日を境に始まった、シエナへの嫌がらせ行為について話し合うためだった。

 教科書が破かれていたり、物がなくなったり。幸いにしてシエナ本人に怪我はなかったが、このままエスカレートしていけば、シエナの身が危険に晒されるかもしれない。

(おそらく、いえ、確実にデイモン男爵令嬢の仕業ですわね)

 その場にいる誰もが、口に出さずとも同じ顔を思い浮かべていた。

「話は聞かせていただきましたわ。私に手を出すならまだしも、シエナ様に矛先が向くのは見過ごせません」

 今までは、目立って邪魔な行動ばかりしていたアヴェリアに敵対心を向けていたが、学園で過ごすうちに、これまで気にも留めていなかったシエナが目につくようになった。極め付けに、あのダンスレッスンで、パトリックがシエナを選んだことが許せなかったのだろう。
 アヴェリアのことが気に食わないのは変わらないだろうが、隙のないアヴェリアよりもシエナの方が狙いやすかったのかもしれない。

 彼女に憑いている悪魔は相当なものだろうが、彼女自身は随分と幼稚で小物だと、内心アヴェリアは呆れていた。
 尤も、そうした性質が、悪魔にとってはなのかもしれないが。

「今回の件、シエナ様本人に手を出さなかったのではなく、出せなかったのではないかと思います」
「どういうこと?」

 フォリオが身を乗り出す。

「シエナ様は、天使の祝福を受けています。シエナ様に近づけば、悪魔の魅力の力を受けた人間も正気に戻る。そうなれば、何もしていない侯爵令嬢を害そうとする者など、いるはずがありませんわ」
「だから、シエナ嬢がいない時に、その持ち物を狙ったというわけか」

 腕組みをして、ハルサーシャが唸る。

「誰かが常に、シエナ嬢の側にいるしかないか」

 パトリックが案を出すも、授業の関係で離れ離れになってしまうタイミングはどうしてもある。

「こういうのはどうでしょう?」

 パチン、と口元で扇を閉じたアヴェリアに、みんなの視線が集まる。

「シエナ様のことなど見向きもできないほど、私が悪役になればよろしいのです」

 そう告げたアヴェリアは、とても美しい笑みを浮かべていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?

宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。 そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。 婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。 彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。 婚約者を前に彼らはどうするのだろうか? 短編になる予定です。 たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます! 【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。 ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします

天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。 側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。 それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」 物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。 ★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位 2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位 2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位 2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位 2023/01/08……完結

【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜

早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。

処理中です...