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第15章 学園に舞う乙女
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あのダンスレッスンから、そう日も経たずして。
緊急の案件について対策を練るべく、アヴェリア、シエナ、パトリック、フォリオ、ハルサーシャといういつもの5人は、再び学園の中庭に集まっていた。
「大変だったね、シエナ嬢。でも、君に怪我がなくてよかった」
俯くシエナに、パトリックは心配そうな声をかける。
今日ここに集まったのは、あの日を境に始まった、シエナへの嫌がらせ行為について話し合うためだった。
教科書が破かれていたり、物がなくなったり。幸いにしてシエナ本人に怪我はなかったが、このままエスカレートしていけば、シエナの身が危険に晒されるかもしれない。
(おそらく、いえ、確実にデイモン男爵令嬢の仕業ですわね)
その場にいる誰もが、口に出さずとも同じ顔を思い浮かべていた。
「話は聞かせていただきましたわ。私に手を出すならまだしも、シエナ様に矛先が向くのは見過ごせません」
今までは、目立って邪魔な行動ばかりしていたアヴェリアに敵対心を向けていたが、学園で過ごすうちに、これまで気にも留めていなかったシエナが目につくようになった。極め付けに、あのダンスレッスンで、パトリックがシエナを選んだことが許せなかったのだろう。
アヴェリアのことが気に食わないのは変わらないだろうが、隙のないアヴェリアよりもシエナの方が狙いやすかったのかもしれない。
彼女に憑いている悪魔は相当なものだろうが、彼女自身は随分と幼稚で小物だと、内心アヴェリアは呆れていた。
尤も、そうした性質が、悪魔にとってはごちそうなのかもしれないが。
「今回の件、シエナ様本人に手を出さなかったのではなく、出せなかったのではないかと思います」
「どういうこと?」
フォリオが身を乗り出す。
「シエナ様は、天使の祝福を受けています。シエナ様に近づけば、悪魔の魅力の力を受けた人間も正気に戻る。そうなれば、何もしていない侯爵令嬢を害そうとする者など、いるはずがありませんわ」
「だから、シエナ嬢がいない時に、その持ち物を狙ったというわけか」
腕組みをして、ハルサーシャが唸る。
「誰かが常に、シエナ嬢の側にいるしかないか」
パトリックが案を出すも、授業の関係で離れ離れになってしまうタイミングはどうしてもある。
「こういうのはどうでしょう?」
パチン、と口元で扇を閉じたアヴェリアに、みんなの視線が集まる。
「シエナ様のことなど見向きもできないほど、私が悪役になればよろしいのです」
そう告げたアヴェリアは、とても美しい笑みを浮かべていた。
緊急の案件について対策を練るべく、アヴェリア、シエナ、パトリック、フォリオ、ハルサーシャといういつもの5人は、再び学園の中庭に集まっていた。
「大変だったね、シエナ嬢。でも、君に怪我がなくてよかった」
俯くシエナに、パトリックは心配そうな声をかける。
今日ここに集まったのは、あの日を境に始まった、シエナへの嫌がらせ行為について話し合うためだった。
教科書が破かれていたり、物がなくなったり。幸いにしてシエナ本人に怪我はなかったが、このままエスカレートしていけば、シエナの身が危険に晒されるかもしれない。
(おそらく、いえ、確実にデイモン男爵令嬢の仕業ですわね)
その場にいる誰もが、口に出さずとも同じ顔を思い浮かべていた。
「話は聞かせていただきましたわ。私に手を出すならまだしも、シエナ様に矛先が向くのは見過ごせません」
今までは、目立って邪魔な行動ばかりしていたアヴェリアに敵対心を向けていたが、学園で過ごすうちに、これまで気にも留めていなかったシエナが目につくようになった。極め付けに、あのダンスレッスンで、パトリックがシエナを選んだことが許せなかったのだろう。
アヴェリアのことが気に食わないのは変わらないだろうが、隙のないアヴェリアよりもシエナの方が狙いやすかったのかもしれない。
彼女に憑いている悪魔は相当なものだろうが、彼女自身は随分と幼稚で小物だと、内心アヴェリアは呆れていた。
尤も、そうした性質が、悪魔にとってはごちそうなのかもしれないが。
「今回の件、シエナ様本人に手を出さなかったのではなく、出せなかったのではないかと思います」
「どういうこと?」
フォリオが身を乗り出す。
「シエナ様は、天使の祝福を受けています。シエナ様に近づけば、悪魔の魅力の力を受けた人間も正気に戻る。そうなれば、何もしていない侯爵令嬢を害そうとする者など、いるはずがありませんわ」
「だから、シエナ嬢がいない時に、その持ち物を狙ったというわけか」
腕組みをして、ハルサーシャが唸る。
「誰かが常に、シエナ嬢の側にいるしかないか」
パトリックが案を出すも、授業の関係で離れ離れになってしまうタイミングはどうしてもある。
「こういうのはどうでしょう?」
パチン、と口元で扇を閉じたアヴェリアに、みんなの視線が集まる。
「シエナ様のことなど見向きもできないほど、私が悪役になればよろしいのです」
そう告げたアヴェリアは、とても美しい笑みを浮かべていた。
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