ここからは私の独壇場です

桜花シキ

文字の大きさ
上 下
86 / 94
第15章 学園に舞う乙女

85

しおりを挟む
 ファシアス王立学園では、社交界で必要なスキルを身につけるための授業がある。
 数ある授業の中でも、今日はダンスの授業がある日だった。

「基本的なステップは、先日確認しましたね。今日は、実践編です」

 多くの生徒たちが、まだステップに不安が残るのか、ざわつき始める。

「とはいえ、相手がいなくては始まりません。どうぞ、お入りください」

 先生が扉を開けると、ダンスホールに上級生たちが入ってきた。その顔ぶれを見て、女子生徒たちのざわつきが大きくなる。
 それもそのはず。ダンスの相手役として呼ばれたのは、パトリックやハルサーシャといった王族をはじめ、名だたる貴族の令息ばかりだった。

「パトリック殿下、お美しいわ……」
「ハルサーシャ殿下の鍛えられたお姿……素敵だわ」

 ダンスよりも殿方のことが気になる令嬢たちに、先生が咳払いを一つする。

「コホン。彼らは、高いダンスの技術を身につけた先輩方です。貴重な時間を貴女方のために割いてくださっているのですから、失礼のないように」

 すると、恥ずかしそうに顔を赤らめながら、令嬢たちは静かになった。
 そんな中、アリア・デイモン男爵令嬢の瞳は、獲物を狩るかのようにギラギラと輝いていたが。

 ダンスの相手を選ぶ時は、基本的には男性側から声をかけるのが、この国のマナーだ。

「一緒に踊っていただけますか?」

 アヴェリアに流れるような美しい所作で手を差し出してきたのは、やはりハルサーシャだった。

「喜んで」

 すぐに了承の意を示し、ホールの中央へ向かう。
 相手が見つかった令嬢たちは、次々とアヴェリアたちに続いた。

「パトリック様! 私と踊っていただけませんか?」

 声をかけてくれた令息が他にいたものの、彼女のお眼鏡に敵わなかったのか断られていた。これは練習の場なので、それだけでも失礼なのだが、自ら王太子候補に声をかけるとは。

「もう私のパートナーは決まっている。他を当たってくれ」

 不愉快そうな顔をして、パトリックはアリアを軽くあしらう。
 そして、傍にいたシエナの手をとった。

「シエナ嬢、行きましょう」
「はい」

 その様子を視界の端に捉えていたアヴェリアは、胸を撫で下ろした。

(やはり、シエナ様が一緒なら問題ないようですわね)

 初対面の時の印象がよくないハルサーシャではなく、パトリックに狙いをつけると踏んでいたが、その通りだったようだ。
 自分が振られたことが信じられず、なんであんたが! などと、貴族令嬢らしからぬ暴言を吐いている。
 周りが呆れて見ているのも知らず、彼女は見かねた先生に外に連れ出されてしまった。

(この調子であれば、私がわざわざ手を出さずとも自滅してくれるでしょうか)

 考えに耽っていると、ぐいと身体を抱き寄せられる。

「今は俺に集中してくれないか?」

 甘い声で、ハルサーシャが囁く。

「失礼いたしました。今はハル様とのダンスに集中すべきでしたわね」

 すぐに滑らかにステップを踏む。
 二人のダンスに、周りにいた生徒たちが、ほぅとため息を漏らす。

「流石はアヴェリア様……ダンスも美しいですね」

 パトリックのパートナーを務めているシエナも、思わず見惚れてしまう。

「シエナ嬢もお上手ですよ」
「ふふ、ありがとうございます。パトリック様のリードのおかげで、とても踊りやすいです」

 和やかな雰囲気で、シエナとパトリックも無事にダンスを終えることができた。

 特に大きな問題も起きずに授業は終わったものの、アヴェリアは胸騒ぎを覚えていた。


「何なのよ! あの女アヴェリアだけじゃなく、目障りな女シエナって!!」

 自室に戻ったアリアは荒れていた。
 物に八つ当たりしながら、鼻息荒く叫ぶ。

(可愛いアリア。心配するな、オレが力を貸してやるから)

 そう囁くのは、彼女に憑いている悪魔。

(お前はもっと我儘になっていいんだ。こんなに可愛いお前を悲しませるやつらを見返してやろう)

 それを聞いたアリアが、にたりと笑う。
 アリアの嫉妬、憤怒、傲慢さーー止まることを知らない彼女の黒い感情は、悪魔にとって最上のご馳走だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜

真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。 しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。 これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。 数年後に彼女が語る真実とは……? 前中後編の三部構成です。 ❇︎ざまぁはありません。 ❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?

宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。 そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。 婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。 彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。 婚約者を前に彼らはどうするのだろうか? 短編になる予定です。 たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます! 【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。 ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

皇太女の暇つぶし

Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。 「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」 *よくある婚約破棄ものです *初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

皆様ごきげんよう。悪役令嬢はこれにて退場させていただきます。

しあ
恋愛
「クラリス=ミクランジェ、君を国宝窃盗容疑でこの国から追放する」 卒業パーティで、私の婚約者のヒルデガルト=クライス、この国の皇太子殿下に追放を言い渡される。 その婚約者の隣には可愛い女の子がーー。 損得重視の両親は私を庇う様子はないーーー。 オマケに私専属の執事まで私と一緒に国外追放に。 どうしてこんなことに……。 なんて言うつもりはなくて、国外追放? 計画通りです!国外で楽しく暮らしちゃいますね! では、皆様ごきげんよう!

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

処理中です...