85 / 94
第14章 学園に咲く乙女
84
しおりを挟む
アリアがいなくなった後、アヴェリアは改めて彼女の危険性について忠告した。
「先ほどの様子を見れば、アヴェリア嬢が忠告する理由も分かる。気を許すつもりはないが、悪魔の力をもっているとなれば安心はできないな」
初めてアリアと顔を合わせたハルサーシャは、腕組みをして神妙な面持ちで頷いた。
「あの様子だと、王族であれば誰彼かわまず付き纏うつもりなのかもしれないな」
パトリックは、頭を抑えながら深いため息をつく。
「昔からアヴェリア様に失礼な態度ばかりとって、本当に信じられません!!」
アヴェリアのことを慕っているシエナは、声を荒げない彼女に代わって怒りを露わにしていた。
「シエナ様が怒る必要はありませんよ。でも、私のためにありがとうございます」
「アヴェリア様……本当に、聖女のような御心の持ち主ですのに」
聖女ではないが、預言者ではある。時に王族よりも力を持ち、国の頂点ともいえる立場にある彼女は、私情に流されることは許されなかった。
感情をあまり表に出さない姿が、心が広いように映ったのだろう。
「フォリオ殿下は、できるだけシエナ様と一緒に行動してください。同学年である分、一番狙われやすいはずですわ」
「うん、分かったよ。彼女のことは苦手だから、あんまり関わりたくないし……」
「今のところ、魅了の影響は受けていないようで安心いたしました」
魅了の力をもつ彼女に対して、好感を抱かないどころか、苦手と評していることに安堵する。
(この中で、一番心配なのはフォリオ殿下ですからね)
純粋すぎて、少しでも隙を与えればつけ込まれてしまいそうだ。
それが彼の良さでもあるのだが、危うさと隣り合わせだった。
解散後、立ち去るように言われてからも、近くに隠れていたのだろう。アヴェリアがいなくなったタイミングを見計らって、アリアがフォリオに近づいた。
「あっ、フォリオ様! 今からお帰りですか? 偶然ですねぇ、私も今から帰るところなんですぅ」
さっきの今で、よくめげないものだ。
アリアと関わらないように忠告されたばかりなので、余計な会話はせずに立ち去ろうとする。
しかし、行手を阻むようにアリアが立ち塞がった。
「アリア様、フォリオ様は私を送ってくださることになっているのです。ね?」
「ああ、その通りだよ。だから、申し訳ないけど君を送っていくことはできない」
「えぇ~、行き先は同じじゃないですかぁ。私も一緒でいいでしょ?」
「僕はシエナ嬢を送っていくと約束したからね。他のご令嬢も一緒にというわけにはいかないよ」
シエナの機転で、まるで恋人同士に見えなくもない雰囲気を醸し出す。
その様子に、わなわなと身体を震わせながら、アリアはシエナを睨みつけた。
「僕の大事な(友)人に、そういう顔をしないでくれるかな」
無意識に出た言葉に、今度こそ嫉妬で顔を真っ赤にして、アリアはその場から逃げ出した。
「何とかなりましたね……本当に、油断も隙もない」
「ありがとう、助かったよシエナ嬢」
「いえ、アヴェリア様とのお約束ですから」
のちに、フォリオとシエナの仲睦まじい様子を見た生徒たちが、二人は恋仲なのではないかと噂するようになる。
しかし、現実にはお互いアヴェリアのために動いているのであって、友人以上の何者でもない。
二人一緒に帰したのは、二人きりにすることで仲が進展すればというアヴェリアの気遣いだったのだが、まだまだ先は長そうだ。
「先ほどの様子を見れば、アヴェリア嬢が忠告する理由も分かる。気を許すつもりはないが、悪魔の力をもっているとなれば安心はできないな」
初めてアリアと顔を合わせたハルサーシャは、腕組みをして神妙な面持ちで頷いた。
「あの様子だと、王族であれば誰彼かわまず付き纏うつもりなのかもしれないな」
パトリックは、頭を抑えながら深いため息をつく。
「昔からアヴェリア様に失礼な態度ばかりとって、本当に信じられません!!」
アヴェリアのことを慕っているシエナは、声を荒げない彼女に代わって怒りを露わにしていた。
「シエナ様が怒る必要はありませんよ。でも、私のためにありがとうございます」
「アヴェリア様……本当に、聖女のような御心の持ち主ですのに」
聖女ではないが、預言者ではある。時に王族よりも力を持ち、国の頂点ともいえる立場にある彼女は、私情に流されることは許されなかった。
感情をあまり表に出さない姿が、心が広いように映ったのだろう。
「フォリオ殿下は、できるだけシエナ様と一緒に行動してください。同学年である分、一番狙われやすいはずですわ」
「うん、分かったよ。彼女のことは苦手だから、あんまり関わりたくないし……」
「今のところ、魅了の影響は受けていないようで安心いたしました」
魅了の力をもつ彼女に対して、好感を抱かないどころか、苦手と評していることに安堵する。
(この中で、一番心配なのはフォリオ殿下ですからね)
純粋すぎて、少しでも隙を与えればつけ込まれてしまいそうだ。
それが彼の良さでもあるのだが、危うさと隣り合わせだった。
解散後、立ち去るように言われてからも、近くに隠れていたのだろう。アヴェリアがいなくなったタイミングを見計らって、アリアがフォリオに近づいた。
「あっ、フォリオ様! 今からお帰りですか? 偶然ですねぇ、私も今から帰るところなんですぅ」
さっきの今で、よくめげないものだ。
アリアと関わらないように忠告されたばかりなので、余計な会話はせずに立ち去ろうとする。
しかし、行手を阻むようにアリアが立ち塞がった。
「アリア様、フォリオ様は私を送ってくださることになっているのです。ね?」
「ああ、その通りだよ。だから、申し訳ないけど君を送っていくことはできない」
「えぇ~、行き先は同じじゃないですかぁ。私も一緒でいいでしょ?」
「僕はシエナ嬢を送っていくと約束したからね。他のご令嬢も一緒にというわけにはいかないよ」
シエナの機転で、まるで恋人同士に見えなくもない雰囲気を醸し出す。
その様子に、わなわなと身体を震わせながら、アリアはシエナを睨みつけた。
「僕の大事な(友)人に、そういう顔をしないでくれるかな」
無意識に出た言葉に、今度こそ嫉妬で顔を真っ赤にして、アリアはその場から逃げ出した。
「何とかなりましたね……本当に、油断も隙もない」
「ありがとう、助かったよシエナ嬢」
「いえ、アヴェリア様とのお約束ですから」
のちに、フォリオとシエナの仲睦まじい様子を見た生徒たちが、二人は恋仲なのではないかと噂するようになる。
しかし、現実にはお互いアヴェリアのために動いているのであって、友人以上の何者でもない。
二人一緒に帰したのは、二人きりにすることで仲が進展すればというアヴェリアの気遣いだったのだが、まだまだ先は長そうだ。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。


お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました
さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア
姉の婚約者は第三王子
お茶会をすると一緒に来てと言われる
アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる
ある日姉が父に言った。
アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね?
バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

【完結】悪役令嬢の反撃の日々
くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
21時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?
宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。
そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。
婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。
彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。
婚約者を前に彼らはどうするのだろうか?
短編になる予定です。
たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます!
【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。
ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる