ここからは私の独壇場です

桜花シキ

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第14章 学園に咲く乙女

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 アリアがいなくなった後、アヴェリアは改めて彼女の危険性について忠告した。

「先ほどの様子を見れば、アヴェリア嬢が忠告する理由も分かる。気を許すつもりはないが、悪魔の力をもっているとなれば安心はできないな」

 初めてアリアと顔を合わせたハルサーシャは、腕組みをして神妙な面持ちで頷いた。

「あの様子だと、王族であれば誰彼かわまず付き纏うつもりなのかもしれないな」

 パトリックは、頭を抑えながら深いため息をつく。

「昔からアヴェリア様に失礼な態度ばかりとって、本当に信じられません!!」

 アヴェリアのことを慕っているシエナは、声を荒げない彼女に代わって怒りを露わにしていた。

「シエナ様が怒る必要はありませんよ。でも、私のためにありがとうございます」
「アヴェリア様……本当に、聖女のような御心の持ち主ですのに」

 聖女ではないが、預言者ではある。時に王族よりも力を持ち、国の頂点ともいえる立場にある彼女は、私情に流されることは許されなかった。
 感情をあまり表に出さない姿が、心が広いように映ったのだろう。

「フォリオ殿下は、できるだけシエナ様と一緒に行動してください。同学年である分、一番狙われやすいはずですわ」
「うん、分かったよ。彼女のことは苦手だから、あんまり関わりたくないし……」
「今のところ、魅了の影響は受けていないようで安心いたしました」

 魅了の力をもつ彼女に対して、好感を抱かないどころか、苦手と評していることに安堵する。

(この中で、一番心配なのはフォリオ殿下ですからね)

 純粋すぎて、少しでも隙を与えればつけ込まれてしまいそうだ。
 それが彼の良さでもあるのだが、危うさと隣り合わせだった。


 解散後、立ち去るように言われてからも、近くに隠れていたのだろう。アヴェリアがいなくなったタイミングを見計らって、アリアがフォリオに近づいた。

「あっ、フォリオ様! 今からお帰りですか? 偶然ですねぇ、私も今から帰るところなんですぅ」

 さっきの今で、よくめげないものだ。
 アリアと関わらないように忠告されたばかりなので、余計な会話はせずに立ち去ろうとする。
 しかし、行手を阻むようにアリアが立ち塞がった。

「アリア様、フォリオ様は私を送ってくださることになっているのです。ね?」
「ああ、その通りだよ。だから、申し訳ないけど君を送っていくことはできない」
「えぇ~、行き先は同じじゃないですかぁ。私も一緒でいいでしょ?」
「僕はシエナ嬢を送っていくと約束したからね。他のご令嬢も一緒にというわけにはいかないよ」

 シエナの機転で、まるでに見えなくもない雰囲気を醸し出す。
 その様子に、わなわなと身体を震わせながら、アリアはシエナを睨みつけた。

「僕の大事な(友)人に、そういう顔をしないでくれるかな」

 無意識に出た言葉に、今度こそ嫉妬で顔を真っ赤にして、アリアはその場から逃げ出した。

「何とかなりましたね……本当に、油断も隙もない」
「ありがとう、助かったよシエナ嬢」
「いえ、アヴェリア様とのお約束ですから」

 のちに、フォリオとシエナの仲睦まじい様子を見た生徒たちが、二人は恋仲なのではないかと噂するようになる。
 しかし、現実にはお互いアヴェリアのために動いているのであって、友人以上の何者でもない。
 二人一緒に帰したのは、二人きりにすることで仲が進展すればというアヴェリアの気遣いだったのだが、まだまだ先は長そうだ。
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