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第14章 学園に咲く乙女
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入学式初日は、午前中の式が終わった後は自由時間となる。
明日から始まる授業に備えて、寮の自室で休むもよし。学園とはいえ、小さな社交界の場で早速交友関係を広げておくのもよし。
式が終わってからは、皆思い思いに過ごしていた。
アヴェリアは、フォリオやパトリック、ハルサーシャといった王族の面々が魔の手にかからぬように、再度忠告せねばと考えていた。
だが、探しに行く手間がかかることはなかった。
「アヴェリア嬢! 久しぶりに会えて嬉しい。素晴らしい代表挨拶だったな」
会場から出てすぐ駆けつけたのは、隣国ルーデアス王国の第三王子、ハルサーシャだった。
留学生である彼は、宣言通り度々アヴェリアに会いにきていたため、それほど久しぶりの再会ではない。
しかし、制服姿のハルサーシャを見るのは、なんとも新鮮な気持ちになる。
「ありがとうございます。変わらず、お元気そうですね」
「貴女と共に学園で学べることを楽しみにしていた。首席で合格するとは、どこまでも期待を裏切らないな」
満面の笑みで、ハルサーシャはうんうんと頷く。
「入学おめでとう、アヴェリア嬢。君がこの場に立っていることが、心から嬉しいよ」
ハルサーシャに続くように現れたのは、ファシアス王国のもう一人の王太子候補。
「お久しぶりです、パトリック殿下」
よく顔を見せていたハルサーシャとは異なり、ほとんど学園から出ることのなかったパトリックと顔を合わせるのは、数ヶ月ぶりだ。
預言者に拘るあまり体調を崩してからは、国王の言い付けもあって、それ以前よりは城へ帰るようになった。
それでも、生徒会に入って忙しくなったことなどが重なり、あまり頻繁に会えるわけではなかった。
「生徒会に入会されたとお聞きしました。おめでとうございます」
「まだ大した仕事はしていないけれどね。これから頑張っていくつもりだよ」
ファシアス王立学園の生徒会に入っていた生徒は、ほとんどが卒業後に名を馳せている。王太子候補として、今の立場は強いものがあった。
「アヴェリア嬢であれば、生徒会から声がかかるのも時間の問題ではないか?」
「そう簡単なものではありませんよ、ハル様」
「あながち、ハルの言うことも間違ってはいないと思うけどね」
昔から、アヴェリアに対して高い理想の姿を想像しているハルサーシャに苦笑する。しかし、パトリックは彼女の能力の高さを考慮すれば、決して非現実的なことではないと、冷静に考えていた。
「アヴェリア~!! っと、パトリック兄上に、ハルサーシャ王子まで」
アヴェリアを追って会場から出てきたフォリオは、一緒にいる人たちを見て背筋を伸ばす。
「フォリオ、入学おめでとう。試験の結果を聞いたが、頑張ったじゃないか」
「フォリオ王子、これから共に学ぶ者として、よろしく頼む」
パトリックとハルサーシャから激励の言葉をかけられ、照れたように笑う。
「アヴェリアと比べればまだまだですが……負けないように頑張ります」
昔のフォリオの姿を知っているアヴェリアは、表情が随分と大人びたなと感じていた。もちろん子どもらしさは残っているが、ぐんぐんと成長しているようだ。体だけでなく、中身の方も。
多くの人がアヴェリアのことを讃えるが、彼女自身はここからが頑張りどころだと意気込んでいる。
預言者として、使命を果たすために。
「役者は揃ったようですので、少しお話しいたしませんか? シエナ様もお呼びして」
明日から始まる授業に備えて、寮の自室で休むもよし。学園とはいえ、小さな社交界の場で早速交友関係を広げておくのもよし。
式が終わってからは、皆思い思いに過ごしていた。
アヴェリアは、フォリオやパトリック、ハルサーシャといった王族の面々が魔の手にかからぬように、再度忠告せねばと考えていた。
だが、探しに行く手間がかかることはなかった。
「アヴェリア嬢! 久しぶりに会えて嬉しい。素晴らしい代表挨拶だったな」
会場から出てすぐ駆けつけたのは、隣国ルーデアス王国の第三王子、ハルサーシャだった。
留学生である彼は、宣言通り度々アヴェリアに会いにきていたため、それほど久しぶりの再会ではない。
しかし、制服姿のハルサーシャを見るのは、なんとも新鮮な気持ちになる。
「ありがとうございます。変わらず、お元気そうですね」
「貴女と共に学園で学べることを楽しみにしていた。首席で合格するとは、どこまでも期待を裏切らないな」
満面の笑みで、ハルサーシャはうんうんと頷く。
「入学おめでとう、アヴェリア嬢。君がこの場に立っていることが、心から嬉しいよ」
ハルサーシャに続くように現れたのは、ファシアス王国のもう一人の王太子候補。
「お久しぶりです、パトリック殿下」
よく顔を見せていたハルサーシャとは異なり、ほとんど学園から出ることのなかったパトリックと顔を合わせるのは、数ヶ月ぶりだ。
預言者に拘るあまり体調を崩してからは、国王の言い付けもあって、それ以前よりは城へ帰るようになった。
それでも、生徒会に入って忙しくなったことなどが重なり、あまり頻繁に会えるわけではなかった。
「生徒会に入会されたとお聞きしました。おめでとうございます」
「まだ大した仕事はしていないけれどね。これから頑張っていくつもりだよ」
ファシアス王立学園の生徒会に入っていた生徒は、ほとんどが卒業後に名を馳せている。王太子候補として、今の立場は強いものがあった。
「アヴェリア嬢であれば、生徒会から声がかかるのも時間の問題ではないか?」
「そう簡単なものではありませんよ、ハル様」
「あながち、ハルの言うことも間違ってはいないと思うけどね」
昔から、アヴェリアに対して高い理想の姿を想像しているハルサーシャに苦笑する。しかし、パトリックは彼女の能力の高さを考慮すれば、決して非現実的なことではないと、冷静に考えていた。
「アヴェリア~!! っと、パトリック兄上に、ハルサーシャ王子まで」
アヴェリアを追って会場から出てきたフォリオは、一緒にいる人たちを見て背筋を伸ばす。
「フォリオ、入学おめでとう。試験の結果を聞いたが、頑張ったじゃないか」
「フォリオ王子、これから共に学ぶ者として、よろしく頼む」
パトリックとハルサーシャから激励の言葉をかけられ、照れたように笑う。
「アヴェリアと比べればまだまだですが……負けないように頑張ります」
昔のフォリオの姿を知っているアヴェリアは、表情が随分と大人びたなと感じていた。もちろん子どもらしさは残っているが、ぐんぐんと成長しているようだ。体だけでなく、中身の方も。
多くの人がアヴェリアのことを讃えるが、彼女自身はここからが頑張りどころだと意気込んでいる。
預言者として、使命を果たすために。
「役者は揃ったようですので、少しお話しいたしませんか? シエナ様もお呼びして」
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