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第14章 学園に咲く乙女
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この日を迎えられるとは、預言者であるアヴェリアも少しばかり予想外だった。
(本来ならば、もう少し早く退場するはずでしたのに)
今日は、アヴェリアの入学式。
二年前に入学したパトリックやハルサーシャと同じく、厳しい試験を乗り越え、ファシアス王立学園へと入学を果たした。
ファシアス王立学園は、十五歳までの子どもが通う前期課程と、それ以降の十八歳までが所属する後期課程に分かれている。後期課程へ進むかどうかは本人の意思と、試験の結果次第だが、歴代の王族はほぼ全員後期課程まで修めている。
この国の王太子の運命の相手を見つけること。
その使命を初めて知った時は、すぐに終わるものだと思っていた。しかし、今となっては最長でフォリオが後期課程を修了するまでかかるだろう。
婚約者を正式に定めるのは学園を卒業するまで猶予する、と国王が下したのは苦渋の決断だった。
アヴェリアはその決断に賛同はできないものの、パトリックの現状を考えれば仕方なかったかと、思い返す度にため息が出る。
あの日から、フォリオもパトリックも、以前にも増して王太子になるべく努力してきた。
学園で再会するパトリックは、どのように成長しているだろう。優秀な生徒として有名になっており、生徒会にも所属しているらしい。
そして、今年からアヴェリアと共に学園に入学するフォリオ。入学試験での成績は、一位と僅差での二位だった。
「お嬢、そろそろ出発だとよ」
屋敷の出発時刻を伝えに来たのは、すっかり大人びたキリーだ。ブラウローゼ公爵家に来てから数々の功績を残してきた彼は、今では屋敷の人間のみならず、国民からも信頼を得ていた。
「代表挨拶の準備はできてるのか?」
「抜かりありませんわ。参りましょう」
入学試験で一位だった新入生ーーそれは、アヴェリアだった。
予言の力でずるなどしていない。紛れもなく、彼女自身の力である。フォリオは彼女に勝てなかったことを少し悔しそうにしながらも、心から称賛してくれた。
(少し前までの殿下でしたら、悔しがる素振りなんて見せなかったでしょうに。喜ばしいことです)
自分のことは、早々に抜いていってもらわねば。アヴェリアは口角を上げる。
しかし、アヴェリアという壁はそう容易く乗り越えることはできないのだと、アヴェリア本人は気づいていないようだった。
「キリー、忙しくなりますわよ。しっかり働いてくださいませ」
「言われずとも。仰せのままに」
今回、学園にも話を通して、特別に従者としてついてくることになったキリー。
彼には、とある生徒を影から監視してもらう役割をお願いしていた。
アリア・デイモン男爵令嬢。
彼女自身の実力なのか、はたまた何かしらの力が働いているのか。
彼女もまた、同級生となるのだった。
(本来ならば、もう少し早く退場するはずでしたのに)
今日は、アヴェリアの入学式。
二年前に入学したパトリックやハルサーシャと同じく、厳しい試験を乗り越え、ファシアス王立学園へと入学を果たした。
ファシアス王立学園は、十五歳までの子どもが通う前期課程と、それ以降の十八歳までが所属する後期課程に分かれている。後期課程へ進むかどうかは本人の意思と、試験の結果次第だが、歴代の王族はほぼ全員後期課程まで修めている。
この国の王太子の運命の相手を見つけること。
その使命を初めて知った時は、すぐに終わるものだと思っていた。しかし、今となっては最長でフォリオが後期課程を修了するまでかかるだろう。
婚約者を正式に定めるのは学園を卒業するまで猶予する、と国王が下したのは苦渋の決断だった。
アヴェリアはその決断に賛同はできないものの、パトリックの現状を考えれば仕方なかったかと、思い返す度にため息が出る。
あの日から、フォリオもパトリックも、以前にも増して王太子になるべく努力してきた。
学園で再会するパトリックは、どのように成長しているだろう。優秀な生徒として有名になっており、生徒会にも所属しているらしい。
そして、今年からアヴェリアと共に学園に入学するフォリオ。入学試験での成績は、一位と僅差での二位だった。
「お嬢、そろそろ出発だとよ」
屋敷の出発時刻を伝えに来たのは、すっかり大人びたキリーだ。ブラウローゼ公爵家に来てから数々の功績を残してきた彼は、今では屋敷の人間のみならず、国民からも信頼を得ていた。
「代表挨拶の準備はできてるのか?」
「抜かりありませんわ。参りましょう」
入学試験で一位だった新入生ーーそれは、アヴェリアだった。
予言の力でずるなどしていない。紛れもなく、彼女自身の力である。フォリオは彼女に勝てなかったことを少し悔しそうにしながらも、心から称賛してくれた。
(少し前までの殿下でしたら、悔しがる素振りなんて見せなかったでしょうに。喜ばしいことです)
自分のことは、早々に抜いていってもらわねば。アヴェリアは口角を上げる。
しかし、アヴェリアという壁はそう容易く乗り越えることはできないのだと、アヴェリア本人は気づいていないようだった。
「キリー、忙しくなりますわよ。しっかり働いてくださいませ」
「言われずとも。仰せのままに」
今回、学園にも話を通して、特別に従者としてついてくることになったキリー。
彼には、とある生徒を影から監視してもらう役割をお願いしていた。
アリア・デイモン男爵令嬢。
彼女自身の実力なのか、はたまた何かしらの力が働いているのか。
彼女もまた、同級生となるのだった。
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