ここからは私の独壇場です

桜花シキ

文字の大きさ
上 下
79 / 94
第13章 水面に映る乙女

78

しおりを挟む
 王の間から退室したフォリオとパトリックは、久しぶりに言葉を交わす。

「アヴェリアから予言を聞いて、本当に心配しました」
「心配をかけて、すまなかった」

 不安そうに顔を歪めるフォリオに、パトリックは謝罪する。
 弟同然に可愛がってきたフォリオ。しかし、ここで一線を引かねばならないとパトリックは覚悟した。

「フォリオ、私は正式に王太子になろうと思う」

 その言葉が予想できていたのか、フォリオが驚くことはなかった。

「僕も、パトリック兄上に譲る気はありません。今日の話が出る前から、僕は王太子になるために努力してきましたから」

 パトリックも、自分が預言者のことに躍起になっている間、フォリオが王太子教育に力を入れていることを知っていた。

「正式な王太子になった時、父上から与えられる特権のこともあれば尚更。僕は、王太子になることも、アヴェリアのことも諦めません」
「ならば、今日から私たちは競い合う間柄として、距離を置かねばならないな」

 今までは、預言者について調べるという目的のもと、協力関係にあった。
 しかし、それぞれが王太子になった場合に与えられる特権が異なる以上、仲良しこよしではいられない。
 アヴェリアを代償から救うべく、禁じられた書庫への立ち入りを何としてでも許可して欲しいパトリック。
 先代の預言者である父、リヒターの死の真相を知り、その手にかけた犯人と会うことを望むパトリック。
 お互いに譲れない勝負が始まろうとしていた。

「お前が相手でも、私は本気でやる」
「兄上が優秀なのは分かっています。しかし、王太子になってこの国を守りたいという気持ちは、負けないと思っています」

 実力では、まだフォリオはパトリックには追いつけない。
 しかし、預言者のことを抜きにして、国のために王太子になりたいという気持ちが強いのはフォリオの方だ。

「王太子になりたいという気持ちが報酬のためだけであるならば、僕は兄上を王太子にするわけにはいきません」
「言うようになったな」

 痛いところを突いてくるな、とパトリックは苦笑する。

「では、私たちは正式にライバルだ。お互い手は抜かずにいこう」

 これまでは継承権争いに興味のなかった二人だが、今日この時をもってそれは終わりを告げた。

 それからパトリックは以前のように無理をすることはなくなり、王太子となるべく学園で勉学に励んでいるらしい。
 あと二年もすれば同じく学園に入学するフォリオも、気合を入れて王太子教育に励んでいる。

 そして、国王が婚約者を正式に定めるのを学園卒業後までと延長したことで、アヴェリアも学園に入学することが濃厚になってきたのだった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路

八代奏多
恋愛
 公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。  王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……  ……そんなこと、絶対にさせませんわよ?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

皇太女の暇つぶし

Ruhuna
恋愛
ウスタリ王国の学園に留学しているルミリア・ターセンは1年間の留学が終わる卒園パーティーの場で見に覚えのない罪でウスタリ王国第2王子のマルク・ウスタリに婚約破棄を言いつけられた。 「貴方とは婚約した覚えはありませんが?」 *よくある婚約破棄ものです *初投稿なので寛容な気持ちで見ていただけると嬉しいです

【完結80万pt感謝】不貞をしても婚約破棄されたくない美男子たちはどうするべきなのか?

宇水涼麻
恋愛
高位貴族令息である三人の美男子たちは学園内で一人の男爵令嬢に侍っている。 そんな彼らが卒業式の前日に家に戻ると父親から衝撃的な話をされた。 婚約者から婚約を破棄され、第一後継者から降ろされるというのだ。 彼らは慌てて学園へ戻り、学生寮の食堂内で各々の婚約者を探す。 婚約者を前に彼らはどうするのだろうか? 短編になる予定です。 たくさんのご感想をいただきましてありがとうございます! 【ネタバレ】マークをつけ忘れているものがあります。 ご感想をお読みになる時にはお気をつけください。すみません。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

処理中です...