ここからは私の独壇場です

桜花シキ

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第13章 水面に映る乙女

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 王の間から退室したフォリオとパトリックは、久しぶりに言葉を交わす。

「アヴェリアから予言を聞いて、本当に心配しました」
「心配をかけて、すまなかった」

 不安そうに顔を歪めるフォリオに、パトリックは謝罪する。
 弟同然に可愛がってきたフォリオ。しかし、ここで一線を引かねばならないとパトリックは覚悟した。

「フォリオ、私は正式に王太子になろうと思う」

 その言葉が予想できていたのか、フォリオが驚くことはなかった。

「僕も、パトリック兄上に譲る気はありません。今日の話が出る前から、僕は王太子になるために努力してきましたから」

 パトリックも、自分が預言者のことに躍起になっている間、フォリオが王太子教育に力を入れていることを知っていた。

「正式な王太子になった時、父上から与えられる特権のこともあれば尚更。僕は、王太子になることも、アヴェリアのことも諦めません」
「ならば、今日から私たちは競い合う間柄として、距離を置かねばならないな」

 今までは、預言者について調べるという目的のもと、協力関係にあった。
 しかし、それぞれが王太子になった場合に与えられる特権が異なる以上、仲良しこよしではいられない。
 アヴェリアを代償から救うべく、禁じられた書庫への立ち入りを何としてでも許可して欲しいパトリック。
 先代の預言者である父、リヒターの死の真相を知り、その手にかけた犯人と会うことを望むパトリック。
 お互いに譲れない勝負が始まろうとしていた。

「お前が相手でも、私は本気でやる」
「兄上が優秀なのは分かっています。しかし、王太子になってこの国を守りたいという気持ちは、負けないと思っています」

 実力では、まだフォリオはパトリックには追いつけない。
 しかし、預言者のことを抜きにして、国のために王太子になりたいという気持ちが強いのはフォリオの方だ。

「王太子になりたいという気持ちが報酬のためだけであるならば、僕は兄上を王太子にするわけにはいきません」
「言うようになったな」

 痛いところを突いてくるな、とパトリックは苦笑する。

「では、私たちは正式にライバルだ。お互い手は抜かずにいこう」

 これまでは継承権争いに興味のなかった二人だが、今日この時をもってそれは終わりを告げた。

 それからパトリックは以前のように無理をすることはなくなり、王太子となるべく学園で勉学に励んでいるらしい。
 あと二年もすれば同じく学園に入学するフォリオも、気合を入れて王太子教育に励んでいる。

 そして、国王が婚約者を正式に定めるのを学園卒業後までと延長したことで、アヴェリアも学園に入学することが濃厚になってきたのだった。
 
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