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第13章 水面に映る乙女
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睡眠と食事をとり、少し落ち着いたパトリックは、約束通り城に一時帰還していた。
「此度はアヴェリア嬢の予言がなければ、取り返しのつかないことになるところだった」
国王は険しい顔で、目の前で膝をつき頭を下げるパトリックを叱責する。
「お前はリヒターの忘形見。その身にもしものことがあれば、リヒターに申しわけが立たぬ」
「……そう仰るのであれば、父上の死の真相を教えてくださってもよいではありませんか」
キッ、と顔を上げたパトリックは鋭い眼差しを国王に向ける。いく王太子候補といえど無礼な態度ではあったが、国王は咎めることはせず、代わりに側に控えていたアヴェリアに目配せする。
「今回の件を受けて、私も国王陛下も考えました。パトリック殿下、そしてフォリオ殿下が、このままではとても王位継承の件に集中できそうにありませんでしたから」
この場には、国王とアヴェリア、パトリック、そしてフォリオ。他には、ごくわずかな信頼できる護衛しかいない。重要な話をされるのだろうと、パトリックは険しい表情のまま、フォリオは不安そうに続く言葉を待った。
「先代の預言者であるリヒター様は、パトリック殿下が突き止められた通り、預言者を崇める者の手にかかって息絶えました」
それを聞いたパトリックは口を開こうとしたが、それを遮るようにアヴェリアが続ける。
「今、この場で何を聞かれても、これ以上のことはお話しできません。私の……預言者の命がかかっていますので」
そう言われてしまえば、パトリックも口を噤むしかない。
「しかし、正式に王太子に選ばれた方には、ある特権を与えることにいたしました」
今すぐに与えられないのは、王太子になるくらいの覚悟がないと開示できない重要な情報が含まれるからと前置きした。
その内容については、国王の口から直々に伝えられる。
「パトリックが王太子となった場合、リヒターの死の真相の情報開示と、犯人との面会を許可する」
ハッと、パトリックが息を呑む。
「そして、フォリオが王太子となった場合、禁じられた書庫への立ち入りを許可する」
フォリオは、その言葉に耳を疑った。本来ならば、国王にならなければ立ち入ることを許されない場所。それを、王太子になった段階で許可するというのだ。
「加えて、婚約者を正式に定めるのは学園を卒業するまで猶予する。ここまで譲歩すれば、王太子になるための努力を惜しみはしまいな?」
今回、パトリックが預言者に固執するあまり体調を崩したことで、国王は酷く心を痛めていた。パトリックの頑固さを知っているため、ただ口先だけで注意しても同じことを繰り返すだろうと予想できた。そのため、仕方なく報酬を提示することにしたのである。
ただし、それぞれが王太子になったときに得るものは別々にしたことで、競争心を高める狙いがあった。
それでも我儘を言うのであれば、二人とも王太子候補から外すことも考えていたが、そこは二人とも思いを汲み取ったようである。
「承知いたしました。これからは、王太子となるべく精進いたします」
「僕もです!!」
二人の王太子候補の返答を聞き、国王は頷く。
今後二度と同じ過ちを繰り返さないようにと釘をさしてから、二人には下がるように命じた。
「此度はアヴェリア嬢の予言がなければ、取り返しのつかないことになるところだった」
国王は険しい顔で、目の前で膝をつき頭を下げるパトリックを叱責する。
「お前はリヒターの忘形見。その身にもしものことがあれば、リヒターに申しわけが立たぬ」
「……そう仰るのであれば、父上の死の真相を教えてくださってもよいではありませんか」
キッ、と顔を上げたパトリックは鋭い眼差しを国王に向ける。いく王太子候補といえど無礼な態度ではあったが、国王は咎めることはせず、代わりに側に控えていたアヴェリアに目配せする。
「今回の件を受けて、私も国王陛下も考えました。パトリック殿下、そしてフォリオ殿下が、このままではとても王位継承の件に集中できそうにありませんでしたから」
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「先代の預言者であるリヒター様は、パトリック殿下が突き止められた通り、預言者を崇める者の手にかかって息絶えました」
それを聞いたパトリックは口を開こうとしたが、それを遮るようにアヴェリアが続ける。
「今、この場で何を聞かれても、これ以上のことはお話しできません。私の……預言者の命がかかっていますので」
そう言われてしまえば、パトリックも口を噤むしかない。
「しかし、正式に王太子に選ばれた方には、ある特権を与えることにいたしました」
今すぐに与えられないのは、王太子になるくらいの覚悟がないと開示できない重要な情報が含まれるからと前置きした。
その内容については、国王の口から直々に伝えられる。
「パトリックが王太子となった場合、リヒターの死の真相の情報開示と、犯人との面会を許可する」
ハッと、パトリックが息を呑む。
「そして、フォリオが王太子となった場合、禁じられた書庫への立ち入りを許可する」
フォリオは、その言葉に耳を疑った。本来ならば、国王にならなければ立ち入ることを許されない場所。それを、王太子になった段階で許可するというのだ。
「加えて、婚約者を正式に定めるのは学園を卒業するまで猶予する。ここまで譲歩すれば、王太子になるための努力を惜しみはしまいな?」
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ただし、それぞれが王太子になったときに得るものは別々にしたことで、競争心を高める狙いがあった。
それでも我儘を言うのであれば、二人とも王太子候補から外すことも考えていたが、そこは二人とも思いを汲み取ったようである。
「承知いたしました。これからは、王太子となるべく精進いたします」
「僕もです!!」
二人の王太子候補の返答を聞き、国王は頷く。
今後二度と同じ過ちを繰り返さないようにと釘をさしてから、二人には下がるように命じた。
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