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第13章 水面に映る乙女
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パトリックの元へ、アヴェリアが駆けつける数時間前ーー
国王に事情を説明し、生徒ではないが特別にファシアス王立学園内に入れてもらえることになったアヴェリア。フォリオも行くと言ったが、部外者の数を増やすのはよくない、と城で待機することになった。
学園についてすぐ、パトリックの居場所を探す。預言者であるアヴェリアの突然の登場に学園は一時ざわついたが、彼女と彼女の護衛たちの気迫におされて、自然と道が開くのだった。
その流れで、パトリックと同じく学園に通うハルサーシャが、アヴェリアがやってきたことを聞きつけ合流。
事情を話して、パトリックがよく行くという場所に案内してもらうことになった。
「リックの体調がよくないことは、俺も気がついていたんだ。図書室にこもって勉強をしているようだったが、あまりにも無理をしすぎていてな」
止めはしたが、大丈夫だからと聞いてもらえず、それ以上粘ることはしなかったという。
「アヴェリア嬢の予言を聞いて、もっと早く力ずくでも止めておくべきだったと悔やまれる。これでは、親友だなどと言えないな」
悔しそうに語るハルサーシャに、アヴェリアは首を横に振る。
「力ずくなどと、ハル様が手を出しては国際問題に発展しかねません。止めていただいたのに、聞かなかったパトリック殿下が悪いのですわ」
「アヴェリア嬢には感謝しかない。本当にパトリックが倒れる前に、助けることができる」
そうしている間に、目的の場所に辿り着いた。
図書室の重厚感ある両開きの扉を開けば、部屋の隅にある机に座り、分厚い本を積み上げたパトリックの背中が目に入る。
がたり、と椅子から立ち上がる。新しい本を取りに行こうとする体は、フラフラと揺れていた。
いつから、これほど頼りない背中になってしまったのだろう。一時は、フォリオを脅かすライバルとして肩を並べていたのに。
(今のご様子では、とてもパトリック殿下が王太子になる未来は見えません)
今回、予知の神がアヴェリアに予言をしたのも、このままではパトリックがフォリオの好敵手として機能せず、つまらない未来になってしまうことを危惧したからだった。
パトリックに近づき、予め用意してきた睡眠促進作用のある、甘い香りのする薬の瓶を開ける。
「(神から)話は聞かせていただきましたわ!!」
バランスを崩して倒れ込む寸前だったパトリックの体を、アヴェリアが受け止める。
「まったく……預言者に関わると、ろくなことがありませんのに」
すっかりやつれたパトリックは、アヴェリアの腕の中で死んだように眠っていた。
国王に事情を説明し、生徒ではないが特別にファシアス王立学園内に入れてもらえることになったアヴェリア。フォリオも行くと言ったが、部外者の数を増やすのはよくない、と城で待機することになった。
学園についてすぐ、パトリックの居場所を探す。預言者であるアヴェリアの突然の登場に学園は一時ざわついたが、彼女と彼女の護衛たちの気迫におされて、自然と道が開くのだった。
その流れで、パトリックと同じく学園に通うハルサーシャが、アヴェリアがやってきたことを聞きつけ合流。
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止めはしたが、大丈夫だからと聞いてもらえず、それ以上粘ることはしなかったという。
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悔しそうに語るハルサーシャに、アヴェリアは首を横に振る。
「力ずくなどと、ハル様が手を出しては国際問題に発展しかねません。止めていただいたのに、聞かなかったパトリック殿下が悪いのですわ」
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そうしている間に、目的の場所に辿り着いた。
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いつから、これほど頼りない背中になってしまったのだろう。一時は、フォリオを脅かすライバルとして肩を並べていたのに。
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パトリックに近づき、予め用意してきた睡眠促進作用のある、甘い香りのする薬の瓶を開ける。
「(神から)話は聞かせていただきましたわ!!」
バランスを崩して倒れ込む寸前だったパトリックの体を、アヴェリアが受け止める。
「まったく……預言者に関わると、ろくなことがありませんのに」
すっかりやつれたパトリックは、アヴェリアの腕の中で死んだように眠っていた。
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