ここからは私の独壇場です

桜花シキ

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第13章 水面に映る乙女

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 ファシアス王立学園、図書室。
 試験前には生徒で埋め尽くされるこの場所も、普段はほとんど人のいない静かな空間だ。
 閑散としている図書室に、毎日のように通う少年の姿があった。

(王立学園の図書室だけあって、預言者に関する書物もいくつか収められているが、代償に関する記述は一つもないな)

 入学してからほぼ毎日ここに通っているが、パトリックは未だ預言者を代償から救う手掛かりを掴めずにいた。
 父の死の謎を知ってからは、ますます預言者に執着している。代償に関することのみならず、預言者全般に関する情報を手当たり次第に収集していた。

(父上は、今や書物の中の人物になってしまったのか……)

 調べていく中で、先代の預言者であった父リヒターの写真を見つけることができた。
 生前、どれだけ素晴らしい人物だったのかが記されており、息子として誇らしく思う。
 しかし、その死の真相については、どの書物にも記録されていなかった。

(父上は、代償で亡くなったわけではない……アヴェリア嬢のことも気になるが、今は父上の死の真相を知りたい)

 王太子候補としての教育よりも、パトリックの興味は預言者にまつわる情報に向いていた。

 元々、王太子になることなど望んでいなかった。
 今代の預言者ーーアヴェリアにさえ興味をもたなければ、違った未来になっていたのかもしれない。
 王太子候補として挙げられることもなく、父の死に疑問を抱くこともなかっただろう。

(知ってしまったからには、もう後戻りはできない)

 調べてもなかなか見えてこない真実に苛立ちながらも、必ず父の死の真相を明らかにするという強い信念に従って突き進んでいた。
 それと同時に、自分の体にどれほど無理をさせているか判断できないほどには、視野が狭まっていた。

 最近、頭痛が続いている。こめかみに手を当てながら、それでも調べ物をする手を止めない。
 授業が終わって時間の許す限り、毎日のようにこんな生活をしている。まだ子どもであるパトリックにとって、それがどれほどの負担になっているのか、本人は気づこうとしない。

(まだ、あの棚は調べていなかったな)

 手元にある書籍に目ぼしい情報がないと分かると、次の本棚に視線を移す。取りに行こうと、立ち上がる。

 ふと、背後に人の気配を感じた。振り向くより早く、パトリックの耳に声が届いた。

「話は聞かせていただきましたわ!!」

 高らかに叫ぶ少女の声は、とても聞き覚えのあるものだった。
 ついに幻聴まで聞こえるようになったかと思ったのも束の間、甘い香りがしたかと思うとパトリックは気を失った。
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