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第12章 王の資質
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月日は流れ、十歳になったパトリックは明日、ファシアス王立学園に入学する。その祝いとして、アヴェリアは城を訪れていた。
「ご入学おめでとうございます、パトリック殿下」
「アヴェリア嬢、わざわざありがとう」
少し大人びたパトリックは、微笑みこそたたえているものの、どこか影を纏っているようだった。
「学園生活が、殿下にとって実りあるものでありますように」
「ファシアス王立学園は、最高峰の教育が受けられる機関。あらゆる知識を吸収してくるつもりだ」
その中には、預言者にまつわる内容も含まれているのだろう、と相変わらず執着する彼に対してアヴェリアは心の中でため息をつく。
「アヴェリア嬢も、あと二年もすれば入学だろう。そのときは、ぜひ案内させてほしい」
「まぁ、このまま現状が変わらなければ、ですが。もし入学となれば、お願いしますわ」
あと二年の間に、パトリックかフォリオか、正式な王太子が定まり、その運命の相手を見つけることができたならば。アヴェリアが入学するのは夢物語。
しかし、パトリックは真面目な顔で続ける。
「必ず、君は入学するんだ。私も、フォリオも、それを望んでいる」
「自分の将来は、自分で決めます。口出しは不要ですわ」
パトリックの強い口調にも動じずに、アヴェリアは淡々と自分の考えを述べる。
「なんだ、随分と二人で楽しそうに話しているではないか!」
重苦しい雰囲気を壊すように、朗々とした口調で間に入る者があった。
「「ハル(様)」」
パトリックと同じく、明日から王立学園に通うことになる、隣国ルーデアス王国の第三王子ハルサーシャ。
明日の入学式に備えて、前日のうちに入国していた。挨拶のために城を訪れたところ、二人と鉢合わせしたのだった。
「奇遇だな、アヴェリア嬢。なぜここに?」
「パトリック殿下に、入学のお祝いをと思いまして。ハル様も、ご入学おめでとうございます」
「ははは! 直接、貴女に祝ってもらえるとは。幸先がいいな!!」
とても嬉しそうに、ハルサーシャは満面の笑みで応じる。彼のアヴェリアに対する想いはずっと変わっていない。
「これからは、アヴェリア嬢に会える機会もふえる。楽しみで仕方がない」
「自分が留学してきた目的を忘れないでくれよ」
気持ちが昂っているハルサーシャを、パトリックが嗜める。
「そこは弁えている」
ファシアス王国で得た知識をルーデアス王国へ持ち帰り、自国を発展させたい。まだ幼くも、王族としての心構えができていた。
(自身が置かれた立場を受け入れて、高みを目指して邁進する……その点に関しては、パトリック様よりも、フォリオ様やハル様が優っているところですわね)
広い面での優秀さとしては、パトリックがフォリオやハルサーシャよりも優っているだろう。
しかし、パトリックは未だ王太子候補という立場を本心では受け入れておらず、預言者を代償から救うことしか頭にない。
フォリオも預言者に関しては諦めていないが、王太子としての覚悟は定まっている。
(覚悟さえ決まれば、パトリック様が王太子という可能性も高まるのですが)
初めこそパトリックに傾きそうだった天秤も、今は不安定な釣り合いを保っている。
「難しい顔をして、どうした?」
考え込むアヴェリアに、心配そうにハルサーシャが尋ねる。
「いえ、お二人が学園でどのように成長されるのか、とても楽しみだと思いまして」
願わくば、パトリックが王太子として相応しい人柄を身につけてくれれば。
預言者として、アヴェリアは自分に与えられた使命を思うのだった。
「ご入学おめでとうございます、パトリック殿下」
「アヴェリア嬢、わざわざありがとう」
少し大人びたパトリックは、微笑みこそたたえているものの、どこか影を纏っているようだった。
「学園生活が、殿下にとって実りあるものでありますように」
「ファシアス王立学園は、最高峰の教育が受けられる機関。あらゆる知識を吸収してくるつもりだ」
その中には、預言者にまつわる内容も含まれているのだろう、と相変わらず執着する彼に対してアヴェリアは心の中でため息をつく。
「アヴェリア嬢も、あと二年もすれば入学だろう。そのときは、ぜひ案内させてほしい」
「まぁ、このまま現状が変わらなければ、ですが。もし入学となれば、お願いしますわ」
あと二年の間に、パトリックかフォリオか、正式な王太子が定まり、その運命の相手を見つけることができたならば。アヴェリアが入学するのは夢物語。
しかし、パトリックは真面目な顔で続ける。
「必ず、君は入学するんだ。私も、フォリオも、それを望んでいる」
「自分の将来は、自分で決めます。口出しは不要ですわ」
パトリックの強い口調にも動じずに、アヴェリアは淡々と自分の考えを述べる。
「なんだ、随分と二人で楽しそうに話しているではないか!」
重苦しい雰囲気を壊すように、朗々とした口調で間に入る者があった。
「「ハル(様)」」
パトリックと同じく、明日から王立学園に通うことになる、隣国ルーデアス王国の第三王子ハルサーシャ。
明日の入学式に備えて、前日のうちに入国していた。挨拶のために城を訪れたところ、二人と鉢合わせしたのだった。
「奇遇だな、アヴェリア嬢。なぜここに?」
「パトリック殿下に、入学のお祝いをと思いまして。ハル様も、ご入学おめでとうございます」
「ははは! 直接、貴女に祝ってもらえるとは。幸先がいいな!!」
とても嬉しそうに、ハルサーシャは満面の笑みで応じる。彼のアヴェリアに対する想いはずっと変わっていない。
「これからは、アヴェリア嬢に会える機会もふえる。楽しみで仕方がない」
「自分が留学してきた目的を忘れないでくれよ」
気持ちが昂っているハルサーシャを、パトリックが嗜める。
「そこは弁えている」
ファシアス王国で得た知識をルーデアス王国へ持ち帰り、自国を発展させたい。まだ幼くも、王族としての心構えができていた。
(自身が置かれた立場を受け入れて、高みを目指して邁進する……その点に関しては、パトリック様よりも、フォリオ様やハル様が優っているところですわね)
広い面での優秀さとしては、パトリックがフォリオやハルサーシャよりも優っているだろう。
しかし、パトリックは未だ王太子候補という立場を本心では受け入れておらず、預言者を代償から救うことしか頭にない。
フォリオも預言者に関しては諦めていないが、王太子としての覚悟は定まっている。
(覚悟さえ決まれば、パトリック様が王太子という可能性も高まるのですが)
初めこそパトリックに傾きそうだった天秤も、今は不安定な釣り合いを保っている。
「難しい顔をして、どうした?」
考え込むアヴェリアに、心配そうにハルサーシャが尋ねる。
「いえ、お二人が学園でどのように成長されるのか、とても楽しみだと思いまして」
願わくば、パトリックが王太子として相応しい人柄を身につけてくれれば。
預言者として、アヴェリアは自分に与えられた使命を思うのだった。
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